―33― 慢心

「まだこんなもんで終わりじゃないよなぁ」


 子鬼ノ王ゴブリン・キングに呼びかける。

 この程度の攻撃で子鬼ノ王ゴブリン・キングがやられるはずがない。その確信があった。


「グギュウウッ!!」


 呻き声を鳴らしたながら子鬼ノ王ゴブリン・キングが立ち上がる。

 しかし、体がボロボロなせいなのか、立ち上がるだけでも非常に苦労していた。

 それを俺はわざわざ待ってやる。

 立ち上がっている途中に攻撃をするなんて卑怯だからな。


「おい、なにをやっている! 今のうちにとどめを刺せ!」


 ふと、叫び声が聞こえた。

 叫んでいたのは、大剣使いのジョナスだった。

 うるさいなぁ、と思いつつ無視をする。


「くそっ、こうなったら、俺がとどめを刺す!」


 そう言って、ジョナスが立ち上がって、子鬼ノ王ゴブリン・キングに突撃する。


「邪魔をするな」


 そう言って、〈繰糸の指輪〉で伸ばした糸をジョナスの片足にひっかけて地面に転がす。

 狙い通り、ジョナスは前方にビタンッ、と顔をぶつけていた。


「どういうつもりだ?」


 ジョナスが俺を睨みながら文句を言う。


「俺と子鬼ノ王ゴブリン・キングの戦いの邪魔をするな」

「だがッ! あいつは満身創痍だ。今のうちにとどめを刺さないでどうする!?」

「それをしたらおもしろくないだろ」

「……は?」

「俺はおもしろいことを優先する。だから、今は子鬼ノ王ゴブリン・キングが回復するのを待つ」

「ふざけるなっ! そんなことをしたら、最悪俺たちが死ぬかもしれないだろ!」


 確かに、ここでとどめを刺さなければ、回復した子鬼ノ王ゴブリン・キングが他の冒険者たちを殺す可能性は十分ありうる。


「だからこそ、いいんじゃないか。お前たちの命を俺が預かる。俺が負けたら、お前らが死ぬ。この緊張感は、中々体験する機会がない。だからこそ、大事にしないとなぁ」

「つきあってられるかッ!」


 立ち上がったジョナスが大剣をもって子鬼ノ王ゴブリン・キングへと再び突撃をした。


「はぁ」


 思わず、ため息。


「死ねぇえええええええええええ!!」


 ジョナスは大剣を振り上げて、渾身の一撃を放とうとする。


「仕方がないか」


 そう言って、俺は〈繰糸の指輪〉を使って、子鬼ノ王ゴブリン・キングのほうへと糸を粘着させて、自分を引き寄せることで高速移動をする。


「バーカ、どう見ても動けないフリをしているに決まっているじゃん」


 ジョナスが迫った直後、子鬼ノ王ゴブリン・キングがニタリと笑みを浮かべて、棍棒を振りかざす。

 まさか攻撃されると思っていなかったジョナスにとっては、完全に不意をつかれる形になっていた。


「〈パリイ〉」


 だから、俺が間に割りこんで、子鬼ノ王ゴブリン・キングの棍棒を短剣で受け流してやる。

 すると、うまいぐあいにジョナスの攻撃が子鬼ノ王ゴブリン・キングに当たった。


「グボビッ!」


 おかしな呻き声をあげて、子鬼ノ王ゴブリン・キングは壁へと激突する。

 流石、大剣使いの一撃といったところか。軽傷とはいかず、壁に激突した子鬼ノ王ゴブリン・キングはガクリと意識を落としていた。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 レベル上昇に伴う経験値を獲得しましたが、〈呪いの腕輪〉の影響で、レベル1に固定されました。

 SPを獲得しました。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 ステータスウィンドウが表示される。

 今度こそ、無事に倒すことに成功したらしい。

 

「気がついていたのか?」


 ジョナスが俺を見て、そう言った。

 子鬼ノ王ゴブリン・キングが動けないフリをしていたことに対して、言っているんだろ。


「まぁな」


『ゲーム』で時々、子鬼ノ王ゴブリン・キングがああいった戦法をとることを何度も経験していた。

 だからこそ、予想できたわけだが。


「そうか、ありがとうよ。だが、そうならそうと素直に言ってくれたら納得できたんだがな」


 別に、ジョナスに言った言葉は本心に違いなかったからな。

 できれば、子鬼ノ王ゴブリン・キングとはもっと戦いたかった。


「おい、宝箱があるぞ」


 誰かがそう口にする。

 そうか、ダンジョンをクリアしたわけだから、なんらかの報酬が手に入るのは必然か。

 中に入っていたのは、金貨や武器に防具など、いくつものアイテムが入っていた。

 どれも一級品のアイテムばかりだ。

 複数人で攻略した以上、山分けとなるのが道理だが、今回はどうするつもりだろうか。


「ユレン、お前が最初に好きな分持って行っていいぞ」


 と、ジョナスが言った。


「いいのか?」

「お前が一番の功労者だからな。皆も文句ないはずだ」


 そう言うと、他の冒険者たちも黙って肯定する。

 まぁ、そういうことなら、と思い、宝箱にあるものを物色する。

 とはいえ、強い武器や防具にはあまり興味がない。とはいえ、なにも貰わないのももったいない気がするので、物色はするが。


「これがいいな」


 手に取ったのは一冊の書物。

〈鑑定〉を使うと、こんな表記が現れる。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


〈進化の書〉

 レベルがMAXになったスキルを上位スキルに進化させる。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 これなら、なにかしらに役に立ちそうだ。


「それだけでいいのか? 他のも持っていっていいぞ」

「いえ、これだけで遠慮しておきます」

「そうか、随分と謙虚なんだな」


 謙虚というか、ただ欲しいと思わなかっただけなんだけどな。

 それから、他の冒険者たちが報酬をわけあった後、現れた転移陣を使うと、無事外に出ることができた。


「それじゃあ、改めてになるが、本当にありがとう。君のおかげで、ここにいるみんなが救われた」

「いえ、当然のことをしたまでです」


 それから、ジョナス以外の冒険者たちにもお礼を言われた。

 そして、冒険者ギルドにも無事帰還した旨の報告を行なった。


「そうか、ユレン殿の尽力によって、ボスモンスターを撃破したのか。このことは上にもきちんと報告しておこう」


 ジョナスが詳細について語ると、ギルドマスターがそう言った。


「恐らく、これだけユレン殿が活躍したとの証言があれば、例の疑いも晴れるはずだ。明日にもユレン殿が換金できるよう手はずを整えることをここに約束しよう」

「いえ、ありがとうございます」


 高レベルモンスターをレベル1の俺が倒せるはずがないという疑いのせいで、素材を持っていっても換金できない状態にある。

 だが、今回の活躍で俺の実力も証明されたことだし、その疑いも晴れるに違いない。


 そんなわけで、ダンジョンに関する騒動は無事、幕を下ろしたのだった。


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