覚醒編 聖魔大戦の章
第47話 叫び渡る少女の声
魔法王国の入り口を出ると、だだっ広い草原が広がっている。
魔王軍の一員として迎え入れられたボクは、人族に捕らえられた魔族の救出や奪われた領土の奪還作戦に加わることになった。
──その前日のことだった。
夕日に照らされて、黄金色に輝くその草原に魅せられたボクは魔王城を出て城下町を抜けて足を踏み入れると、他愛もない会話を一人の少女としていた。そう……魔剣であり、闇の精霊でありボクの半身のような存在、シャドルトだ。
魔剣の姿から精霊の姿へと戻った彼女はボクの横に座っていた。そして、魔族として生きると決めたボクはふと妹の名前を口に出す。するとシャドルトは無造作に草原の草を抜くと、何気なく草笛を奏で始めていた。
まるで子どものような精霊だな……と思うと同時に、シャドルトって実は結構いいやつなんじゃないかと思った。時にはいい加減なことを言うけど、こうして一緒に頑張ってくれるなんて、ほんとうにまるで前世からの友達みたいだ。
「きれいだな。エイナもどこかでこの夕日を見ているのかな……」
『ま……だろうね、ロクス。キミの妹ちゃんもキミ同じようにこの夕日を眺めて己れの運命を憂いているだろうさ……たぶんね』
「……いつかエイナと戦わないといけないのかな……」
『……私はリィファじゃないから先のことはわからないよ』
「そうだね、先のことはわからない。シャドルトの言うとおりさ」
『あのね、ロクス。今から言うことは大事なことだから覚えときなよ。〝運命〟ってのは自分で変えていくものなんだ。いい? 私が言いたいのは……ただ願うだけか、具体的に行動に移すか。それによって生まれる結果が〝運命〟なんだ』
そう言ってシャドルトは深い漆黒の瞳でその視線をボクに向けた。重い……言葉だった。
そしてしばらく互いに会話を重ねたあとボクは彼女を見て言った。
「その草笛、ボクにも教えてよ」
『しかたないなあ、ホラ』
シャドルトが草をむしり取り、ボクに手渡すと彼女は草笛を吹いてボクを見る。それを真似してボクも草笛を吹くと、夕映えの雲の下で互いの草笛の音色が重なっていた。
◇
翌日──
人族の国と魔族の領土の境目コネルマ地方。この辺境の地にはかつて〝大魔召還士〟の一族と揶揄された獣人種、
人猫族の少女が10歳を迎えた誕生日だった。その日は彼女が〝大魔召還士〟としての能力を競い合ういわば〝召還術〟の優劣を見定める行事で大人顔負けの『英霊召還』に成功した日でもあった。
人猫族の里では彼女の誕生と大魔召還士としての成長を祝うべく、ささやかながら祝宴が開かれる。
──その時だった。
猫耳少女の瞳に映ったのは祝いではなく惨たらしい惨劇が繰り広げられる。倒壊していく建築物の破断音と逃げまどう同胞の悲痛な叫び声が響いていた。
唸り声と叫び声が奏でる不協和音で血に塗れた惨禍の宴へと変貌していく。唐突に現れた聖騎士たちによって──
燃え上がる炎の中でゲタゲタと濁った笑い声をだす聖騎士。
美しい髪を靡かして、震える足を踏みしめながら今にも襲いかかろうとする人間から護ろうとしてくれる母親に向かって少女は声を上げる。
「おかぁにゃん! おかぁにゃん!」
「ヒクリ、早く逃げなさい! 早くッ」
「やだぁ! おかぁにゃんも一緒じゃないと嫌だニャア! にゃあ! にゃあ! にゃあ!」
母親は理解していた。この状況では決して、聖騎士たちには勝てないということを。自分は助からなくとも、娘のヒクリだけはなんとか逃がしたいという母親に対して聖騎士は下卑た笑みを浮かべて言い放つ。
「馬鹿が! ひとりも逃すかよ!!」
「蹂躙しろ! 嬲り殺しちまいな! ……くくく! リィファの名の元に魔族を殲滅しろぉッ」
「「「はは!!!!」」」
そうして人猫族の里は阿鼻叫喚に包まれていく。
慰み者にされ絶望の中その生命を絶たれゆく人猫族の女性。剣と槍に貫かれ、悔恨の念を抱きながら死にゆく男たち。
常人なら目を背けたくなる光景が少女の瞳には映っていた。
父親は彼女を守ろうとするも聖騎士の襲撃で〝召還術〟〝魔法〟を詠唱する間もなく、あっけなく殺されてしまう。里に住まう他の仲間たちも瞬く間に殺されていき、彼女を笑顔にさせる幸せの一日はさながら阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
少女を優しく包み込む慈愛に満ちた美しい彼女の母親は聖騎士たちに目の前で犯され、少女は泣きながらただただ震えているしかできなかった。
娘の命だけは助けてくださいと、懇願しながら犯され続け、程なくして少女の母親に自らの欲望を放った聖騎士は、その母をも一瞬で斬り捨ててしまう。
「さて、これだけ騒ぎを起こしゃ後は忌々しい〝忌子〟である勇者の血縁のガキも誘きだせんだろうさ。なあ、ライモン?」
「えぇ。そうですねハンス殿。これでスーリュカ教皇猊下からは〝大魔召還士一族〟を根絶やしにしろと承った追加任務もこれで達成ですね! ……私を嵌めた〝アンソル第四師団長〟にも一泡吹かせてやれるというもの……!」
「てめーの考えなんざどうでもいい。俺ぁヤツを……〝ロクス〟をさっさとぶち殺してロイヤルアークナイツに復帰を……」
聖騎士二人がそんな会話をしながら剣についた血を振り払い、震える少女の前に立った。
「ロク……ス……?」
少女は聞き覚えのあるその名を呟く。
人族を追放された、魔族と人間の血を半々に持つ新たに魔王軍に名を連ねた魔剣使いの名を。
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