第57話 聖騎士団筆頭、最強の聖騎士
薙ぎ払いの斬撃が衝撃波を生み出し、聖騎士を一人、また一人と吹き飛ばす。疾走する勢いとともに斬り倒し、さながら〝鬼神〟の様に戦う俺を目にした指揮官である聖騎士は、俺の繰り出す斬撃の凄まじさに動揺する。
「くそッ!! 奴らの強さを認めろというのかッ!!」
聖騎士たちは俺達の暴風吹き荒れるような攻撃で突破する突撃速度に対応出来ず、焦りが見え始めていた。戸惑う指揮官の聖騎士の頬を一雫の冷や汗がつたう。
漆黒の魔剣を振るい、俺は鬼神の如く駆け抜けていく。立ちはだかる敵の波を貫き、ただ前だけを見つめながら──
「ええい、あのおぞましい剣を振るう小僧を止めろぉ! なんとしてもだ!!」
「駄目です! と、止められません!!」
白のロングコートに身を包む聖騎士たちの陣形は乱され、総崩れになっていく。人数だけは凄まじくて鬱陶しく感じるが、所詮それだけだ。聖騎士どもは唐突に突っ込んで来た俺たちに慄いている。俺とウルフィとロウアンで構成された魔王軍小隊は勢いを止まらせることなく力任せに進んでいく。
「おのれ! 我ら聖騎士が魔族に屈するなどありえん! ありえんのだッッ!!」
「し、しかし隊長! こ、このままでは我らの囲みはいずれ突破されてしまいますッ!」
慌てふためく目標を魔眼で捉え狙いを定め──打ち倒した敵から魔剣が魂魄を吸収して力が増幅されていくのを肌で感じながら、俺の攻撃はさらに加速していく。
ウルフィもまた、練り上げた膨大な闘気を全身に纏って追従して来る。俺たちが突き進む度に人波が割れ、聖騎士たちがまるで木偶のように薙ぎ倒されていく光景は、人族からしたら異常そのものだろう。
背後を気にする必要はない。視認範囲外の敵はウルフィとロウアンを信じて任せればいい。俺は眼前の敵だけを薙ぎ払い、真っすぐ走り続けるだけだ。
まずは標的である指揮官の首を討ち取ってやる。
「ウルフィ! こうして一緒に戦っていると、最初に出会った時のことを思い出すな! 思えばあの時から俺たちは多勢に無勢だったな、あはは!!」
「そうだワンねぇッ! とはいえ、以前と違うのは敵地の中心だってことだワン! ロクス、気を抜いてる場合じゃないワンよッ」
「気を抜く? 違うぞウルフィ、君に後ろを任せてるから安心して向かっていけるんだ!!」
「ワフワフ! 嬉しいことを言うワン!!」
魔剣を振るうタイミングとウルフィの繰り出した蹴撃がリンクする。それぞれが地表を蹴り敵軍の中央を抉じ開ける。
確かに聖騎士たちの人数は圧倒的だが、俺たちがたった三人だとしても各々が一騎当千なら問題はない。それに今回の目的はあくまで人族への宣戦布告。新生魔王軍の強さを知らしめることにある。
舞い上がる人族の血飛沫と、魔剣から注がれる凄まじい闇の力がさらに俺を駆り立て続け。
「しかしお前らまるで蟻のようだな。倒しても倒してもぞろぞろと……煩わしいったらないな」
「な、何をするつもりだ小僧!」
「知れたこと! お前ら全員まとめて塵にしてやる!! ──荒れ狂う闇の炎、混沌より解き放たん……『
素早く詠唱を済ませ、俺はおもむろに左手を前方に突き出し黒炎の球を発生させる。〝
「「「ぐあああああッッ」」」
すると、闇の魔法が直撃し断末魔の悲鳴が響き渡る。
「夜が明けるまで燃え続けろ、悪党聖騎士ども!」
恐慌状態になった聖騎士たちに向けて俺は告げる。聖騎士たちに放った攻撃は、奴らの恐怖を呼び起こすのに十分。聖騎士たちは最早、統制を維持するのは困難な状況になりつつあった。
