―17― 決闘
決闘は冒険者ギルド前にある広場に行われることになった。
「俺は準備できているから、いつでも始めていいぜ」
対面に立っているジョナスがそう口にする。
その周囲には、他の冒険者たちが取り囲むように立っていた。
冒険者同士の決闘なんて珍しい催しなので、みんな興味があるようで自然とこれだけの人数が集まってしまったのだ。
「おいおい、ジョナスさんと戦うあのガキは誰なんだ?」
「なんか最近、冒険者になった新入りみたいですよ。レベルもまだ1みたいですし」
「なんで、そんなやつがジョナスさんと決闘するんだよ」
「どうやらレベルに見合わない強いモンスターを狩ってきたそうで、本当に本人が狩ったのか証明するために決闘をするみたいですよ」
「ふーん、随分と変わったことをするもんだなぁ」
「まぁ、でもあの新人がジョナスさんに勝てるわけがないだろ」
「それは、そうすっよね。てか、うちのギルド使っている冒険者で、ジョナスさんに勝てる人は一人もいないでしょ」
なんて会話が耳に入ってくる。
やはり、噂通り目の前にいるジョナスはこの辺りの冒険者では一番強いことで間違いないようだ。
一応、ジョナスのことを〈鑑定〉しておこうか。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
〈ジョナス・ランゲージ〉
ジョブ:大剣使い
レベル:287
△△△△△△△△△△△△△△△
レベル200超えといっていたが、実際には300近いじゃないか。
「いいねぇ、最高にたぎってきた」
相手が強ければ強いほど、なぜか興奮してくる。
理由はわからないが、そういう体質なんだから仕方がない。
「それじゃ、始めようか」
◆
ジョナス・ランゲージはこの地区ではそれなりの実力者として知られている。
そして、自身もそう自負していた。
冒険者の実力はレベルに比例する。
自分のレベルは287。
この辺りで活動している冒険者の中では最高のレベルだ。
だから、ジョナスは強い者の使命として、新人の教育や相談に積極的にのっている。
冒険者というのは常に死と隣り合わせの仕事だ。
だが、自分の実力を把握し、そのレベルに見合った狩りをすれば、命を落とすことは滅多にない。
だから、ユレンのことが気がかりだった。
〈錬金術師〉という戦闘に向いていない不遇職。
どちらかというと生産に向いているジョブだ。
とはいえ、たまにそういった不遇職でも冒険者になろうとする若者はいる。
けれど、そういった若者はモンスター相手に戦えないという現実に直面し、すぐに辞めていく。
だから、ユレンもすぐ辞めるだろうと思っていた。
彼は〈アイテムボックス〉というレアスキルを持っているようだが、それなら冒険者になるより商人になって大量の荷物を町から町へと運んだ方が、ずっと実入りがいいはずだ。
なので、こうしてユレンと決闘することになったことが、いまいち納得できないでいた。
どうせこの決闘は勝負にすらならないだろう。
それがジョナスの思いだった。
なぜ、彼が
「ぐへへっ」
不気味な笑い声を聞こえた。
「――は?」
瞬きした次の瞬間には、ユレンが目の前へと移動してきていた。
一体どんなトリックを使えば、こんな高速に移動できるのか想像すらできない。
キラリ、となにかが太陽に反射していた。
光の正体は、糸のようなものだった。
この糸が、ユレンが一瞬のうちに移動したことと関係あるんだろうか? 考えてもわからない。
それよりも、迫ってきたユレンに対して、防御の体勢をとるほうが先か。
そう判断して、大剣を横に突き出し、ユレンの持っているナイフから身を守る。
カツン、と音が響いた。
ユレンのナイフと大剣が接触した音だ。
今ので、ユレンの攻撃力は大したことがないことを悟る。ナイフの接触があまりにも弱々しかった。
だから、恐れる必要はないと判断したその瞬間――
ドンッ、と爆発音が鼓膜を突き破った。
なにが起きたのか一瞬では判断がつかない。
〈手投げ爆弾〉だと――?
