―28― パーティー殺し

「それでは今より未知のダンジョンに突入するぞ。各自準備はいいか!」


 ジョナスが先頭に立って、皆に号令を出す。

 周囲には一般市民たちが集まり、冒険者たちに応援を送っていた。


「「おう!」」


 と、冒険者たちが返事をする。

 結局、未知のダンジョンに突入するのは俺とフィーニャを含めて、ざっと20名ほどだった。

 これほどの大人数でダンジョンを攻略することは滅多にないので、それだけ未知のダンジョンに対して慎重なんだろう。


「それでは行くぞ!」


 そう言って、ジョナスを先頭に次々とダンジョンの入り口を潜っていく。

 最後尾は俺とフィーニャだから、皆が入っていくのを確認してから俺たちは中に入った。


 俺が遊んでいた『ゲーム』、『ファンタジア・ヒストリア』でもダンジョンはあった。

『ゲーム』ではダンジョンごとに出現するモンスターの性質が変わるなど、様々な特徴があった。

 恐らく、このダンジョンもなんらかの特徴があるはずだ。

 さて、このダンジョンは一体どんなダンジョンなんだろうか。


「あれ?」


 そう疑問を口にしたのにはわけがある。

 なぜなら、目の前には誰も人がいなかったからだ。

 すかさず後ろを振り向く。出入り口が見当たらない。


「なるほど、一度入ったら出ることができないタイプのダンジョンか」


 ダンジョンの外とダンジョン内部は直接つながっているわけではない。ダンジョンの入り口はワームホールのような仕組みになっており、入り口をくぐると別の場所へと飛ばされる。

 ただし、ほとんどのダンジョンは入り口から入っても、反対側からくぐれば外に出られるようになっている。

 しかし、このダンジョンはこうして振り向いても壁があるだけで、外に出られるようなゲートは存在しない。

 ってことは、外に出るには二つの手段があるというわけで。

 一つはダンジョンのボスを倒して外に出る。

 もう一つは、外に出られるゲートを探す。

 前者についてはダンジョンというのは、ボスを倒せば外に出られるような仕組みになっているため、確証がある。

 しかし、後者に関してはダンジョンごとにまちまちなため、絶対にあると断言はできない。


「そして、もう一つの問題は、俺以外がなぜ存在しないかだよな」


 俺たちは20名ほど冒険者たちと一緒に、ダンジョンの中に入った。

 だが、実際には、周りに誰もいない。


「『ゲーム』でも、似たようなダンジョンがあったな」


 複数名で入っても、バラバラの位置に飛ばされてしまうダンジョン。通称、『パーティー殺し』。


「考えなくてはいけないのは、他のみんなが同じダンジョンに飛ばされたのか、全く違うダンジョンに飛ばされたかだな」


 同じダンジョンに飛ばされたとしたら、探せばどこかにいるはず。

 逆に、それぞれ違うダンジョンに飛ばされたとしたら、一人でこのダンジョンを攻略する必要がでてくる。


「いいねぇ、心が躍ってきた」


 未知のダンジョンはイレギュラーがつきもの。

 これこそ、俺が求めていたものに違いない。





 ダンジョンというのは迷宮になっており、複雑に通路が入り組んでる。

 そのため、進んだ通路を記録して地図をつくっていくというマッピングという作業が大事になってくる。

 もしも、すでに誰かが攻略したダンジョンなら、地図を入手できるかもしれないが、ここは新しいダンジョンゆえに、自分の足で稼いで地図を作っていく必要がある。


「ギャオ!」


 前方を見ると、子鬼ゴブリンがいた。

 子鬼ゴブリンは最弱のモンスターだが侮ってはいけない。確実にしとめるべく、慎重にナイフをふるって急所を切り裂く。

 すると、子鬼ゴブリンは倒れたので素材を、〈アイテムボックス〉に収納していく。

 それから、何度かモンスターと遭遇するが子鬼ゴブリンばかり。


「難易度としては優しい部類のダンジョンなのか?」


 もしかすると、ソロでの活動を強制させられるという性質があるため、出現するモンスターは易しめに設定されているのかもしれない。


「と、下に続く階段だな」


 ダンジョンというのは大方下に潜れば潜るほど強いモンスターと遭遇するようになっている。

 そして、最下層には必ずボスモンスターがいる。


「さて、下に潜るべきかどうか悩みどころだな」


 もしかすると、この階層に他の冒険者がいる可能性も高いため、もう少しこの階層を見て回るべきだろうか、という考えが頭に浮かぶ。

 とはいえ、すでにこの階層をそれなりに見て回った。それでも、他の冒険者と遭遇することはなかったので、この階層にはいない可能性のほうが高いか。

 なので、下の階層へと続く階段を降りる。


「次は、コボルトか」


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


コボルト

 LV:5

 二足歩行する狼型のモンスター。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 一応〈鑑定〉しておくが、やはりレベルは子鬼ゴブリンと変わらず大したことはない。

 なので、確実に仕留めていく。


「ソロを強制させるってこと以外は、問題がなさそうなダンジョンだな」


 俺は普段からソロなので、ソロになっても特になんとも思わない。

 しかし、回復職等の後衛にいるような冒険者はソロだと苦労するかもしれないな。


「少し、強いモンスターが現れたな」


 5階層まで行くと、ダンジョンの雰囲気が変わった。

 今まで比べて難易度があがったのだ。


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


人喰鬼オーク

 LV:25

 巨体な肉体を持つ人食い鬼。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 今までのモンスターに比べたら強いが、たかがレベル25だ。

 瞬殺とはいかないが、毒属性を付与したナイフで十分倒せるモンスターだ。


「ゴウッ!」


 人喰鬼オークが棍棒を振り下ろす。

 それより先に〈繰糸の指輪〉で天井に張り付いてからの落下しながら背後を切り裂く。


「ウガァアアアアアッッ!!」


 人喰鬼オークは奇声を発した。

 レベル1の俺は攻撃力が低いため、ナイフで切り裂いたダメージは微々たるものだ。

 だが、毒のダメージは致命傷になりうる。

 まだ意識が残っている人喰鬼オークは闇雲に棍棒を振り回す。しかし、あまりにも攻撃が雑すぎてよけることが容易い。


「ゴボバァッ!」


 そして、気がつけば人喰鬼オークは泡を吹いてその場に倒れた。毒が体中に回ったのだろう。


「この程度のモンスターなら、特に問題ないな」


 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 レベル上昇に伴う経験値を獲得しましたが、〈呪いの腕輪〉の影響で、レベル1に固定されました。

 SPを獲得しました。


 △△△△△△△△△△△△△△△


 メッセージウィンドウが表示される。


「もう少し強いモンスターが現れないとやりがいがないなぁ」


 ふと、そんなことを思った。


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