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あれから一週間以上過ぎた。
やっぱりいつも通り、週末はアトリエに向かって……バスの車窓から見える海は、その青さが眩しいほどになった。
石垣の地面を踏みしめ、階段を降りて砂浜の手前で右へ。
蔦の絡まる古風なアトリエの、ドアのプレートを「在宅」にして、入ろうとして……やっぱり止めて郵便受けを覗いた。
手紙が一枚、入っていた。
取り出して眺める。消印の日付は一昨日だから、ずいぶんと最近。
そして手紙の差出人の名前に、随分驚いた。
久持川柳、ならびに佳澄。
それだけでなんとなく、あの美しいひとの顔が脳裏に返り咲いた。
ご両親なのだろう。
ここに蓮華さんの名前はない。
さてこれはじっくり腰を据えて読まねばなるまいな、と、何処か寂しさを覚えて今度こそ戸を開けた。
少し湿っぽい、緑の薫りが吹き抜ける。
梅雨がくる。
そうしてそれが明けた向こう、いちばん鮮やかな季節のことを、考えた。
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