―18― 事後処理

「ひとまず、ユレン殿は安静をとって家に帰ってくれるか?」


 冒険者ギルド内にて。

 ギルドマスターが俺に対してそう言った。


大顎ノ恐竜ティラノサウリオの換金はしてくれないんですか?」


 そう言った俺の口調はどことなくふて腐れていた。

 せっかくジョナスと戦っていい感じに体も温まってきたというのに、無理矢理戦闘をやめさせられたのだ。

 正直不満だ。

 文句を言ったら、ジョナスが「怪我をしているのに、戦いを続けていいわけがないだろ」と怒られた。

 あの程度の怪我、別になんともなかったのだが。


「ふむ、少し上と相談してから決めることになりますので、今日中にお金をお渡しするのは難しいかと。明日までにはなんとかなると思いますので、それまでお待ちいただければ」

「……まぁ、わかりました」


 別に、お金に困っているわけではないので問題ない。


「お前に実力があることは十分わかったし、素材が奪われたっていう被害がでているわけでもない。だから、問題なくお金は受け取れると思うぜ」


 と、ジョナスが擁護してくれる。

 どうやら、さっきの決闘で敗北をしたが、実力は認めてもらえたようだ。まぁ、俺はまだ戦いを続けることができるので、負けたとは思っていないが。


「それにしても、ユレンさんが大顎ノ恐竜ティラノサウリオを倒したとしても、ユレンさんのレベルが1のままなのはおかしくないですか? 大顎ノ恐竜ティラノサウリオぐらい強い魔物を倒せば、レベルはあがりそうですけど」


 と、受付嬢が疑問を口にする。

 すると、他の面々も「確かにそうだな」と頷いていた。

 まぁ、隠すつもりもないので、正直に言おうか。


「それは、僕があえてレベル1になるようアイテムで固定しているからですよ」


 そう言って、俺は腕につけている〈呪いの腕輪〉を見せる。


「レベル1になるアイテムですか? えっと、あえて弱くなるってことですよね? そのアイテムをつけて、なんのメリットがあるんですか?」


 受付嬢が首を傾げてそう尋ねてきた。

 まぁ、当然の疑問だな、と思いつつ俺は質問に答えた。


「弱くなったほうが、戦ってて楽しいじゃないですか」

「……え?」


 なぜだが、受付嬢は固まっていた。

 どうやら僕の言葉は伝わらなかったようだ。





「おい、なに勝手に部屋に入ってこようとしているんだよ」


 冒険者ギルドを後にして、俺はまっすぐ宿屋に向かうことにした。

 そして、自分の部屋の扉を閉めようとして――。


「わらわも中にいれろ!」


 幼女に化けた銀妖狐プラタックスが部屋に入ってこようとしてきたのだ。


「契約はしないと言っただろ」

「おぬしはする気がなくとも、わらわはその気なのだ。おぬしがいくら否定しようが、わらわは絶対に諦めないぞ!」

「ともかく、部屋には入ってくるな」

「いやだ! わらわ他に行くとこないからな。なんとしてでも、この部屋に入るぞ!」


 扉を無理矢理閉めようとするが、銀妖狐プラタックスが抵抗する。

 小さいくせに力はあるようで、中々扉をしめることができない。

 と、そんなふうに大声で騒いでいると、他の部屋で泊まっている人たちが何事か、と部屋からでてきた。

 どうやら目立ってしまったようだ。

 端からみたら、大人の俺が子供を虐めているように見えるよな。

 このまま銀妖狐プラタックスといざこざを起こすわけにもいかないか。


「はぁ」


 ため息をついた俺は諦め混じりに、こう言った。


「とりあえず、中で話を聞こうか」





「それで、なんでそんなに俺と契約したいんだよ」


 部屋にはいった俺はベッドに腰掛けていた。

 対面には、椅子に座っている銀妖狐プラタックスが。

 まるで、面接をこれからするみたいだなぁ、とか思わないこともない。そんなことを考えたせいか、銀妖狐プラタックスもどことなく緊張しているように見える。


「前も言ったであろう。わらわはおぬしを助けた。おぬしはわらわを助けた。これ以上の契りはない。ゆえに、わらわはおぬしの側にいることを決めた」

「それが意味わかんないだよなぁ。それって、モンスター特有の価値観なのか?」

「モンスターというよりかは、わらわの母の教えじゃな。もし、この人なら仕えてもいいという冒険者と出会ったなら進んで契約しろと言っておった」


 そんなこと聞いても「だから、なんだ」という感想しかでてこない。


「前も言ったが、俺は一人で戦いたい。だから、お前と契約する理由がない」

「ならば、わらわは戦闘には参加せん。これでよいか?」

「戦闘しないモンスターと契約して、俺はなにか恩恵を得ることができるのか?」

「わらわの背中に乗って移動すれば快適だぞ。馬車を借りる必要なくなるし、馬車よりも速く移動できる」


 ふふん、と鼻を鳴らして銀妖狐プラタックスがそう言った。


「どうじゃ? わらわと契約したくなったじゃろ?」


 したり顔で俺の顔を覗いてくる。

 まぁ、確かに便利ではあるな。ぶっちゃけ馬車移動面倒だし、今より早く移動できるなら、遠くの森にいってそこにいるモンスターを狩ることもできそうだ。

 ただ、契約すると即答することはできなかった。

 なんていうか、この調子で契約したら、こいつの口車に乗せられたみたいで、腹が立つ。


「……契約はしない」

「むっ、なぜじゃ!」


 銀妖狐プラタックスが声を荒げる。


「ただ、乗り物として雇ってやる。だから、給料はちゃんと払うし、食事も宿代も払ってやる」

「むぅ」


 俺の答えが気に入らなかったようで、銀妖狐プラタックスは頬を膨らませていた。


「まぁ、今はそれで妥協するとしようかのう。そのうち、時がくれば、わらわと契約する日がくるであろう」

「そんな日は一生来ないぞ」

「まぁ、いい。そうだ、おぬしの名前、まだ聞いてなかったな」


 そういえば、まだ言ってなかったかもしれない。


「ユレンだ」

「そうか。わらわの名はフィーニャじゃ。わらわの名をとくとその心に刻むとよい」


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