第30話 旅立つ前に ③ 魂喰らいの意味

 ボクは二つの能力技を披露した後、魔剣に力を込める。すると迸るように黒い魔力が魔剣から溢れ出し、王陛下らを圧倒させる。

 もちろんこの魔力の9割はシャドルトのものだ。ボクがこんな力を出せるはずはないからね……


「なんと強力な魔力……! 我が息子の魔力に勝るとも劣らぬ圧力だ……うむ、かつて人間達を震撼させたと言われる闇の精霊剣に相違ない……」


『なんかムカつく。全力じゃないっつの。全力出せないんだよこっちはさあーー! まださーー!! 魔王に匹敵とかなんなんさ! 私の方が強いんだぞほんとはさあ!! つーかエノディアに加護を授けたの私なんだけどッ』


 シャドルト、ボクの頭の中でジタバタするのやめてくれないかな。君のせいで思考回路が破綻するし何よりうるさくてかなわないよ、ぷんすこするのは後にしてってば。王様の前で君(魔剣)に語りかけるどこかしら痛めのヤバいボクになりかねないんだけどな……。


「その精霊剣、まるで黒曜石みたいに綺麗ね。銘は?」


 するとファルルが興味ありげに聞いてくる。って、三人で買い物してる時に教えたのにわざとらしいお姫様だ。


「『魔剣ソウルイーター魂喰らい』です」

「……へぇ、絵本に出てくる伝説の魔剣の名前と一緒なんだね……」


 嘘くさい驚きの表情でファルルが頷きつつ、質問を続けてくる。仕方ない、ファルルは王様とお妃様にはボクと既に面識あるっておそらく言ってないんだから。


 しかし危ないよファルル。空気の読めないウチのバカ犬のこと忘れてない? 忘れてるよね? 『ファルル様何言ってるワン? 今日その話しした──ギャワフゥッ』


 ボクは右足でウルフィの足をしれっとした顔で思い切り踏むと悶絶しながら唇を噛んで痛みを我慢しているようだった。


「それはどうやって手に入れたの?」

「ベルグ荒野で闇の精霊に出会い、手にしました」

「どうしてベルグ荒野へ? 貴方みたいな子供が?」


 やっぱり来た、と思った。てかファルルに子供扱いされたくないんだけど。君だって子供じゃないか。


「……それは……ボクが人間と魔族の間に生まれた混血で、人間達から追放されたからです」


 妹が聖印の勇者とわかり、魔族の血を引くボクは兄という事実すら消され荒野に捨てられた。勇者の兄に魔族の血を引く者がいたら人間達にとって都合が悪いんだろう。

 しかし……魔族全体からしたら? ボクは人間の血も流れている。全て話したら魔族からも追放されてしまうのかな……



「……ほう、混血……その理由だけで追放されたのかね」


 返答を受け、ゴウセンは目を細める。


「……それだけじゃありません……ボクの妹がリィファ様に選ばれた勇者だから……です」



「なんと……! 妹が『聖印の勇者』であると……! ならばロクス少年よ、お主が魔王軍に入るということはいずれ『勇者』に立ち向かわねばならないやもしれぬということ。それでも魔王軍に入りたい……そう申すのだな?」


「……」


 突如、ゴウセン王から感じる圧力が急激に重くなる。


 ……その穏やかな表情と物腰はボクが話しやすいと勘違いしそうにはなるけど、目の前にいる堕天使族の王は紛うことなき魔王エノディア様の父君。

 高い才覚と能力……つまり実力と権力を兼ね備えた者であることは間違いない。並の魔族ならきっとその威圧感に飲まれてしまうだろう。空気の読めないウルフィですら、重たい空気を感じとり押し黙っている。



 冷や汗をかくほどの威圧感。その圧力を受けてもボクは──


「ボクは勇者……妹とは戦いたくありません」


 泰然と、答えを繰り返した。


「では、勇者に魔族が殺されてしまうならばお主はなんとする? それでも妹とは戦わないと……? こちらがより多く血を流しても良いと?」


「違いますッ! 王陛下……あくまで戦いたくない、そう申し上げただけです。もしも妹が勇者として力を振り翳し、聖騎士を率いてくるならば……ボクはきっと剣を抜くと思います……!」


「その言葉、信ずる根拠はあるか? お主に示すことができるのか──?」


「……ありません、しかしボクは弱きを助け巨悪と戦う気持ちに変わりはありません。

 もしボクが魔王軍に入れなくても……ボクは一人でも全力で理不尽を振り翳す者と戦います……それがたとえ妹だとしても、そして勇者だったとしても……!」


 ボクとエイナはもう……再会する時はきっと敵同士だ。それにボクは聖騎士と戦い、既に何人も傷つけている。人間達の敵としてボクが認識されるならば、魔剣士と勇者が互いに力をぶつけ合うことは想像に難くない。それが互いに血を分けた兄と妹だったとしても……そんな思いを込めてボクは真っ直ぐに視線を返した。


「……うむ、わかった」


 そう答えたボクに、王陛下は感心したかのようにボクを見据えると、話を変える。


「ではそれについては一旦置いておこう。……次にその魔剣の詳細についてだ。

 先ほど見せてもらった『影潜り』『四影斬』、これはその魔剣から注がれる闇の力によって、発動された。その認識で良いか?」


「はい」


「ではその魔剣の能力は──『魔剣がなければ使えない』ということであろう? 違うか?」

「たしかに今はそうですが厳密には使えない、という訳じゃないんです……ボクが『覚醒』したらその限りではないと、闇の精霊からは言われました」

「……ふむ……なるほどな……」


 先ほどの威圧感が収まっていき、ゴウセン王陛下はボクの言葉を飲みこむような声を出す。


「その『覚醒』はいつするのだ? それとお主の能力発動について制限はあるのか? 例えば一度発動した闇の能力が限界を超えたら命に関わる、とかな」


「『覚醒』についてはいつするのかはわかりません。そして能力使用制限と言うならば……命に関わる……というのは今はあります。力を使いすぎればボクの許容範囲を超えて魂を削り落とされます。……だからこそ、魂喰らいという名前がついてるのだと思いますが……」


「──!!」

「まぁ……なんてこと……」

「えぇッ嘘、ほんとう!?」


 今度はゴウセン王陛下だけでなくファシリナ王妃とファルルまでも本気の驚愕を見せていた。



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