第50話 血塗られた大地で復讐を ②
明らかに以前の少年と画する存在。より禍々しさを帯びた闇の波動を身に纏う強力な気配に、聖騎士ハンスとライモンは小さく汗をかいていた。
ロクス=ウールリエルの魔剣を容赦なく振るい、かつて聖剣を折ったその斬撃の膂力はさらに凶悪さを増し、大地に亀裂を入れてしまうほどだった。
そして縦横無尽に飛びかかってくるオーガと人狼、さらに上空から爆炎を吐き出す竜が聖騎士が発動した防御精霊術をものともせず容易に彼らごと吹き飛ばしていく。
少年ロクスの恐るべき成長速度と魔王軍の圧倒的な突破力……魔族の怒り狂った脅威的反撃に、やがて聖騎士たちが追い詰められていき──魔族の命を根こそぎ奪い去っていった人間に断罪の裁きが下されるのは間も無くのことだった。
◇
「ありがとう、ウルフィ!」
「なぁに、お安い御用だワンよ、ロクスッ!」
ハンスと剣を交差しながら、ボクはウルフィといつしか背中を合わせていた。ボクの目の前にはハンスが、彼の前にはライモンが剣を構えている。
同時にウェドガーさんが指揮を取りながら、魔王軍の戦士たちへと「敵は崩れかけておるぞ! 一気に蹴散らせ!!」と煽り立て、すると追従する魔族は雄叫びを上げて聖騎士たちへ苛烈な攻めを繰り出し、雪崩れ込んでいく。凄まじい攻防の中で魔族と人間の互いに飛び交う怒号が戦いの振動を震わせていた。
そして、ボクは『魔眼』発動により当然手の内を知っているハンスの攻撃を受け流し、対処していた。
しかし、ハンスのボクへ向けた挑発的で自信に溢れた表情が腑に落ちない。それはもしかしたら彼の持っている〝聖剣〟によるものかもしれない……でも、どんな剣だろうと構わない──!
そんな思考の中で、ボクと聖騎士ハンスの剣が甲高い音を立てて衝突する。
──が、ボクの方が僅かに圧し負けてしまう。
「ッッ!!!!」
弾き飛ばされると追い討ちの斬撃がボクを襲う。咄嗟に横に飛び、必殺の間合いを回避するも、ハンスが光の精霊術をボクに向けて放つ。
「くっははははは! どうだロクス! これが俺様に新たに授けられた〝聖剣フルンティング〟の力……ッ! そして俺様の剣技と術を喰らい、死んで大地に帰りやがれ!!」
柄頭に碧玉を埋め込んだ幅広の聖剣の切っ先を見せびらかすようにボクに向け、ハンスが笑う。ボクも移動しながら〝
以前戦った時と比べれば、より経験値を積んだボクの戦闘力や魔力も威力も上がっているはずなんだけど……!!
ハンスはそれを凌駕する強化がなされていた──おそらく〝聖剣〟の加護によるものなんだと思う……! そう考えると合点がいく。あの聖剣がハンスの攻撃力と身体能力を大幅に跳ね上げているんだ。
創造神リィファが授けた聖遺物ならそれくらいのことはできてもおかしくない。一度でも見た技を見切るボクの〝魔眼〟……しかし身体がハンスの攻撃についていけなかった……!
「くくく……湧き上がる力……これは、これこそまさに神意!! 〝忌子〟をこの聖剣で葬り去れ、と俺様に神がまるで言ってるかのようだ! くははははは!!」
ハンスは誇らしげに聖剣フルンティングを高々と掲げてみせる。
「ロクス!! まぐれでこの俺様に打ち勝ったからと調子に乗るんじゃねえぜ?! 俺様が本気になればてめぇなんざ──」
調子の良い口上をボクは断ち切って、声を出す。
「まぐれだろうとなんだろうと、貴様がボクに負けた事実は変わらない! 偉そうにかっこつけて宣うなよ負け犬めッ」
「ッ!」
ボクがそう言うと、ハンスは一度歯軋りしたがすぐに気を取り直した様子で嘲笑い、手を広げて高らかに叫ぶ。
「愚かな魔族の血を引く〝忌子〟が……! てめぇのその行き過ぎた傲慢を償わせてやろうじゃねえか!!」
聖剣が輝きを増す。左手に光弾を展開し、振り下ろすと同時、その光弾が一気に殺到する。
が、しかし。
「ロクス、下がって!! ──【大地の精霊ノームの名において彼の者を護り給え!
ファルルは回復治癒の魔法と支援魔法に長けていた。4属性の精霊魔法を使い、あらゆる魔法〔精霊術〕から身を守る奇跡の魔法障壁を顕現する。
ボクを守らなければ……と、そう咄嗟に判断したファルルが瞬時に魔法を詠唱し、ボクの前に翡翠色の障壁を顕現させ、襲い来る光弾を弾いていた。
しかし、その奇跡は光弾を弾いたものの……その衝撃でガラスが割れるように砕け散る。
「そんな、わ、わたしの防御魔法で防ぎきれない……ッ?!」
「ファルル危ないっ!」
すると、間髪入れずにハンスの振り下ろした聖剣フルンティングから光を纏う衝撃が迫る。さらに彼の腕から球型の青白い光が収束するないなや、ボクらに向かい放たれる。
ボクがファルルを庇うようにすかさず前に入り、魔剣を盾にするように防御の体勢をとる。
勢いよく浴びせられる光属性の攻撃に、闇属性の魔剣がぶつかり合うとやがて、霧散する。
「なぁ、さっきの障壁は大地の魔法ッてヤツか? だがよ、忘れてねえか? 光の精霊こそ全ての精霊の頂点だってことをなぁ!!」
ハンスが嘲笑い、指を差しての物言いにシャドルとが反応し。
『ムカつくヤツだな! アスが頂点だとう?! ふ、ざ、け、る……なぁああああ!!』
「……ッ! く……ファルル、ケガはない?」
「う、うん……ありがと……でもロクスが……」
シャドルトが頭の中で怒りを露わにして叫び散らす中で、ファルルの安否を確かめるように語りかけると、彼女がボクのもとへと涙目で心配そうに駆け寄る。
額から鮮血がぽたりぽたりと滴り落滴り落ちて大地に染みていく。視線をハンスへ向け直したボクは、ビリビリと痺れた手の感覚に、先ほどの攻撃がどれだけ強力だったか悟りながらも……さらに怒りが増していた。
「女子供にまで刃を向けて暴力の限りをつくすキサマら聖騎士は糞だ! この命をかけて蹴散らしてやる!」
ボクの中の、何かが目覚めようとしていた──
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