第40話 竜戦士 対 魔剣使い 前編


 ボクは魔族として……いや、虐げられるか弱き者達を救う為に、竜族の力を必要と言ったエノディア様の命に応えなければならない。それには竜族の長ロウアンを説得する必要がある。

 言葉で説得できないならば、剣を交えるしかないのだ。ボクは魔剣の柄を強く握りしめて、ロウアンを真っ直ぐに見つめた。


「ならもはや言葉は無粋、俺を認めさせたくばその全力を持って捻じ伏せてみろよ!! 自称アウラスの生まれ変わりロクス!!」


 決意に満ちた一言がロウアンから発せられる。

 そう、もはや言葉では止まることはできない。


 互いに剣を構えるボク達は睨み合う。


「とっくにもうそのつもりだ! 覚悟はいいな竜族の長ッ」

「くくく! その度胸だけは認めてやるぜ?! その覚悟を決めた力強い瞳……そしてその身体に俺の力を深く刻んでやるぞロクス!!」

「御託はいらない、さっさとこい! 戦ってやるぞロウアン!!」



「うおらあああああ!!」

「るあああああ!!」



 互いの信念を乗せた剣と剣が交差する──!!



   ◇



 目で追うのが精一杯の素早いロウアンの斬撃。風を切る音がそこかしこから聞こえるのは縦横無尽に繰り出される洗練された彼の剣技のせいだろう。

 ボクの頬をロウアンの剣が掠め。


「──くッ!!」

「へえ! よく今の一太刀を躱したな!!」


 まといつく様な威圧感がボクを包み込む。正直、聖騎士ハンスとは比べ物にならない強さに、ボクは小さく汗をかく。今までボクが剣を交えたどんな聖騎士よりも彼は強い!

 聖騎士ハンスも舌を巻く程の剣の使い手だったが彼はそれを凌駕している。彼の太刀を受けていられるのはこの魔剣ソウルイーターのおかげ……並の剣ならあっと言う間にへし折れてる!


「──我が魔導剣にその力をよこせ炎の精霊! ファイアブレードッ!!」

「な、なんだ!?」


 ロウアンの振るう剣が豪炎を纏う。薙ぎ払いの一閃は焔の波動となりボクの魔剣を弾き、体勢を崩した所にボクを貫かんと迫る。


『ちょっとロクス! 何やってんのよ!』

「そんなこと言っても……アレは何なのさ! 剣が燃えるなんて見たことないぞ……凄い魔力だ……!」

『バカ言わないでくれるかなあ? 私が炎の精霊に劣るわけないじゃん! 魔法剣なんてたかが知れた強さだよ? 私は自らを剣に変えた魔剣だ! 私の力を信じてさっさと立ちなさいよッ』


 そう言ったシャドルトの言葉を飲み込んで、ボクは体勢を立て直す。刹那、眼前に迫る刃を──


『影潜り!』


 闇の能力技を使い、一瞬で姿を消す。そしてすぐさま姿を現すと、さっきボクのいた位置、竜族の里を囲む壁が燃え上がり、溶岩のように溶けていた。


「……恐ろしいほどの熱力だ……あんなに硬そうな石壁を溶かすだなんて……」


 轟々と燃え盛るロウアンの剣の炎は勢いを増すばかり。ニヤと口元を緩め笑みを彼は浮かべながら口を開き。


「おもしれぇ技を使いやがるなあロクス! へっ! 残念だったぜ? てめぇを灰も残さず燃やし尽くすすつもりだったんだがな!」

「……!! (強い! 聖騎士と戦っている時よりよっぽど生きた心地がしないッ)」


 僅かに冷や汗を垂らし、ボクはロウアンを見やる。

 やはり彼は強い。時折り放たれる魔法もボクを苦しめ、派手な威力の魔法剣は非常に厄介だ。その強さから魔王エノディア様に戦いを挑んだのも頷ける。


 並の攻撃では彼を打ち破ることはできないだろう。


 とは言え……竜族のプライドの高さからか、一対一の戦いを望み、仲間に一切この戦いに手を出すなとロウアンが言ったのは救いだ。とてもじゃないがこんな屈強さを持ちあわせている竜族全てを相手にしなければならなかったのなら絶望しかない。


 でも。


 引き下がるわけにはいかない! 負けるわけにはいかないんだ!


『ロクス、キミはこれまでの聖騎士との戦いで経験値をかなり上げてる……さあ! 出来得る限り私の力を受け止めろ!』


 その言葉と同時に、ボクはロウアンの振り下ろした大剣を受け止め、刃を擦らせて受け流し──魔剣を水平に薙ぎ払う。


「チッ! やるじゃねえかロクス! どうやらてめぇもなかなかの修羅を生き抜いたと見えるぜッ」

「お前こそ! 竜族の長というのは伊達じゃないみたいだなっ!」


 互いの強さを交わす剣の数だけ理解していくボクらは──気がつくとどこか、戦いを楽しみ始めていた。


 撃ち落とし、剣線を潜り、シャドルトから注がれ続ける闇の力を受け止めて、ロウアンの重たい剣圧をビリビリと腕に感じながらも対応していくボクは自分にやがて酔いしれていく。


 ひと太刀合わせるごとに腕が軋み、瞬きひとつで確実に頭を割られそうだが──ボクは戦える!!

 そう思ったのは魔剣ソウルイーター……シャドルトとの出会いからここまでの聖騎士との戦いがボクを練り上げたのが実戦を通して理解したからだ。


「受けてみろロウアン……! 四影斬!!」

「──ッ!」


 ボクは勝負を決めようと現在で使える闇の能力からの攻撃技を繰り出す。実体を伴う四つの分身からの同時の一閃。

 ロウアンは剣で防御の態勢を取るがついに後退りしながら崩れそうになる、だが。


「ふ……見事だ。エノディアの使者、アウラスの生まれ変わり、魔剣の使い手……聖騎士どもとの戦いを潜り抜けたその力!! お前との剣舞をもっと楽しみたくなってる俺がいるが……」

「……?! (ロウアンの覇気が膨れ上がっている!)」


「どうやら精霊の力を付与したこの魔法剣、てめぇのその闇の魔剣ソウルイーターには少し見合わねえようだ!!」


 悠然とロウアンは剣を構えながら言った。それは高鳴る鼓動の音が聞こえてくるようで……


「……てめぇは強い! いや、その魔剣が強いのかもしれねーが……だがよ、それまでだ! 魅せてやるよ、竜族の本気ってヤツをよぉ!!」


 そう言ってロウアンの覇気がさらに増していく。長い間戦っているが、ボクらは互いに致命傷たる傷を負っていない。

 拮抗する剣技では決着がつかないと踏んだからか、彼は別の戦法を繰り出すつもりなのだろう。


 規格外と呼べる覇気が衝撃波を生み出し、ボクへと押し寄せる。バサバサと靡く髪の毛、ボクは衝撃に耐える様に左手を翳しながらロウアンを見る。──すると。



「グォアアアアアアアアアアアア!!」



 一瞬で理解した。竜の姿をしていない彼らが何故竜族と言われているのかを。ロウアンの姿形はまごうことなくドラゴンと化し、ボクの前に立ちはだかる。

 それもかつて遭遇したレッドドラゴンの比じゃないほどの迫力があり、漆黒の大きな翼を広げていた。


「ドラゴン……!!」


 ボクは魔剣の柄を強く握りながら、常軌を逸した光景に目を奪われていた。

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