#07 永遠と楽器屋(追想) ―TELE◯ASTER―

 そして一週間ほど経って。


「……と、いうわけでね、明日ギターを取りに行くことになっちゃったんだけど、明日は楽器屋に行く、でいいかな?」

「うん、明日は元々永遠とわの行きたいところに行く番だし、私はいいよ。……あ、そういえば広大こうだいも久々に三人で遊びたいってさっきメッセ飛んできたんだけど、一緒でもいい?」

「あ、そうなんだ。もちろんいいよ。ってか三人一緒って久しぶり」

「おけおけ。じゃあ広大には返しとくから。明日永遠の家の前に着いたらまた連絡する」


 ツナとのビデオトークを切って、早速明日の準備に取り掛かる。

 というのも、ギターをお店に預けた時に、他に持ってるギターの画像を『ギターガレージ』の二人に見せたんだけど、ある画像を見せたら、二人して急に目の色を変えて、


「こ、これって……今度来る時に見せてもらえませんか?」


って言われちゃったから。それは、パパから送られた五本目のギターで、ヘッド部分に『Fe◯der TELE◯ASTER』って書いてある、お世辞にも綺麗とは言い難いギター。今までにもらったそれと違うのは、これ、パパが使ってたやつ。つまりお古ってこと。だから、ピックガードには最初からアイヴィーのステッカーが貼られてる。お古だけど、パパが使ってたもの、ってだけで私的わたしてきにはとっても大事なギター。

 そんな、言ってしまえば『年季の入りまくったギター』を見たいってことは。あまりにもアレだから直そうか? って魂胆なのかな。お金ないって言ってあるのに。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 『ギターガレージ』が入っている雑居ビルの前で、あんぐりと口を開けているツナとコーちゃん。まぁそれも無理はないかも。というのも、お世辞にも綺麗とはいえない、むしろ怪しさマックスの細長いビル――とはいえうちのマンションより低い――なんだから。というかこのビルは私も心配になるくらいボロい。


「永遠……マジここ降りてくのかよ?」

「なにコーちゃん。ビビってる? もしかして」

「んなことねーし。永遠になんかあったら大変だろ」

「大丈夫だよ、先週も来てるから。店員さんいい人だよ?」


 って言ってもまだ懐疑的な面持ちのコーちゃん。体の割に、昔から変なところで慎重だ。でもそれがいいところでもあるけど。

 そんなビビリのコーちゃんと、その腕に引っ付いて離れないツナを横目に、ゆっくり階段を降りていく。


「店長こんにちはー」

「お、永遠ちゃん……あ、そうか、今日だったね」

「はい。あと、お約束したギター、持ってきました」

「ありがとね、ジミヘンのわがまま聞いてもらっちゃって」


 そんな会話の最中も、ツナは『だいじょぶなのこの店? ってかジミヘンって誰?』とか言って小さくなってるし、コーちゃんはコーちゃんで妙にテンションあがってる。店内を移動してはこのギターかっけーとかシッブーとか言ってる。少なくともコーちゃんはこの店、気に入ったみたいでよかった。さっきまでビビってたクセに、ね。


「いえいえ、約束しましたから」

「じゃあ、調整できたギタームス◯ング持ってくるから、先に防音室行ってて。あ、そのギターも預かるね」

「はい、お願いします」


 防音室は狭いから二人は待っててと告げて、私は店奥へ。二人は向かいのカフェで待ってると言って店を出ていくんだけど、コーちゃんはなんかお名残惜しそうにして、それをツナが無理やり引っ張っていった。どんまいコーちゃん。


 防音室の重たいドアがガチャリと開いて、店長とフミヤさんが預けたムス◯ングのケースを持って入ってきた。


「こんにちは神代かみしろさん。さて、さっそく調整が済んだコレ、弾いてみてください」


 先週よりもちょっとだけにこやかなフミヤさんにムス◯ングを手渡されて、早速アンプに繋げる。まずはAのコードをジャーンと鳴らしてみた。

 ……あれ? なんか音が飛び出てくるというか、音が一音一音粒々しいというか……とにかく先週よりも『いい音』で鳴ってる? 不思議に思ってアンプのセッティングを見ても先週と全く同じだ。


 そんな私の様子を、うんうんと無言で頷くフミヤさんと店長。もう『してやったり』って顔してる。

 だったら、と、先週ここで弾いたフレーズを再演すると、もう明らかに音が艶やかで伸びもあるし、なんというか『音が前に飛び出してくる』。


 うわーこれヤバい、気持ちいい音だ!


「どうですか、神代さん?」


 はやく応えてよ! って催促顔してるフミヤさんに、


「す、すごいです! とにかく弾きやすいし、音も……なんて言っていいかわからないんですけど、気持ちいいです! こんなに変わるものなんですね!」


 と、興奮気味に返した私。そりゃ興奮もしますよ。いい音だもん。


「はい、ここまで変わります。……ふぅ、よかったぁ気に入ってもらえて」


 フミヤさんは私の賞賛に安堵したのか、ヘナヘナと膝を崩す。と、すぐにキリッと立ち直り、ムス◯ングにどういうことをしたのか教えてくれた。


「まずは調整として、ネックの反り……僅かですが順反りしていたのでまっすぐに。あとはブリッジの調整。そして金属パーツの清掃」

「……」

「次に、内部配線材の交換。これは元々のでも良かったんですが、より高品質の線材に交換。あとは各パーツのハンダも◯ESTER44で付け直しました。ポット類やコンデンサは、オリジナルのまま」

「……」

「それとフレットの擦り合わせと――」


(な、長い……)


 熱弁を嬉々として奮うフミヤさんの言ってること、正直ほぼわかりません。ですが、とにかく目一杯調整してくれたんだなってのは私でもわかりますよ。


「――といった感じです。つまり、極力オリジナルを活かしつつ、より良く仕上げた、というわけです」

「……はい! ありがとうございます(よくわからないけど)」


 じゃあそろそろムス◯ングは仕舞おうか、と手をこちらに差し伸べる店長にムーちゃん(今命名した)を渡す。そして一呼吸おいたフミヤさんが口を開く。


「ではムス◯ングはこれでお終いです。……で、さきほど預かったもう一つのギターのことですが。店長すいませんが持ってきてください」


 小さく頷いた店長は、ムーちゃんケースを持って出て、すぐに今日持参したギターを大事そうに抱えて戻ってきた。


「これは、ムス◯ングと同じく、フェ◯ダーのテレ◯ャスターというギターです。ご存じですか?」

「はい、それは聞いてるので知ってます」

「……いくつか聞きたいことがあるのですが、答えづらいのであれば言わなくても構いません……これはやはりお父様から?」

「……はい、そうです」


 そう答えると、うーんと頭を捻ったフミヤさんの口から出た言葉は、とんでもないことだった。そして私は自分のことも話すハメになったんだ。

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