第56話 帝都ルガロを血に染めて
帝都ルガロを守る聖騎士はそれぞれが厳しい選抜を潜り抜けた精鋭集団である。
しかし、その精鋭である彼らが取り囲みながら戦っている魔剣使いロクスと人狼ウルフィ、ドラゴンと化したロウアンにより、半刻前の余裕の表情はやがて青ざめ、悪夢でも見ているのではないかと錯覚し始めていた。人数で圧倒的に上回るというアドバンテージを持つ聖騎士たちはジリジリとその心を削がれ、小さく汗をかき──ならばとロクスの背後に回り込もうとする聖騎士はウルフィの俊敏な動きに阻まれる。
突如として現れた、たった三人の魔族の堂々とした戦いぶりを目にし、聖騎士たちは戦慄とともに一筋縄ではいかないかもしれないという予感を感じ始めるのだった。
◇
ロウアンは竜化を解かず、大聖堂の塔から舞い降りて聖騎士に目がけブレスを吐き、ウルフィは縦横無尽に格闘術を聖騎士たちに繰り出している。たった三人の魔族により翻弄され、薙ぎ倒されていく人族の騎士の血潮と断末魔が辺り一面に弾け飛んでいた。
俺は大地を強く蹴り、殺意に導かれるままに魔剣ソウルイーターを振るう。倒れゆく者の血と魂を吸い、より強さを増していく魔剣で次から次へと無慈悲な攻撃を加えていく。
すると、背中合わせにウルフィが俺に向けて言う。
「ロクス、気をつけるワン! 少し突っ込みすぎてるワンよ?!」
「侮るなウルフィ! 俺だって魔王軍の一員だッ!!」
それぞれの正面にいる向かい合わせの相手に俺たちは構える。その掛け合いを聞いて、交差する剣を交えている聖騎士が口を開いた。
「ロクスだと!? お前はまさか、あの〝聖印の勇者エイナ〟様の名を汚す種違いの忌子か!!」
「だったらどうだってんだ!」
「ならば諦めて大人しく投降しろ! 貴様ら魔族に勝ち目などないのだからッ!!」
「やかましい! おまえら悪党聖騎士に下げる頭なんてあるものかッ!」
鍔迫り合いながら相手を押し込んで、素早く踏み込み男の身体へ魔剣を下から上へと振り上げ、聖騎士の身体を鎧ごと切り裂いた。鮮血と悲鳴が噴き出す聖騎士にとどめの一閃。そして次の獲物へと襲いかかる。
その時だった。
「怯むな! 敵は僅かたかだか三匹! 前衛の騎士たちは小僧と人狼の動きを封じろ!」
「聖法術士たちは術を唱えよ!! 光の精霊術でドラゴンを先に仕留めてしまえッ!!」
大声で支持を出す聖騎士の指揮官の視線の先、白い法衣を纏う聖法術士が詠唱の態勢に入る。
「魔族どもめ……焦げ悔いるがいいッッ!! 放てぇええッッ!!!!」
「「「『轟雷、一条の光となり閃光と共に眼前の者へと振り下ろさん……
聖法術士たちは光の精霊術をロウアンへ差し向け、左手より放出していた。光速の雷撃が全方位からロウアンの身に降り注ぐ。
「舐めんじゃねえ! 〝ドラゴンモード〟の俺にそんな術が効くわけねーだろうがッ!!!!」
歯牙を剥き出し、ロウアンは大きく口を開くと巨大な焔のブレスを放出し、光の雷撃を押し戻していく。
「「「ぐあああああッッ!!」」」
光の精霊術を押し返し、六、七人の聖法術士が前衛の聖騎士たちごと炎に包まれ、叫び声を上げる。全てを焼き払うようなブレスの衝撃は帝都の石畳を抉り、その余波は建物を倒壊していく。
その一方、俺に至近距離まで近づく聖騎士が剣を振りかぶる。
「神に弓引く魔族どもが! その罪、その血で贖ってもらうぞ!!」
しかし、その気配に気がつかない俺ではない。振り下ろされた斬撃を能力〝影潜り〟で躱し、聖騎士の背後に回り込むと分身技の〝四影斬〟を浴びせかける。「ぐがぁッ!」と嗚咽を漏らした聖騎士の持つ剣が弧を描いて宙を舞い、やがて大地にガシャアアン! という耳障りな音を立てて転がり倒れる。
さらに間髪入れずに俺は魔剣ソウルイーターの性能に全力を乗せ、聖騎士たちを狂ったように斬り捨て続けていく。どうしようもないほど怒りに溢れて、残酷で、暴力的な戦いがそこにはあった。
迫り来る聖騎士たちを斬り伏せながら、血と断末魔を浴びながら、いったいどれくらいの時が経過したのかわからない。
もっと殺す。もっと、もっとだ。
もっと、もっと……!
しかし、どれだけ聖騎士を打ちのめしてもたじろぐ様子が見えない。さすが帝都を守護するだけのことはある……!
そんな俺の思考とは裏腹に、聖騎士の一人が指揮官へと駆け寄り、告げる。
「く……た、隊長っ! これ以上手を拱くようでは我が方の被害が増していくだけですッ」
「ええい、臆するな! 我ら神に剣を預けし聖騎士が臆して何とするのだ!!」
「し、しかし! 小僧の剣捌きと人狼の格闘術はまるで暴風、竜巻きですッッ! 加えてあのドラゴン……!」
「言うな! なんとしても討ち取るのだ!! ええい、こんな時にシュンラン殿はどこで何をやっているのだ!!」
……シュンラン?? 知らない名前が出てきたな。おそらくハンス同様、ロイヤルアークナイツの団長だろう。しかし誰が来ようとお前ら聖騎士には人猫族の者たちと同じ苦しみを与えてやる。
「ごちゃごちゃうるさいヤツらだな! 討ち取るのは俺の方だッッ! っと、あんたが大将か? その首、貰い受ける!!」
そう言って、俺は大地を蹴り一直線に指揮官へと走り突撃していく。聖騎士の群れを斬り払い、殴り飛ばす。とはいえ、俺も既に無傷ではなかった。四方八方から攻撃を浴び続け、流血していた。
しかし、俺たちは怯むことなどない。それぞれが独自の能力を存分に引き出して暴れ回り、聖騎士たちを殺していく。
ウルフィは敵の顔面を右手で掴み、そのまま大地に勢いのまま叩き落とす。ロウアンは巨躯の身体で突進をし、押し潰す。
「るあああああッ!!」
そして俺は猛り狂う声を出しながら、敵の指揮官へ向かい突っ込んでいく。熱を帯びていく……血の匂いが人族で生きていた自分を忘れ去っていくのを感じながら、剣舞に狂うのだった。
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