第41話 竜戦士 対 魔剣使い 後編
ドラゴンと化したロウアンの強烈な猛撃がボクを襲う。
灼熱のブレス、凶悪に鋭い爪、そして何よりその強靭な鱗に覆われた身体にダメージを与えられず苦戦していた。先程とは違い、防戦が増えた状況下に置かれ未だにその竜鱗を貫くことは未だ出来ていない。それでも攻撃を重ね、いくつかの鱗に微小ではあるが亀裂を入れることに成功していた。
しかし、その最中にロウアンからの破城鎚を打ち込むかのような尻尾の一撃がボクの身体を捉える。魔剣で防御の姿勢をとるも、ボクはそのまま大地に打ち付けられていた。
「く……ッ!!」
「ふん……伝説の魔剣ってのは大したもんだな。竜化したこの俺の攻撃を何度も喰らってへし折れないとは」
「ハンパないスピードに加えて聖騎士並の火力……でもボクは負けるわけないんだ……!」
『あたりまえだい! 私がドラゴン如きの攻撃に負けるものか! むっかつくなあ上からモノ言うんだからこのドラゴンやろー!』
圧倒的不利のような状況の中、それでもボクは立ち上がり。するとロウアンは悠然と鎌首を上げ、見下すようにボクを見やる。
「ボクだぁ?! 気色の悪りぃ奴だな! なあ、てめぇ本当に闇の精霊に選ばれた魔剣使いか? 噂じゃあセルセレムで数多の聖騎士と渡り合い、聖剣をへし折ったと聞いてはいたが……
その戦いぶりは何だ?! この俺に吹き飛ばされるばかりじゃねえか!」
「……この程度で勝った気になるな! お前こそ仕留めきれないでいるじゃないかッ」
「ふん、口だけは達者の生意気なヤロウだ!」
ロウアンが不愉快そうな声を上げる。
「ならその生意気な口を黙らせてやる!! この俺の灼熱のブレスで燃え尽きろ! グアォアアアアアアアアアアア!!!!」
ロウアンの大きく開けた口から先程とは比べものにならない熱量を帯びたブレスが放たれようとしていた。
……来た!
ボクはこれまでのロウアンとの戦いを『魔眼』で分析をしていた。彼が放つ【ドラゴンブレス】は放つ際の一瞬の溜めがあり、放った後も数秒だけ動きが止まる。そしてブレスは一直線にしか放てない法則があった。
その隙、油断を突く。
ボクはブレスをワザと防ぐような姿勢をとる。そしてブレスがボクを覆う直前に『影潜り』を発動する態勢をとる。
それはつまり、ロウアンが小細工を弄するタイプではないのを戦闘中に理解していたからだ。おそらくこのまま単純にボクを目掛けてブレスを吐くだろう。
すると次の瞬間、灼熱のブレスが轟音を出しながら放たれる。全てを燃やし尽くすような強力な息吹。まともに受けたならば絶命すら免れない。
しかし──虚を突いた……!
ボクは『影潜り』から瞬時にロウアンの翼の影に移動し、そこから──足の親指から始まる関節の連動を足首へ、足首から膝へ、膝から関節へと流れるように力をめぐらせながら──高々と跳躍する。
ロウアンはブレスで消滅させようとしたボクがいないことに対し。
「へっ……魔剣ごと燃え尽きやがったか……」
「うるああああああ!!」
「ッ?! な、何?! 上だとおっ!?」
垂直に跳躍、その頂点から一気に剣を構え落下する。
ボクを消したと思い込んだロウアンの背中、亀裂の入った鱗を狙い──重力を上乗せし一点突破する!
