第24話 立ち向かう勇気


 セルセレムにとって今まさに正念場である。堕天使族の兵はほぼ城内に座する王と王妃、そして既に城内に居るとされていたファルルを護る為に城内に立て篭り、また城壁から術を放つ魔族もいる中で聖騎士団はこれに対し容赦なく続々と部隊を投入。



 四方から烈火の如く攻め立てていく。



 しかしかろうじてセルセレムが落ちないでいる理由。それは偶然にしてこの地を訪れていた魔王エノディアの側近ウェドガーの存在……そしてもう一つ。



 人間たちにより追放された混血、──聖印の勇者エイナの兄、魔剣士ロクスの存在であった。




 ◇




「……ウェドガーさん、大丈夫ですか?」


「うむ……助かりましたぞロクス……すまない……しかし何故、お前がここにいるのだ……?」


「なぜ? 共に戦い、助けることに理由がいりますか?」


「っ! ……ふふ、一丁前なことを言いますな……!」


「ここで倒れないで下さいね、ウェドガーさん!」


「……くくく!! ほざくなロクス、私を誰だと思っておるのだ?! 私はオーガ族の剣士、『剣聖・神速のウェドガー』である! 舐めるな!!」


「……その気迫があれば大丈夫ですね、なら──シャドルト、どれだけボクの身体が持つかわからないけど……全力でいくよ……!」


『……オッケ……! やってやろうじゃないか!』



 ……この会話でウェドガーさんに炎を灯すことができた。……なら、後はボクの勇気だけだ!! このボクの想いを乗せた全力を叩きつける!!!!


「ツンツン頭!! 耳の穴かっぽじって聞けッ」

「ッてめぇ……! んだコラ!!」


「あんたはどうやら聖騎士の頂点になりたいようだけど……その口の悪さと頭の悪さなら土台無理、不可能! 諦めた方が賢明だ!!」


「……クソガキがてめぇ! 今すぐその魂ごと真っ二つにして地獄へ送ってやろうか?! オゥコラッ!!」


 そうだ、ボクを見ろ……額に浮き出た血管がこのハンスと呼ばれた聖騎士の短気な性格を晒け出し、意識はボクの方へと向かう。長髪垂れ目の聖騎士は奮い立つウェドガーさんを興味深げに観察している……彼らにとってボクやウェドガーさんが何をしようとどうとでも出来る余裕があると過信しているかの対応だ。


 ボクとしては啖呵をきったはいいとして、さっきの一撃以上の力を出さないと勝ち目は無い。……ならば。


「下っ端のチンピラみたいな発言をして聖騎士として恥ずかしくない? そんな性格じゃ貴方を慕う部下なんて一人もいないんだろうなッ」


 ボクの放つ言葉一つ、逐一反応しては額に浮き出る血管が増え、顔を真っ赤に上気させていく。……効いてるな、それに絶対に図星だ。それに彼の横に立つ垂れ目の聖騎士が呆れながらも頷いている。


「て、てんめぇ! お前みたいなガキに何が──」


「知性のカケラも感じないね、このチンピラ!! ほらどしたの? その持ってる剣は何ソレ?! ほらほら、かかってこいよ、それともオモチャかその剣!!」


 そのボクの畳み掛ける言葉が切っ掛けになり、一瞬静寂が訪れる。聞こえてくるのは周りに立つ炎がパチパチと燃える音だけ。

 ……数秒の沈黙の中、目の前の短気な聖騎士からブチリと何かが切れる音が聞こえた気がした。



「ぶっ殺してやらああああ!! 死にやがれこのクソガキがアァァァ!!!!」


「──『影潜り』!! からの……四影斬!!」


 怒りに任せて瞬足で近づいた聖騎士ハンスが振り下ろす聖剣を影潜りで躱し、シャドルトから身体へ流れてくる魔剣の能力技を放つ。

 知識も経験もないボクがどれだけ技の負担に耐えられるかわからないけれど……一瞬の隙を狙う作戦に変更はない。


「ぐはぁッ!! こ、 このガキがああッ!!」

「……ほう! やるではないかロクス!!」

「余所見をしていると死にますよ? オーガ族の剣士ッ」


 距離を置いて垂れ目と交戦するウェドガーさんから声が飛ぶ。魔剣を用いた闇の固有技でトゲ頭の白コートを切り裂き、四つの分身をしたボクの同時交差斬りが極まり、聖騎士は体制を崩す。

 よろめいた聖騎士の身体をさらに連続で攻撃すれば──


「──調子に乗ってんじゃねえぞガキこらッ! 聖剣技奥義──レイブレード閃光剣!!」


「なっ、光が──ぐはぁっ?!」


 横薙ぎに勢いよく振られた聖剣から纏う光が光槍となり放たれる。するとその光が捕捉したボクの身体に降り注ぐ……魔剣で振り払い光の槍を幾つか叩き落とすが全てを防げず光槍は盛大に突き刺さる……咄嗟に打ち落とすのが無理だと判断し魔剣を前に出して防御の姿勢を取るも、既に遅かった。


 ……これが上位聖騎士の技……?! く……つ、強い! 光の槍に貫かれ、身体の外も、内蔵すらもズタズタにされてしまう。


「──ヅハァッ!! グヴォッ……!」


 口から勢いよく血を吐瀉して地面に撒き散らし、それに留まらず両目から血涙が流れ出す。

 聖剣技によって肋骨は砕け、内蔵は貫かれ……シャドルトから注がれる強力な闇の力があるからそれでも倒れることはなかったけれども……真逆の強力な属性攻撃を至近距離から喰らうのは初めての経験だった。


『ロクスっ!!』

「ぬうっ! ロクスッ?!」


「だ、大丈夫だから……ぐふぉっ! ……ウェドガーさんはそっちの聖騎士に……集中……して……下さい!」


 シャドルトとウェドガーさんの心配を振り払わんばかりにやせ我慢をしつつ、長髪垂れ目の聖騎士を指差す。

 ボクの身体に突き刺さる光属性の効果が消え、せっかくファルルに買ってもらった新しい衣装はズタボロになってしまったけれど……


「けっ! 俺様の聖剣技を喰らい立ち上がることができるヤツなんざ……て、何でお前まだ倒れねーんだッ?」


「……それどころか、少しずつ傷が塞がっていくだとお! てめぇは……一体何者なんだ?」


 そうだ、ボクはこの魔剣を握れば流れてくる闇の精霊の強大な力を使う魔剣士となり……そしてまだ彼女の力を受け止め放つ時間はあるんだ。気力で体勢を立て直し、魔剣を構え直す。


「……ッ! ボクは……ッ! ……魔剣士だ!!」


 経験した事のない苦痛が身体中を駆け回るけど……視界をぼかす血を拭う。


『……さすがにまだ今のロクスに聖剣を打ち破るのは無理だったかな……いや、たぶんまだ大丈夫……なはず!』


 緊迫する状況でまた適当な発言をするシャドルトに返答をすることをボクはしなかった。無理か、無理じゃないかなんて関係ない、立ち向かう勇気があるならば、ボクはヤツらに対して何度でも立ち上がり戦うしかないんだ。


 そんな事よりも今は目の前の騎士だ……理不尽な侵略行為を繰り広げる者達の指揮官を刺し貫くように睨み付ける。


「……なんなんだてめぇ?! 俺様の聖剣技を喰らっていながらどこにそんな力が……化け物かこいつは!」


「化け物はあんただろ……アホ面でキーキー騒ぐなよ! 化け物面した掃き溜めの騎士めッ!」


「て、てめぇ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る