―32― 圧倒

 どうやら当たりを引いたらしい。

 それはゲートをくぐった瞬間にわかった。

 くぐった先は開けたドーム状の空間になっていたからだ。

 恐らく、そこにボスモンスターがいるに違いない。


 中に入って気がつく。

 どうやら先行した冒険者たちと戦っていたらしく、周囲一帯には倒れた冒険者たちがいる。

 意識を失っているだけで、まだ生きている者も多い。


「フィーニャ、上級回復薬を渡すから、全員に配ってやれ」

「了解したのじゃ!」


 そう言って、上級回復薬を必要な分、フィーニャに手渡す。


「それで、おぬしはどうするんじゃ?」


 上級回復薬を受け取ったフィーニャが尋ねた。


「そりゃ、あれと戦うに決まっているじゃん」


 眼前には、俺を見てニヤけた表情をした子鬼ノ王ゴブリン・キングの姿が。

 子鬼ノ王ゴブリン・キングか、いいねぇ大物だ。

 倒しがいがある。


「それじゃあ、俺と遊ぼうか」

「グヘッ!」


 瞬間、子鬼ノ王ゴブリン・キングが俺の元に飛び込んで棍棒を振り回す。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 SP18ポイントを消費して、〈パリイLV1〉を獲得しました。

 SP248ポイントを消費して、〈パリイLV4〉にレベルアップさせました。


 △△△△△△△△△△△△△△△


〈パリイ〉とは、剣を使って物理攻撃受け流すことできるスキル。

 しかし、発動させるタイミングが非常に繊細で、成功させるには難易度が高いことでも知られている。

 剣士系のジョブなら、スキルポイントを2消費するのみで〈パリイ〉を獲得することできるが、俺は錬金術師という生産系ジョブなため、18という決して少なくないスキルポイントを消費する必要がある。

 とはいえ、それだけ消費して獲得する価値はある。

 レベル4まであげた〈パリイ〉なら、子鬼ノ王ゴブリン・キングの攻撃を受け流すことができるはずだから。

 タイミングさえ間違えなければ、という前提はもろちんあるが。


「〈パリイ〉」


 そう言って、俺はナイフで、子鬼ノ王ゴブリン・キングの棍棒を受け流す。


「あっ」


 と、声を漏らしたのにはわけがある。

 パリン、とナイフが砕け散ってしまったからだ。

 どうやらナイフそのものが攻撃に耐えることが難しいらしい。

 ナイフは武器の中で最も脆弱だから、仕方がないと思う反面、まいったなぁとも思ってしまう。

 だって――


「これでは『ナイフ縛り』ができないではないか」


 せっかく、今まで剣ではなくずっとナイフを使っていたというのに。


「グギャッッ!!」


 ナイフを失った俺を見て、子鬼ノ王ゴブリン・キングが次なる一撃を俺に食らわそうとする。

 仕方がない、あれを使うか。


「鋼竜の短剣」


 そう言って、〈アイテムボックス〉から短剣を取り出す。

 この短剣は、鋼鱗竜アセーロドラゴンの鱗を素材にスキル〈加工〉を用いて生成したもの。

 念のため作っておいたが早速役に立つとはな。

 ちなみに、鋼竜の短剣の効果はこう。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


〈鋼竜の短剣〉

 攻撃力プラス274


 △△△△△△△△△△△△△△△


 レベル1段階の俺の攻撃力が45ってことを考えると、いかにこの短剣の攻撃力がすさまじいかわかるだろう。


「〈パリィ〉」


 鋼竜の短剣を使って、〈パリイ〉をする。

 よしっ、ナイフと違って鋼竜の短剣が砕けることはないな。

 再び、子鬼ノ王ゴブリン・キングが棍棒を振り回す。それを短剣で〈パリイ〉すべく構えた――フリをした。

 子鬼ノ王ゴブリン・キングは相手にダメージを与えられるまで、大ぶりの攻撃を繰り返すことは『ゲーム』にて知っていた。

 だから、三回目〈パリイ〉するフリをして、短剣を手放す。

 突然、手を離れて自分に向かってくる短剣に子鬼ノ王ゴブリン・キングはギョッとした表情をしながら、もう片方の手で防ごうとする。

 とはいえ、もう一方の棍棒を握った手は俺を狙って振りかざしていた。

 なので、〈繰糸の指輪〉を使って真後ろに高速移動。

〈アイテムボックス〉から弓矢を取り出して猛毒矢を放つ。

 さらに、弓矢を〈アイテムボックス〉に収納と同時に、閃光筒を取り出し放り投げる。

 子鬼ノ王ゴブリン・キングは矢を防ぐことに集中しており、閃光筒のことまで意識が回らない。

 閃光筒から光が放たれる一瞬だけ目をつむって、俺は〈繰糸の指輪〉で子鬼ノ王ゴブリン・キングの近くに躍り出た。

 閃光筒の光によって、目が眩んでいる子鬼ノ王ゴブリン・キングは、俺が接近していることに気がつかない。

〈アイテムボックス〉には鋼竜の短剣がいくつも収納してある。

 だから、〈アイテム切り替え〉をつかって、手に短剣を収めると、それを横に薙ぐように切り裂く。

 狙うは両目。


「きひっ!」

「グギャァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


 両目を切り裂かれた子鬼ノ王ゴブリン・キングは発狂する。

 こんなふうに発狂されたら、攻撃してくれと自分で言っているようもんだ。

 だから、口の中に手投げ爆弾を押し込んでやった。

 ドガンッ! 子鬼ノ王ゴブリン・キングの口の中から爆発音が響く。

 そして、ドサッと子鬼ノ王ゴブリン・キングは真後ろに倒れた。



「なにが、起きているんだ……?」


 目の前で起きている事象に、ジョナスは信じられないものを見る目で見ていた。

 なぜか、レベル1の冒険者が子鬼ノ王ゴブリン・キング相手に圧倒している。


「強いじゃろう。わらわのあるじは」


 見ると、横にはフードをかぶった少女が自慢するように語っていた。

 少女はさっきまで上級回復薬を他の冒険者たちに配っていたため、ここに来たということはもう配り終えたのだろう。


「あれは、何者なんだ……?」


 思わず曖昧な質問を少女に尋ねてしまう。


「ジョブは錬金術師だといっておったなぁ」

「それは知っている……」

「おぉ、そうか、知っておったか」


 ケラケラと少女は笑う。


「なんで、あんなに強いんだ?」

「さぁな? それは、わらわにもわからん」

「そうか……」

「ただ、あやつは『縛りプレイ』をしていると言っておったから、それが強さに関係しているのかもしれんのう」


 縛りプレイ、なんだそれは? と、ジョナスは思った。

 それからジョナスは、ただ黙ってユレンの戦いぶりを見ていた。

 ユレンから繰り出される猛攻に子鬼ノ王ゴブリン・キングはただなすがままにやられている。

 そして、ほどなくして、子鬼ノ王ゴブリン・キングは倒れた。


 ユレンの圧倒的強さに、ジョナスは心の内から震えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る