―34― 策略

「ユレンがっ、ダンジョンボス撃破に貢献しただと!」


 メルカデル邸にて、メルカデル伯爵家当主でありユレンの父親でもあるエルンスト・メルカデルは使用人の報告に怒鳴り声をあげていた。


「一体どうなってやがる!」


 そう叫んでは、地団駄を踏む。

 こんなことあってはならない。実家を追放したユレンが活躍していると噂が広まれば、自分の慧眼が疑われる。

 そうなってしまえば、今後のメルカデル家の沽券に関わる問題だ。


「絶対になにか不正しているはずだ」

「しかし、現状証拠がありません」

「ギルドマスターが賄賂を受け取っているとか、メルカデル家の家名を使って脅しているとか色々考えられるだろ」

「ええ、ですから、様々な可能性を考えた上で、捜査しているのですが、証拠がみつからないのです」


 使用人の言葉にエルンストは歯ぎしりをする。


「ユレンはそれほど、立ち回りがうまいのか」

「その片鱗は確かにあったかと」


 メルカデルの頭には、ユレンが実は強かったなんて考えは微塵も思い至らない。それほど、錬金術師というジョブは戦闘に向かないとして知られている。

 と、そのとき、扉をノックする音が聞こえた。

 入ってきたのは、もう一人の息子のイマノルだった。


「今日の訓練の報告に参りました」

「そうか」


 と、頷きつつ、ふと、気になる疑問が頭に浮かぶ。


「そうだ、イマノル。今、レベルはいくつだ?」

「はい、レベルはすでに45です」


 順調だ。

 この短期間でレベルを45まであげるなんて、流石ジョブが剣聖なだけはある。


「いい感じだな」

「ありかどうございます、お父様」


 そう言って、イマノルを見て、ふと妙案が浮かぶ。


「なぁ、イマノル。ユレンの噂は知っているか?」

「ユレンが、次々と高レベルのモンスターを撃破しているという噂ですよね」

「あぁ、そのことだ」

「ですが、そんなの嘘に決まっています。なにせ、ユレンはまだレベルが1のようですからね」

「なに? ユレンはレベルが1なのか?」

「ええ、そうみたいですよ」


 イマノルが頷いたのを見て、使用人のほうを見る。


「確かに、彼を〈鑑定〉した者から話を聞いてみたところ、ユレンさんのレベルは1だったという報告があがっています」


 使用人の補足を聞いて、エルンストはユレンが活躍しているという噂が嘘なんだという確信をより強める。


「よしっ、いいことを思いついたぞ」


 ニタリ、とエルンストは悪い笑みを浮かべた。


「なぁ、イマノル。ユレンと決闘をしてみるってのはどうだ?」

「ははっ、僕は剣聖ですよ。錬金術師のユレンと戦ったら、ただの弱いもの虐めになってしまいますよ」

「だからこそだよ。ユレンが弱いってことを衆目を集めた中で証明すれば、ユレンの功績もすべてが嘘だと証明されるだろ」

「なるほど、確かにその通りですね」


 イマノルも悪い笑みを浮かべた。


「よしっ、そういうことだ。今すぐ、決闘する場を整えて、周知させろ。大勢の前で、ユレンに恥をかかせてやる」


 そう言って、使用人に指示を出す。

 使用人は了承すると急いで、部屋の外へ出た。


「イマノル、ただ勝つんじゃないぞ。圧倒的な力を見せつけた上で勝つんだ」

「ええ、元よりそのつもりですよ。お父様」


 そう言って、二人は笑った。


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