滴り落ちる水が岩を穿つように、ボクは何度となく攻撃し亀裂を入れた鱗の一つを見逃さず。
「ぐううッ?! 魔法すら弾く俺の鱗を……貫いただと……ッ?!」
魔剣は亀裂の入った鱗を貫き、ロウアンは悶えながらさらに続けて言った。
「……鋼鉄並の堅牢を誇る俺の鱗を……なんて膂力……!」
「ロウアン……負けを認めろッ!」
彼の厄介さは防御力の高い鱗だ。しかしボクが持つ魔剣ならばそれすら穿つ。シャドルトが信じて戦えと言った、だからボクは彼女を信じ、そして戦ったんだ。
防御力の弱った箇所を狙えば、この重力を乗せた膂力がロウアンの竜鱗を貫くのは必然。
「……っるせえ! 魔剣を持つからと言って驕りやがって……ッ! 俺ぁまだてめぇが勝ったと認めねえぞ……! (クソったれが……! この俺を前にしてその揺るがぬ表情……エノディアとおんなじくれームカつくヤロウだ!)」
背中を貫かれた状況を覆すべくロウアンは翼をはためかせ飛翔し、勢いよく急降下して振り解こうとする。
だがボクはロウアンの背中から離れない。魔剣は未だロウアンの背中を貫いたままでボクは柄を握り締め、吹き飛ばされないように力を込める。
「──ロウアン! これ以上お前を傷つけたくない! 負けを認め、ボクらに協力すると言ってくれッ」
「うるせええ!! 俺が魔王になるのは竜族の悲願なんだ! てめぇ叩きのめしてその首エノディアに突っ返してやるぁあああああ!!」
そう叫んだロウアンがついにボクを振り解く。そんなボクを狙ってロウアンの巨躯な身体からは想像できないほどの速度を持つ打撃が降り注ぐ。単純だが強力……抉れ、粉砕されていく大地。たった一撃でもまともに食らえばタダではすまない。
ボクが初めて戦う魔族。死力を尽くさなければ、必死にならなければならないほどの強敵。まさに死闘だ。
……こんな奴にエノディア様は勝利したのか。
ボクはロウアンの攻撃の隙間を抜い、あるいは影潜りでそれを避ける。鋭く長い爪の薙ぎ払い、打ち払いを魔剣で受け流し、弾く。その度にボクの身体が内部で悲鳴を上げていく。
『ロクス! わかったことが──』
「なんだよシャドルト! 一瞬でも気を抜いたらまずいってのにさ!」
交戦中のボクの頭の中に首を傾げながらシャドルトがボクに語りかけるその内容。
『竜族ってのは竜化したらドラゴンと同じ構造になるってことだと思うんだよ』
「だから何!!」
戦いの最中に語られた、『ドラゴンの弱点』
それは竜族がドラゴンに形態を変えた場合、所謂魔物であるドラゴンと同じ構造になるならば、首の下〝逆鱗〟鱗の隙間と急所が重なる場所をピンポイントで攻撃すれば、致命的な一撃を与えるかもしれないということ。
だが、次第に速さと鋭さ増すロウアンの攻撃を掻い潜り、急所を突くのは至難の技だ。
全身汗でびしょ濡れだ。冷や汗どころの騒ぎじゃない。そんなボクにシャドルトが叫ぶ。
『腹くくれロクス! キミは聖騎士の光の精霊術を突き抜けて私を振るったじゃないかッ! あの時を思い出せッ』
「!!」
『器の容量が大きくなったキミならできる。私をヤツに突き刺し唱えろ! 闇の魔法──』
ロウアンから振り下ろされた拳を避け、ボクの渾身の一撃を貫かんと駆け出して彼の喉元へと魔剣を突き刺す。「グアアッ」と嗚咽を漏らすロウアンにボクは追い討ちの魔法を詠唱する。
『「【
ボクへと注がれる闇の力を魔剣に集約し。ロウアンの喉元を貫いた魔剣から紫炎を放つと、やがて闇の炎に包まれたロウアンが竜化を解く。すると膝を崩しながら彼はボクに言い放った。
「……どれだけ打ち据えようと……はあはあ、てめぇの決意と覚悟が宿る眼光が……曇る……グフっ……こたぁなかったな……」
「……てめぇの、てめぇらの……勝ちだ」
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