ある悪魔の仕事
視界が開けると目の前には先ほどモニターで見た男の姿があった。男はよほど驚いているのか床に座り込んでいた。
「お前が俺を呼んだのだな」
男は俺の問いかけに答えることなく同じ表情のままピクリとも動かない。まぁこれはよくあることだ。そう思ってもう一度口を開こうとすると男が指をさしてくるしかしその方向は俺の後ろを指しているようで振り返る。
「あ、りあーん。気づいたー」
そこには窓の外にエストがいた。
「は⁉おま、何でここにいる!」
窓を開けエストに文句をいうと開けてくれたと言わんばかりにエストは部屋の中にはいいてくる。
「ちょうど近くで仕事があってね終わったから来てみた―。」
俺はこれから仕事だ!あぁもうせっかく面白そうな人間だからと来たがとんだ災難だ。
「あ、あの」
男の存在を完全に忘れていた。天使のせいだな。俺のせいじゃない
「はぁ、おい天使。ぼったくりなんてしねぇからさっさとどっかいけ。」
「えー、まぁ私もまだ仕事残ってるからすぐ行かないといけないんだけど。じゃ、またねリアン。あ、そこの男の人、リアンになにかしたらだめだよ!」
そう言い残しエストは窓から飛んで行った。この男が俺に何かできると思っているのか?
「で、お前が俺を呼んだでまちがいないな」
「あ、はい!僕、あなたのことが聞きたくて呼んだんです」
男はまだ驚いているようで一瞬動きが止まったが直ぐにハッとしてきらきらとした瞳で俺を見上げた。てかこいつ今俺のことが知りたいといったか?論文とやらはどこに行ったんだ?
「お前論文の資料が欲しいんじゃなかったのか?悪魔についてとは聞いていたがなんで俺について?」
「え、あ、はい。そうなんですけど、その、せっかくだから呼んだ悪魔についての論文が書きたくて。でも悪魔ってすごいですね僕の願い言わなくてもわかっちゃうんですね!」
「ふぅん。じゃ、俺に何をしてほしんだ?対価によるが、たいていのことはできるぞ。」
男は待ってましたとばかりに男の隣にあった複数のアタッシュケースを俺に差し出す。
「これをどうぞ!この日のために貯めた僕の貯金全部です!あ、現金はまずかったですかね?じゃあこれで買えるものなら何でも大丈夫です!これだけあれば大抵買えると思うので。」
なんだか、普段の人間と何かが違う気がする。普段人間は真っ先に自らの願いを語る。どんな願いであってもまずは願いを叶えてもらおうとする人間が圧倒的に多い。それに、俺が見てきた人間は悪魔を召喚できたとわかると少なからず恐怖を浮かべる。しかしこの人間はそんなそぶりもなく俺の前に対価を並べていく。
「もしかして、魂とかですかね?」
「魂をくれるのか!?あ、いやダメだ。魂は生死にかかわる願いじゃねぇと取れねぇ。」
魂は人の生死に直接かかわるものなので簡単には対価として貰うことができない。しかし大抵の悪魔にとって魂は好物である。人間でいうカレーのような認識だ。人間ごとに味に違いはあれどそれがまたうまいんだ。前にもらったんだ、そう飴みたいなもんか?あれいろんな味あるだろ。あんなかんじだ。
「……魂は生死にかかわる時しか対価として差し出せないのか……。じゃあ、……なら……、でも……」
男は急にうずくまって近くにあった紙に何かをぶつぶつ言いながら書き始める。男の未知の行動に俺は若干の恐怖を覚えつつ話を進めようとする。
「おい、まずは願いの詳細を教えろ。対価はそれからだ。」
男はぱちくりと大きな黒い瞳を開き俺のほうを見る。その表情からは何も読み取れず、幼さだけがやけに目立った。
「僕の、願いは、さっき言ったじゃ、ないですか。あなたについて知りたいんです。普段の行動だったり食べるもの、好物、苦手なもの、生まれ方死に方、なんでも。全部知りたいんです。教えて、くれるんですよね?」
興奮して俺に迫ってくる男。俺としたことが若干引いてしまった。しかしこいつはどことなくハルに似たものを感じるな。あいつも人間のことになると見境なくどこでも行くし話すからな。
「ああ、いいだろう。だがこれだと情報量で対価が変わるな。……よし、じゃあこれしっかり読んでからサインしてくれ。あと血判も。」
俺は一枚の契約書を取り出し、男に渡す。
「あ、はーい。えーと?、契約は絶対、である……対価は……僕の……」
この契約書は願いを叶えるまで悪魔はその人間に従うといった一時的な主従関係を築くためのものだ。俺のサインはしてあるのであとは男がすれば契約は結ばれる
男は数分かけ契約書を読み終わるとペンでサインをし血判をする。すると契約書は燃えるように焼き消えた。
「これで契約は完了だ。これからお前の願いを叶えるまでお前は願いの範囲で俺を使える。まずは何をすればいい?ご主人様?」
男は燃えた契約書の跡を見ていたがパッとこちらを向いた。
「お、おぉー。……あ、ご主人様はなんとなく恥ずかしいので名前で呼んでもらえませんか?僕
「ん、わかった。十夜。これからよろしく頼むぜ?うまく俺を使ってくれ。」
そう言うと十夜は笑みを浮かべた。
ある悪魔の災難 しろ @SPiLiTUAL_S
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ある悪魔の災難の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます