―25― 新しいダンジョン

「うまいのー!」


 翌日、フィーニャと共にお昼を食べるべく、レストランに向かった。

 そこでフィーニャはパスタをおいしそうに頬張っている。


「もっと、ゆっくり食え」

「むーっ、こんなおいしいもの初めて食べるからなー。つい、急いで食べてしまったのう」


 まぁ、モンスターとして暮らしていたフィーニャにとっては、こう調理された食べ物を食べる機会はそんなになかったに違いない。


「あと、食べている最中に話すな。口の中見せられるこっちの気にもなれ」

「むっ、それはすまぬ」


 そう言ったフィーニャは黙って咀嚼し始める。

 そして、食べてたのを飲み込むと口をあけた。


「なー、ユレンは次はなにを狩る予定なのだー?」

「そうだな……。今、モンスターを狩っても換金してもらえないからな」


 お金のために冒険者をやっているわけではないが、お金がなければ生活を続けていくのは厳しい。

 やはり衣食住に困らない程度のお金を稼ぐ必要はどうしてもある。


「ダンジョンにでも行くか」

「おーっ、ダンジョンか」


 とはいえ、この町にはダンジョンがない。確か、隣町まで行けばダンジョンがあったはず。

 隣町まで行くのは遠いが、今はフィーニャの足があるし、行くのはそう苦労しないはず。

 それに、隣町にまで俺の情報が出回っているとは思えないし、それなら問題なく換金もできるはずだ。

 と、そこまで頭の中で考えがまとまったとき――。

 ドドドッ、と地面が揺れた。


「おい、この揺れは一体なんじゃ!?」


 驚いたフィーニャが慌てる。


「落ち着け」


 そう言いつつ、周囲を警戒する。この程度の揺れでは建物が倒壊する心配もなさそうだ。

 その読みは当たり、間もなく揺れが収まる。


「地震とは随分と珍しいのう」

「そうだな」


 と、言いつつ何事もなかったかのように食事に戻る。

 そして、食べ終わってからフィーニャと共に、レストランを出た。


「おい、新しいダンジョンができたみたいだぞ!」


 と、叫びながら走っている男性がいた。

 新しいダンジョンだと。

 そうか、さっきの揺れはダンジョンが新しくできた際に起こったものだったのか。


「急ぐぞフィーニャ!」


 そう言うや否や走り出す。恐らく、男性が走ってきた方向にダンジョンがあるはず。


「待つのじゃ! 食後だから、走るのが辛いのだ!」


 文句を言いつつもフィーニャはしっかりついてきていた。

 それから街の外れに、大きな神殿のような建物が建っていた。

 その周りには、人だかりができており、たくさんの見物人がいた。

 これが新しくできたダンジョンなんだろう。

 人だかりをなんとか押しのけて前に進む。すると、ダンジョンの入り口らしきところに出た。

 入り口を見つけた俺は間髪いれずに中に入ろうとする。


「おい、なに勝手に入ろうとしてるんだ?」


 腕で行く手を遮られた。

 顔を上げると、そこにいたのは以前決闘した大剣使いのジョナスだった。


「中に入りたいんだが」

「ダメに決まっているだろ。新しくできたダンジョンがどれほど危険なのか、まだわからないんだ。そう安々と中に人を入れるわけにいかない」


 ちっ、危険だからこそ中に入りたいんだよ。


「どうやったら、中に入れる?」

「あぁ、そうだな。恐らく、明日には調査隊が組まれる。それで危険なダンジョンでないとわかれば、中に入れると思うぜ」


 なるほどな。

 ダンジョンというのは、レベルに見合ってない冒険者が勝手に入っていかないように、入り口で制限がかけられている。

 もし、難易度がそこまで高くないダンジョンだとわかったなら、レベル1の俺でも入ることができるというわけか。

 しかし、それだとつまらないな。

 難易度がわからないダンジョンを潜る経験なんて滅多に味わえない。

 どんなモンスターが出現するかわからない以上、あらゆる事態に備える必要がある。その上で慎重に攻略する。

 それは非常にそそる案件だ。


「俺も調査隊に入れてもらいたいんだが」

「おいおい、新人のお前が調査隊に選ばれるわけがないだろ。おいっ、だからって、無理矢理入ろうとするな」

「ちっ」


 ジョナスを押しのけて中に入ろうとしたが、俺の力では歯が立たなかった。


「はぁ、お前は本当に戦うのが好きみたいだな」


 呆れた様子で、ジョナスがそう言う。


「明日、冒険者ギルドで調査隊を募る予定だ。強く希望すれば、入れるかもしれないぞ」

「そうか、情報ありがとう」


 ここで押し問答しても仕方がないので、大人しく引き下がる。

 しかし、未知のダンジョンか。

 楽しみになってきたな。

 そうと決まれば、明日に備えて準備をしようか。


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