そのことに、数秒経ってやっと気がつく。
〈手投げ爆弾〉とは、随分珍しい武器だ。
攻撃力がその人のステータス値に依存しないため、貧弱なダメージしか出すことができず、攻撃力が極端に低いヒーラー職がたまに持つ武器として知られている。
それでも〈手投げ爆弾〉は非常に扱うのが難しい。投げても当てるのにも練度が必要だし、爆発のタイミングを計算して投げる必要もある。
それに、下手に爆発させて味方を巻き込んでしまうこともあるため、慎重に使う必要がある。
あぁ、そういえば、この男は錬金術師だったか。
それなら、〈手投げ爆弾〉をスキルで量産することも可能だった。それなら、〈手投げ爆弾〉を使うのも自然ではあるのか。
「うっ」
と、爆発をもろに受けたせいで怯んでしまう。
とはいえ、自分には高い防御力がある。無傷とは流石にいかないが、この程度なら大した支障はない。
「とらえた――!」
ふと、目の前にナイフを片手に突っ込んでくるユレンの姿が目に入る。
まずいっ、そう思いつつ、構えようとして間に合わないことに気がつく。
〈手投げ爆弾〉はあくまでも目くらましで、本命の攻撃はこれだったのだ。
このナイフを受けてはいけない。
ジョナスの直感がそう判断した。
「〈シールドラッシュ〉」
だから、スキルを使った。
〈シールドラッシュ〉。敵の攻撃に対し、自動で大剣を横に構えて防御する。その上、防御と同時に相手を弾き飛ばす効果もある。
ジョナスが持っているスキルの中で、最も使いやすくかつ強力なスキル。
スキルによって弾き飛ばされたユレンは後方へと吹き飛ばされ壁に激突する。
「おい、大丈夫か!?」
反射的にそう叫んでいた。
レベル1の冒険者相手に使っていいスキルではない。明らかに過剰防衛だ。下手したら、殺してしまってもおかしくない。
壁に激突したユレンは頭でもうったのだろうか血を流して石のように動かなかない。
すぐにもでも回復職にお願いして、治癒をしてもらわないと。
そう思った、矢先――。
カクリ、とユレンが体が動いた。
「あはははははははははっ」
この場に似つかわしくない乾いた笑い声。
誰もが、その笑い声を不気味だと思った。
「いいね、いいね、いいねぇ! やっぱり簡単に勝てたら、楽しくないもんなーっ! きひひっ、もっと遊ぼうぜぇ、おっさん」
「おい、それ以上動くな! 傷口が広がるだろ!」
「やだ」
ユレンは血だらけの体をものともしないで、戦闘の構えをとる。
こいつとはもう戦いたくない!
それが、ジョナスの心の底からでた叫びだった。
相手のレベルは1でかつ全身血だらけ。順当に戦えば、ジョナスが勝つのは誰にも明らか。
そして、それをジョナスが一番理解していた。
それでも、ユレンと戦うのは嫌だった。
負けそうだから嫌だというわけではない。
不気味。
それがユレンに抱いた感情だ。
こんな不気味な相手とこれ以上戦うと、自分の精神が壊れてしまうんじゃないか、そんな予感がしたのだ。
初めてジョナスは冒険者に対して、底の知れない恐怖を覚えていた。
「ボブ! ジョン! デニス! あいつをとめろ!」
観戦していた冒険者にそう命じる。
どの冒険者たちも腕には自信がある者たちだ。具体的な名前を呼んで命じたのは、そのほうが咄嗟に動いてくれるだろうと判断したから。
そして、ジョナスの思惑通り、三人の冒険者はユレンを覆い被されるようして拘束した。
流石に、三人相手ではどうすることもできなかったらしい。
「おい、おまえら! 戦いの邪魔をするな! 俺はまだ負けてない!」
ユレンがなにか叫んでいたが無視することにする。
「おい、誰かあいつ治癒をしてやれ」
そう言って、ジョナスはこの戦いを締めたのだった。
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