第7話 治療中
……あれ?今なんか……違う場所の光景が見えたような?あれは――陽菜と……ってあれ?俺は何をしているんだった?って違うよ。そうそう。単に陽菜の事を触れていたんだよな。
ちなみにだが、先程まで俺が一緒に居た後輩。陽菜とはなんやかんやで3年ほどの付き合いだ。島に来てすぐくらいか。その頃から仲良くしている。
1人っ子だった俺なんだが。陽菜のおかげというのか。陽菜のせいでか。どうやら世話焼きになってしまったらしい。
だから今も上野に手を洗ってこいとか。まあそんなことになっているんだろうな。
ちなみに陽奈に初めて会ったときがだな。って、こんな話より。消毒液消毒液だったな。確かこのあたりにあったはず――この前ズッコケた陽奈にも使ったはずだし。とか思っていたら手のひらサイズのボトルを発見した。
「あー、あったあった」
俺が消毒液を見つけるとちょうど洗面所から足音がして上野が戻ってきた。
「……」
どうやらハンカチは持っていたらしく。ハンカチで手を拭きながらこちらへと上野は戻って来た。そして不思議そう?いや警戒して?まあとりあえず俺を見ていた。
俺はというと。なかなかこちらに来ない上野に対して、いやだってよ。治療と言えばこっちに来てもらわないとだろ?ってことで。特に上野の心境など考えもせずに。
「ちょっと手出せ」
「……えっ?いや、ホント……これくらいなら……」
俺が言うと上野は俺と距離を取ったというか。適度な距離を取ったままだったのだが……手の怪我が気になっていた俺は。
「いいから。椅子に座って手を出す。治療できないだろうが」
「……はい」
再度俺が言うと上野はおとなしく。でもちょっと警戒しつつという感じで、俺に近寄ってきた。
そしてやっと来た上野に対して俺は椅子を上野の前に置き。座るように指示した。椅子に上野そっと座ると。どうしよう?みたいな感じだったので。
「はい。手を出す」
再度俺が言うと。渋々?という表現が正しいかはわからないが。とりあえず上野は怪我している方の手を前に出してきたので、俺は上野の手を掴み。ティッシュを適当に取り。液が垂れないようにして消毒液をかけた。
「……!?ちょ。って……っしみる……」
俺が手を掴んだ際にビクッというのか。ちょっと逃げようとした感じがあったが。
消毒液がしみたのか。すぐに痛み?と耐えているような表情に上野はなっていた。
「まあしみるわな。って、これ……なんか刺さってないか?」
「えっ?」
俺は上野の手をしっかり掴み再確認した。
「ちょ……」
「うん?なんだよ」
俺が上野の手を近くで見ようとすると……なんか嫌う?みたいな反応があったが。
「な、なんでも――ない」
なんか上野が変な反応を一瞬したが。すぐに何でもないと言ったので。俺はそのことは気にせずにちょっと上野の指のところをよく見ると……出血しているのとは別に……細い木?が刺さっていた。地味に痛そう。
「これ……木かなんか刺さってるよな?」
「……嘘?」
上野はそう言いながら自分でも自分の手を確認していた。
「ホントだ。もうしばらく椅子に座ってろ。抜いてやるから」
俺は上野にそう言い次はピンセットを探し出した。
いや1人暮しだからな。なんか使えそうなものはこの島に来る時に実家から持ってきたからそれなりにはあるんだよ。すでに陽菜のためにいろいろ使った気がするが……ってほら、あったあった。ピンセット発見。
ピンセットを手に持った俺は再度上野の前に移動した。
「動くなよ。身を挟むとだしな。それこそ痛いだろうし」
「……」
今度の上野は無言でというか。なんか驚いた顔?をしつつ俺に従っている。なに?ピンセット持っているのが珍しかったか?とか思いつつ。再度上野の手を掴み。
「……」
カチ……カチ……。
何度か小さな音が部屋にしている。これはピンセットの音。俺が木?と思われるものを掴み損ねている状況である。いや小さくてね。なかなかつかめないんだよ。
「……あー、くそ。細いな。おまけに見にくいし……掴めん」
俺が言いつつピンセットを動かしていると。
「……痛っ」
「あっ、悪い。身挟んだ」
ちょっと手元が狂ったらしい。悪い。と思いつつ続行。
「……無理ならいいけど。そんなに気にならないし」
「待て待て……あとちょっと……ほら、掴め……た。よし。掴めた……よしよし……」
それから俺が上野の手に刺さっていた木の破片?と思われるものをゆっくり抜いてみると……細いがなかなかの長さがある木?が刺さっていた。木?だと思うが確証がなくてね。とりあえず細い何かだったな。
俺が細い物体を上野の手から抜くと……すぐに血が少しだがあふれてきた。その後は俺は再度止血しつつ。消毒液を上野の指にかけてやり。
「まあ大体に血はとまったが。なんか刺さってたところはまだ血止まってないみたいだから絆創膏やるよ」
俺はそう言いながら絆創膏を渡すと、上野はちょっと困りつつ?戸惑いつつ?みたいな感じだったが。とりあえず俺から絆創膏を受け取った。
「……ありがとう」
ボソッと小さなお礼も聞こえたな。
「いいや。普通のことしただけだ」
俺はとりあえず返事をしておいたのだが。俺はこの時ふと思ったことがあった。あれ?俺はなんで自分の部屋でクラスメイトの手を治療をしてるんだ……?ってな。
ちょっと考える。上野は治療のためにここに来たんじゃなくてだな……そうだ。
「そうだよ。穴だよ、壁の穴だよ」
俺が言うと。ちょうど絆創膏を巻いていた上野が。ちょっと呆れつつ。
「……話そうとしたらそっちが勝手に治療しだしたんでしょうが」
上野に小さい声でそんなことを言われたが。全くです。俺が話をさせてなかったんだな。治療、治療って方にいっちまったからな。悪い。
「ま、まあ、それはちょっと癖で」
「癖?その……女の子の身体触るための?」
あれ?なんか上野から冷たい?視線があるような――ついさっきのありがとうとか言っていた時のやわらかい表情はどちらに?
「はい?身体に触る?」
「……手……とかいきなり掴んでくるし。なんか消毒とか手当?慣れてるし。そう言うために……覚えたのかと……」
「いやいや、そんなん普通……って普通じゃないか。いや……なんか悪い。ちょっといつもは妹みたいなんがいるからさ」
「妹……?う、うん。ま、まあでも今回は治療してもらったし……今のは……嫌な感じはなかったから……いいけど」
上野はそう言いながら自分で巻いた絆創膏のところを撫でていた。
「急に手を掴んだりしたのはマジで悪い。で、だよ。この穴はなんだよ。ってこれ学校にバレたら……」
俺が言うと。上野も穴を見た。
「……これヤバイよね」
そして、どうしよう?という感じでつぶやいたのだった。
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