―27― 編成
翌日、冒険者ギルドに行くといつもと違う雰囲気が漂っていることが一目でわかった。
どの冒険者もギラギラとした目つきをさせて、緊張感を漂わせている。
ジョナスが言っていたとおり、やはり未知のダンジョンへの調査隊が組まれるらしい。
「それでは、今よりこの町に新しく誕生したダンジョンの調査隊派遣に関する集会を始める」
キルドマスターが壇上にあがって、そう宣言した。
「未知のダンジョンはどの程度の難易度でどんなモンスターがいるのかわからないことが多々ある。ゆえに、万全を期して挑む必要がある。それにはおぬしたち冒険者の力がなによりも必要だ!」
そうギルドマスターが言うと、興奮した冒険者たちが「うおぉおお!」と雄叫びをあげていた。
「それでは、今より調査隊を編成する。編成に加わりたい者は挙手を」
おっ、やっとこのときがきたか。
もちろん、俺は迷いなく挙手をする。
「ただし、調査隊に加われるものはレベル100以上のCランク冒険者とする」
「……は?」
その場でずっこけそうになった。
レベル100以上の冒険者のみとかレベル1の俺に対する当てつけなんじゃないかと疑いたくなるな。
レベル100の冒険者はそれなりにいるらしく、数十名ほど手をあげてはギルドマスターの元に集まっている。
とはいえ、この程度で諦めるつもりは毛頭ない。それに、調査隊に入るには条件があることぐらい予想はできた。
だから、自分を入れてもらうよう交渉しようとギルドマスターのいるところに赴いた。
「ギルドマスター。俺も調査隊に加えてもらいたいんですが」
「ユレン殿か。すまないが、未知のダンジョンという都合上レベル100以上の冒険者しか参加させるつもりがない」
「これを見ても同じことを言えますか?」
そう言って、アイテムボックスから俺は上級回復薬を大量に取り出す。
「おぉ、なんということだ!」
「上級回復薬がこんなにあるの見たこともねぇぞ」
「確か、一個買うだけでもレベル100以上のモンスターの素材と同等の価値があったよな」
そう、上級回復薬というのは非常に貴重だ。
というのも、上級回復薬を作れる錬金術師がレベル上げを苦手としているため、レベル上げしないと獲得できないスキルポイントも溜められず、ほとんどの錬金術師が〈調合〉のスキルをレベル4まであげることができないのが現状だ。
ゆえに、〈調合〉のレベルが4でないと作ることができない上級回復薬は滅多に市場に出回らないため、その分高価になるわけだ。
「こんなに上級回復があったら、ダンジョン攻略とか余裕じゃねぇかよ。すげぇな、坊主」
一人の冒険者が興奮を隠さずにまくし立てる。
「もちろん、これらの上級回復薬をダンジョン攻略に役立ててかまいません。ただし一つだけ条件があります」
「その条件とはなにかね?」
「俺を調査隊に加えてください」
そう言うと、ギルドマスター「うむー、どうしたものか……」と悩み始めた。
「俺はこいつを連れて行っても大丈夫だと思うぜ」
助け船を出してくれたのは、以前俺と決闘したジョナスだった。
「こいつのレベルは確かに1だが、実力があるのは以前俺と決闘したときに証明している。それに、これだけの上級回復薬を提供してくれるというんだ。回復職としてはこれほどの人材はいないと思うぜ」
俺を評価してくれるのはありがたいが、回復職という言葉にひっかかりを覚える。俺はモンスターと一番戦える可能性のある前衛がいいんだが。
「他の皆もこいつがついて行くことに異論ないよな?」
ジョナスは他の面々にも同意を求める。
「確かに、あの坊主ジョナスさんといい試合してたしな」
「俺たちの回復に専念してくれるなら、危険は少ないだろうし問題ないと思うぜ」
「ジョナスさんがそう言うなら、俺はなにも言わないぜ」
と、多くの冒険者が賛同した。
「そういうことだ。ギルドマスター、悪いがこいつをダンジョンに連れて行くぜ」
「皆がそういうなら私からはなにも言いませんよ」
最後にはギルドマスターも納得してくれた。
「良かったな、ユレン」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
「別に礼なんていらないぜ。俺はお前を連れて行くことが全員にとって利益になると思っただけだ。その分、お前には働いてもらうぜ」
「ええ、もとよりそのつもりです」
「ははっ、そうか、そうか」
ジョナスは大口を開けて笑った。
そこに一人の少女が駆け寄ってきた。
「おい、わらわも当然、ダンジョンに連れていくんだろうな」
その少女はフィーニャのことだった。
「なんだ、この子は?」
「おい、嬢ちゃんは家で大人しくしていな」
「そうだ、そうだ! 家で大人しくパパの帰りでも待ちなー!」
フィーニャを見た冒険者たちが各々好き勝手言いたいことを口にする。
「おい、わらわを子供扱いするな! わらわはこう見えて、おぬしらより年上だぞ!」
と、フィーニャが反論するが誰も聞いていなかったようで、特に反応はなかった。
「こいつ、俺がテイムしているモンスターなんですけど、もちろんダンジョンに連れて行ってもいいですよね」
「あん? どう見ても人にしか見えないが、本当にモンスターなのか?」
ジョナスがいぶかしげにフィーニャのことを観察する。
実際には、フィーニャとはまだ契約していないので、テイムしているというわけではないのだが、似たようなもんだし問題ないだろう。
「それに鑑定すればわかりますが、レベルも100を超えているので問題ないはずですよ」
「そうなのか。おっ、本当にレベル100超えているな。そういうことなら、問題ないぞ」
「ふふんっ、これでわらわも一緒に行くことができるぞ」
フィーニャが自慢げに鼻を高くしていた。
「まぁ、フィーニャは家でお留守番でもよかったんだがな」
「ひどいことを言うなぁ。わらわとおぬしは一心同体と言ったではないか。おぬしのいるところに、わらわありじゃ」
「そうか」と軽く受け流す。
俺としては自分がダンジョンに行ければ、あとはどうだっていい。
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