若年性アルツハイマー

「君は誰?」


おにやとの会話はいつもこの言葉で始まる。


おにやの若年性アルツハイマーが酷くなってから数ヶ月、はんじょうは毎日おにやの病室へと通っていた。

最近は大体名前を最初に尋ねられる。


「……まずは簡単な挨拶、俺様がはんじょう」

「へ〜!はんじょうって言うのか、いい名前だな。」


確かに、APEXをプレイしている時に無限反省を次の日全部忘れている事もあった。

それはおにやのふざけや性質だと思って笑ってスルーしていた自分に怒りが湧く。

あの時、少しでも心配して病院へ連れていったら、と何度後悔した事か。


「はんじょう!見た?今のWM!ワンマガでもってったぞ!」


おにやがクリッピー!と叫んでいるAPEXの映像をスマホで見せてくる。

まだTSM時代の記憶は残っているようで、おにやはTSM時代の映像をここ最近ずっと見続けている。


だが、いずれAPEXの記憶も全て忘れてしまうのだろう。

まだまだAPEXだけでもおにやとやりたい事が沢山ある。

一緒に大会に出て優勝する夢、2人でプレデターへと昇格する夢、お互いがAPEXストリーマーでNo.1になる夢。

もうそのどれもが叶わない。


そう感じるとはんじょうはおにやを見ていられなくなり立ち上がりドアへと向かう。

はんじょうー?とおにやが心配している声がちらりと聞こえたが振り返ることが出来なかった。


おにやが俺を忘れてからずっとこんな感じで、おにやと会っても途中で辛くなってしまい病室を出てしまう。こうして目を逸らしても何も変わらないって分かってる。

だけど、

「お前は…どうせ今日も俺の事を忘れちまうんだろ…」



「あの〜、はんじょうさんですか?」

「!、あ、えっと、はい。」

「こんにちは。今日の面会は終わりですか?」


病室の前で項垂れていると、声をかけられた。彼女は何回か見た事がある。確か、おにやの担当の看護師だ。


「あ〜……そうっすね。今日はもう帰ります。」

「……あの、すみません。おにやさんと何かありましたか?」

「え?」

「踏み込んだ質問で申し訳ないです。でもおにやさん、いつもはんじょうさんが帰った後にはんじょうさんはどこ?と探しているんです。」

「……。」

「忘れちゃいけない人だ。覚えていたいからもう少し一緒に居させてくれって頼まれるんです。」

「……っ。」

「あっごめんなさい。はんじょうさんも辛いのに……。」

「いえ、ありがとうございます。その…明日もまた来ます。」


俺ばっか辛いんじゃなくておにやだって必死に戦ってるんだ。

病気を治すために、俺は何も出来ないかもしれないけれど、俺だってちゃんとおにやに向き合わないと。

明日は絶対に時間がある限りおにやと一緒にいようと誓って、はんじょうは病院を後にするのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る