冬は忘れない

春は素晴らしい。

鼻孔をくすぐる沈丁花の香りに弾む君の笑顔を、桜が讃える。

夏が待ち遠しい。

僕の名を呼ぶ君の声に、蝉時雨も蚊帳の外へと消える。

秋が待ちきれない。茜色の空を眺める君は灯火のように儚く、美しい。

冬は

「お前、何気持ち悪い文章書いてんの?」

はんじょう!?

え、どうして?いつの間に?

「いや、ここ楽屋だろ。台本読んでんのかと思ったら気持ち悪りぃ。春だの夏だの、お前引きこもってるから分かんねえだろ。」

はんじょう、それは文学に対する冒涜だよ。

「好きな子でも出来たのかよ。」

そ、それは。

「まぁいいや。ほら、リハーサルの時間だから行くぞ。」

楽屋から去る背中に言葉は出ず、溜め息と共に紙は丸めて窓から投げ捨てた。

春風に乗り紙屑は青空を舞う。

2人の恋の行方は、捨てられた紙屑はどこへ向かうのか。

おにやの本当の気持ちを唯一知る紙屑にもその行方は分からない。

冬は忘れない。はんじょう、君が産まれた季節だ。

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