―14― 一か八か

「みーつけった♪」


 茂みの中に身を隠しながら、双眼鏡を覗きながらそう口にする。

 レンズの先には、当然大顎ノ恐竜ティラノサウリオの姿が。


「それじゃ、狩りの時間としゃれこもうか」


 手にするのは弓矢。

 それも〈猛毒矢〉を使っている。

 狙うは大顎ノ恐竜ティラノサウリオの目。

 目はどんな生物にとっても弱点であり、そして毒が最も効きやすい部位でもある。

 外す予感は一切ない。

 ヒュン、と風を切る音と共に矢が放たれザシュッと目に直撃した。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」


 顎を上にあげての咆哮。

 次の瞬間、俺の位置を捉えた大顎ノ恐竜ティラノサウリオはこっちへと猛進してくる。

 大顎ノ恐竜ティラノサウリオの攻撃手段は主に、突進とジャンプ、そして、長いしっぽを使ったなぎ払い。

 火を口から吐くような遠距離の攻撃手段は持たない。

 だから、近づかれさえしなければ攻撃が当たることはない。

 ただ、大顎ノ恐竜ティラノサウリオは巨体な体を持ちながらも、強靱な二本足をもって縦横無尽に移動することが可能だ。

 だから普通の二本足では、その速度についていくことは難しい。

 そこで役に立つのが〈繰糸の指輪〉。

〈繰糸の指輪〉を使って、後方に糸を伸ばし、木に粘着させる。そして、次の瞬間、糸を引き寄せることで自分の体を木の位置まで素早く移動させる。

 こういう使い方をすることで、通常よりも何倍も早い移動が可能になるわけだ。

 さらに、糸に引っ張られて移動している最中にも、矢を構えて弓を引き絞る。そして、弓を引いた。

 ザシュッ、と矢が大顎ノ恐竜ティラノサウリオの側面に当たる。

 矢そのものの攻撃力はその人自身の攻撃力のステータスに依存するため、レベル1の俺が放った矢では大したダメージを与えることはできない。

 だが、毒ダメージは確実に蓄積していく。

 そして、攻撃力がその人のステータスに依存しない武器〈手投げ爆弾〉をすかさず投げて、さらにダメージを与えていく。

 順調だ。

 この調子でダメージを与え続けていけば、いずれ倒すことができる。

 やるべきことは単純。

 全ての攻撃を避けて、こちらの攻撃を与え続ければいずれは勝てる。


「どうしても長期戦になるのはさけられないか」


 俺の攻撃力が貧弱すぎるがゆえに、与えられるダメージがほんのわずかなせいで、どうしたって倒すのに時間がかかる。


「長く楽しめると思えば、むしろメリットだよなぁ!」


 レベルが高ければ、強い攻撃力をもって、一撃で倒せるのかもしれない。

 けれど、それってすごくつまらないと思う!

 まさに、この長期戦こそが『縛りプレイ』の醍醐味だ。

 だから、今、最高に楽しい。





「あはっ、3時間も戦っているのに、全然倒れる気配ないじゃん!」


 眼前には大顎のノ恐竜ティラノサウリオ姿が。

 たくさん攻撃したはずなのに、まだピンピンしていやがる。

 対して、俺の体力はもう限界。

 

「なら、一か八かの攻撃にうってでようか」


 決まれば大顎ノ恐竜ティラノサウリオに致命傷を負わすことができる。逆に失敗すれば、俺が致命傷を負う。

 そういう攻撃。

 失敗する確率のほうがめちゃくちゃ高い。

 けれど、やらないという選択肢は俺にはない。

 だって、成功するか失敗するかわからないドキドキって最高にワクワクするから!


「それじゃ、いきますかっ!」


 左手を前に突き出し、中指にはめている〈繰糸の指輪〉を見せびらかす。

 そして、糸を大顎ノ恐竜ティラノサウリオの頭上に粘着させた。

 から、糸を引き寄せて一瞬で、大顎ノ恐竜ティラノサウリオの眼前へと躍り出る。


「グガァアアアアアアアッッッ!!!」


 怒り狂った大顎ノ恐竜ティラノサウリオが俺を潰そうと、木に突進する。


「お口の中ががら空きだぜ」


 俺は〈手投げ爆弾〉を大顎ノ恐竜ティラノサウリオの口に投げ入れた。その数、全部で5個!


「ウゴォオオオオオオオオオオオオッッッッ!!」


 体内が爆発した大顎ノ恐竜ティラノサウリオは呻き声をあげて、その場で暴れ始める。

 暴れるといっても、その場でジタバタと土煙を舞い上がらせるわけではない。

 大顎ノ恐竜ティラノサウリオの巨体が暴れたら、周りの木々が倒壊し、地形が変わり、空気が振動で揺れ動く。

 ゆえに、大顎ノ恐竜ティラノサウリオに至近距離まで接近していた俺が巻き込まれないわけがなかった。

 とはいえ、こうなることはわかっていたことだ。

 吹き飛ばされた俺は、受け身をとる体勢で地面へと追突させられた。

 致命傷だ。

 全身の骨が何本も折れたな。

 これ以上、戦うのはしんどそうだ。

 とはいえ、あれだけの攻撃をしたんだ。大顎ノ恐竜ティラノサウリオが無事なはずがない。


「クゴォオオオオオオオッッッ!!」


 雄叫びが聞こえた。

 そして、大顎ノ恐竜ティラノサウリオは口から煙を吐きながらも、俺の前へと悠然とした立ち姿で現れた。

 どうやら、俺の一撃は致命傷にはほど遠かったらしい。


「あははっ、これはまいった! 俺、大ピンチじゃん!」


 自分は満身創痍。敵はまだ万全。

 これはピンチとしか言い表せない状況だ。


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