会うとて、語るとて

 ギンススタケの書斎に行った日から、二週間ほど経ち、年が明けようとしていた。もうすぐ新学期だ。コウロゼンの通う学舎は、年が明けてすぐに再開する。文机に肘をつき、やりかけの課題を放置したまま、窓の外に降りしきる雪を眺めていた。雪を見ながら、学舎の授業のことを漠然と考える。ふと、コウロゼンは友人たちを思った。大多数の生徒には、政権を握る武家の子というだけで、壁をつくられてしまうため、自分らしくいられる数少ない友人は貴重だった。彼らは元気だろうか。疲れていたが友人に会いたくなってきた。まったく進まない宗教の課題をもって、友人の一人に会いに行くことにした。仕えの者たちには、疲れているから年越しは一人で過ごすと言ってしまった手前、遭遇するのは避けたかった。雪が降っているため服を着こんで、雪の中静かに外に出る。雪が音を吸ってしまったようで、外はとても静かだった。自分の息の吐く音と、雪を踏む音だけが耳に入った。この世界に自分しかいないかのような不思議な感覚に襲われる。不安になって、歩を速めると、大きな寺が見えてきた。そここそ由緒ある寺の一人息子、ショウザンの家だ。大きな木造の寺は、雪の上にずっしりと建ち、厳めしい雰囲気を醸し出していた。戸を叩くと、出てきた使い者がショウザンを呼んでくれた。

「コウロゼン!」

数週間ぶりに聞く友人の声に思わず口角が上がる。

「ちょうど君に手紙でも出そうかと思っていたんだ!こんな雪の中来たのかい?」

ショウザンは散髪したようで、耳まであった黒髪は短くなっていた。年越しを一緒に過ごそうという仕えたちの誘いを断ったせいで、静かに屋敷を出なければならなかったという話をすると、彼は大笑いして、そりゃ見つかったら気まずいなあと膝をたたいた。上がって暖炉の火にあたれよ、というショウザンの後について客間に入り、菓子を食べていると、ショウザンの父親が見に来た。大きな寺の偉い坊というと怖そうな雰囲気だが、コウロゼンにも普通の少年のように接してくれた。

「やあ、一人で来たのかい?」

コウロゼンが、はいと答えると、

「こんな吹雪の中?」

と驚いた。

「吹雪?」

思わずコウロゼンとショウザンが窓掛けを上げて、外を確認すると、吹雪いていた。

「来たときは、雪が降ってるだけで‥」

「じゃあ今日はぼくんちに泊って行けよ!な、父さんいいよな!」

ショウザンが興奮した声で言う。

「そうだな、彼は学舎の課題も持ってきてるみたいだし」

ショウザンの父が、鞄からはみでた真っ白なままの課題をみて苦笑いしながら言う。その後夕飯をとり、布団にもぐると、学舎の授業のことや、面白かった教諭の話、そして将来の話をした。遅くまで二人は話し続けた。お互いをうらやんだり、慰めあったりしているうちに、眠ってしまったようだ。コウロゼンは、窓掛けの隙間から差し込んでくる、まぶしい冬の朝日に目を覚ました。年が、明けていた。

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