第49話 血塗られた大地で復讐を ①


 時は少しだけ遡り……


 人族による侵攻の一報を受けたボクらは──



「行きますぞ魔王軍の戦士たちよ! 人間どもに我らの恨みを思い知らせよッ!! 奴ら一匹たりとも生かして帰したらなりませぬぞッッ!!」

「「うおおおおッ!!」」


 妖刀を掲げ、士気を駆り立てるウェドガーさんの言葉に賛同し、雄叫びを上げる魔王軍。ロウアンは竜族の戦士に向かって指示を出していた。


「野朗ども、クソ聖騎士たちを狩り尽くせ!! 全員〝竜意解放〟ドラゴンモード!」

「は! 長、我ら竜の炎を奴らめにくれてやりましょう!」

「ったりめーだブラウ! 咬み殺し、八つ裂きにしたヤツらを人族の都に送り届けてやるあぁ!!!!」

「「はは!!」」


 そして、ウルフィは腕を組みながら、ファルルは決意を瞳に宿しながらボクに顔を向けて言う。


「神狼流空手の奥義を見せてやるワン!!」

「回復治癒が必要な時はわたしにまかせて!!」



「行こう、みんな!!」



 そうボクが言うと、ウェドガーさんとファルルとウルフィ、そして魔王軍の戦士たちはドラゴンへと姿を変えた竜族の背に乗り、魔法王国の空を天高く舞い上がるのだった。




 ◇




 やがて人猫族の里に近づくと、上空を矢の如く飛行するロウアンの背から見下ろした先に火の手が上がっている。残虐非道の限りを尽くしたであろう聖騎士たちの姿を目にした瞬間──既にボクはロウアンの背から闇の能力『影潜り』で瞬時に大地へと移動していた。

 聖騎士たちの徹底的な攻撃により死と血の臭いが立ち込め、燃え上がる炎がバチバチと木々を裂く乾いた音を立てながら……人猫族の里は恐怖と悲しみと絶望が渦巻いていた。


 そのせいで、より深刻な憎悪を育ててしまったボクの……その憎しみを込めた視線を白ずくめの騎士たちに向け……あまりにも凄惨を極めた惨状にボクは……強く、つよく心の臓を抉られ思わず叫んでいた。



「お前たち聖騎士に地獄を見せてやる!」



 そして、聖騎士たちに怒りの攻撃性を現したのは当然ボクだけではない。

 竜の背に乗り、天空より次々と大地に舞い降りた魔王軍の戦士たちが聖騎士に殺気を向ける中、上空を飛翔する竜族の中心にいるドラゴンと化したロウアンが漆黒の翼を羽ばたかせながら鎌首を上げ、大気を震わすほどの怒りに満ちた咆哮を上げる。



「見敵必殺! ぶちかませぇええッ!!」

「「「グォアアアアアアアアアアアア!!!!」」」 



 すると、ロウアンの合図で竜族が咆哮とともに聖騎士たちへ火弾を放つ。鈍い爆音が続けざまに鳴り響いた。ある者は身体が吹っ飛び、大地が抉れるかと思うほどの攻撃に聖騎士たちはどよめき、右往左往していた。


「ハンス殿ぉおッッ!! 上空にも魔王軍! ど、どどドラゴンですすすすッ!!」

「騒ぐなうっとおしい!! 対ドラゴン陣形の指示を騎士たちに出せっ。

 どーせ純正ドラゴンじゃねえ、竜族だろうからガタガタと狼狽えんなバカが! いいかライモン、てめぇも〝忌子ロクス〟を殺すことだけ考えやがれ!」


 聖騎士ハンスはボクと鍔迫り合いながら、上空を見上げ青ざめた表情をするライモンに渾身の力を込め激を飛ばす。


「黙れ! ボクを〝忌子〟と呼べないよう二度とその口で息を吸えないようにしてやるッ!」


 言うやいなや、魔剣から注がれる力がさらにボクの怒りに呼応して増幅されていく。煮えたぎる憤怒の感情がボクを衝き動かしながら、内から湧き上がるすさまじい殺意と共に聖騎士ハンスへと魔剣を振り下ろし、薙ぎ払う。魔剣ソウルイーターから溢れ出る紫黒の瘴気が腕の動きに合わせて大きく蠢めいていく。


 激闘の中で視界に入る、折り重なるように倒れ伏す人猫族の亡骸。死の匂い、そして聖騎士たちの飛び散った血の匂いが渦巻く中で、ボクの人間の命を奪うことへの心のためらいは……いつしか怒りと胸の鼓動が何処かへと追いやっていた。


「闇の精霊シャドルトとの誓いのもと──聖騎士ども、貴様らを討つ!!」

『そうだそうだあ! ヤッちまえロクスッ!! (ロクスが完全に人間の命を奪えることができたなら……ついに目覚める!)』


 シャドルトの言葉と共に、魔剣ソウルイーターを覆う闇の闘気がより色濃い黒色を増した。


「こ、こいつほんとにあん時のガキなのか?! 信じられねえ強さだ……ッ!」


 かつてボクを切り刻んだ聖騎士ライモンがぎょっとしながら言うと、無我夢中で聖剣技を振るってくる。しかしボクはこれまでの戦いから練り上げられた動きで彼ら──聖騎士ハンスとライモンの同時に繰り出された剣閃を掻い潜り、いなし、弾く。

 周囲では魔族と聖騎士の戦いが繰り広げられ、襲い来る聖騎士たちから放たれた精霊術を力強く薙ぎ払うウェドガーさんの姿が、獰猛な野性を解き放ち、牙を剥き出しながら格闘術を浴びせるウルフィの姿が視界に入る。


 そして、聖騎士たちの攻撃を捌き切れず傷ついた戦士をファルルが回復治癒の魔法を施し、癒やす様はまるで戦場の女神だ。鮮血を流す者たちが何度も、何度も立ち上がり聖騎士たちに戦いを挑んでいく。


 すると聖騎士ハンスは目を吊り上がらせ、苛立たしさを滲ませた乱暴な言葉を並べる。


「神をも畏れぬ不届き者どもがッ!! てめぇら魔族はこの世界の秩序を乱す存在! 特にてめぇがなあロクス!!」


「何が〝秩序〟だッ! 貴様の言っている〝秩序〟など都合の良い〝言葉〟でしかないッ!! 弱きを打ち据えてニヤニヤと笑う貴様たち聖騎士に〝神〟を語る資格などあるものかッ!!!!」


 声とともに振り抜かれたハンスの大剣と、ボクの魔剣の刃が何度も交錯し、衝突する。隙を狙ってライモンがボクの背後から剣を振り下ろすがその攻撃は、雄々しく蹴撃を繰り出し割り込んだウルフィによって阻まれ届かない。


「汚いヤロウだワン、人間!!」

「──ッ! 邪魔すんなこの野良犬があッ」


 よろめきもんどり打ったライモンが、ファイティングポーズをとるウルフィへ向け渾身の力を込めて叫ぶ。ウルフィの華麗な一撃が聖騎士の鎧をひしゃげ、その一部がガキャ……! と砕け落ちて濁った音が響いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る