その様子を尻目に、俺は一歩、また一歩と指揮官へと向かい歩き出す。その首を討ち取ろうと──
「観念しろ、悪党……お前の生命、魔剣に喰わしてやる」
指揮官の顔が恐怖に染まる。一人、また一人と倒れていく聖騎士たちを目にしながら眼前でへたり込む指揮官は恐れ慄き、「こんな、ばかな……」と呟いた。
それはそうだろう。忌子と蔑み、罵りながら追放した者に滅ぼされていくからだ。
俺は誰になんと言われたって構わない。ただし、決して仲間たちの命を奪わせないし、奪った者を許さない。
それが何者であったとしても──
「シャドルト、もっとだ! もっと俺に力をよこせッ!」
『あはは、オーケーロクス!! やっちまえ!!』
殺意を込めて限界まで力を高めていく。
右手に握り締めた
「ば、化け物……」
すると、身動きすらままならない状態の指揮官がぽつりとつぶやいた。それはその場にいる聖騎士全員が俺に対して感じていた言葉だったろう。指揮官は戦うことはおろか、逃走という選択肢すらも忘れて絶望の眼で俺を見やる。
「化け物? そうかもしれない。しかし、だとしたらあんたは何だ。……人間の面をしたケダモノだろう? ケダモノならケダモノらしく、駆逐されていけ!!」
「ひっ、ひいぃ!!」
勝利を確信し、そしてなお魔剣から注がれる力と湧き上がってくる怒りの感情から俺は眼前でへたり込む指揮官に向け、魔剣を振り下ろそうとしたその時── 鋭い殺気を放つ俺に、『待った』が掛かる。
「聖剣技奥義──
その声が聞こえた瞬間、眩い閃光が降り注ぐ。
『危ないロクスッ!』
「なっ……!!??」
危機を察知したシャドルトの声で俺は瞬時に後方へと跳躍し、衝撃を躱す。すると、突如として現れた男が目を丸くしながら口を開いて言う。
「……あれ、避けられてしまった……本気を出したんだが。これはさすがと言うしかないかな? 〝聖印の勇者〟エイナ=リヒトリエルの兄上殿」
透き通るようで落ち着いた声を出したのは黒髪の少年だった。いや、見た目からしたら俺と同じくらいの年齢を思わせる。その姿、こいつも聖騎士か。
それに、他の聖騎士と違ってエイナのことを呼び捨てにしている。つまるところ、この聖騎士はエイナと因縁がある男だってことか……?
「いきなりご挨拶だな。どこのどいつか知らないが、あんたは他の聖騎士とはどこか違うみたいだな……?」
「ご挨拶はお互い様だろう? しかし……兄上殿。随分と私の仲間たちの生命を奪ってくれたようだが……この惨劇を見たら君の妹、エイナが悲しむとは思わないのかい??」
俺は眼前に現れた聖騎士の顔を見た。真っ直ぐに見据える瞳。そして全身のオーラでもって「もっと妹のことを考えろ」と訴えかけていた。それは俺にとって脅迫にも近い。俺は大声で答えた。
「……だからどうした! 俺はもっと悲しむ魔族を見てきた!! 偉そうにほざくなよ、それからエイナを呼び捨てにするお前は一体何様だッッ!!」
「これは失礼、自己紹介が遅れ申し訳ない。私は
「お前なんかに兄上呼ばわりされる筋合いはないが、面白いじゃないか。かかって来いよ!!」
突然現れた聖騎士の筆頭を謳う男の出現に、俺は牙を剥いて吠え、油断なく魔剣を構えると、名乗りを上げた黒髪の聖騎士は、俺を目掛けて疾走する。
闇と光の斬撃が交差していく戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
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