第23話 聖剣を持つ二人の騎士
「終わりですオーガ族の剣士! あの世で仲間が待っていますよ!」
少し垂れ目のキザったらしい聖騎士が右手に持つ聖剣を振り上げ、妖刀を防御の構えをしながらも膝をついたウェドガーにその刃を振り下ろそうとしている。
その聖騎士へ狙いを定め放たれた弾丸の如く──
「──ッるあああああ!!」
「ッロクス?!」
ボクはセルセレム城外壁から大きく跳躍し、ウェドガーさんに振り下ろさんとしていた剣を寸前で止めるように聖騎士の頭上をめがけ一気に振りかぶった魔剣を着地寸前で打ち下ろす。
しかし聖剣に防がれ、まるで思いっ切り硬い岩を叩いた様な衝撃が両手を走る。
「おや? 飛べない堕天使が空から来る筈がないと思ったのですが……ふむ、子供じゃないですか」
「ガキが兵隊にいんのかよ、魔族ってのはどーしよーもねえヤツらだなあおい」
「どうしようもないのは貴方たちだ!! ここからはボクが相手になってやる!!!!」
「オイコラ、坊主……! 自分が相手にしようとしているのが誰なのか理解っているのか?」
「わかっている! 掃き溜めの騎士だろ貴方達はッ」
「ふ……! 神をも畏れぬ不届き者ですね……! それに少年よ、神に仕える私達へのその言葉は許しがたい。ま、もっとも? この世の秩序を乱し、神の創りたもうた自然の摂理に逆らう貴方方魔族を生かすつもりも、許すつもりもありませんが??」
「何が〝秩序〟を乱すだッ! 貴方の言っている〝秩序〟など都合の良い言葉でしかないッ!! 魔族だって生きてる、生きているんだッ!! 生命を簡単に奪って、それをにやけて笑う聖騎士の貴方たちに〝神〟を語る資格などあるものかッ!」
腕に残る痺れを取るように、魔剣で空を振り払う。
とは言え、勇んで魔剣を向けてはいるものの、今のボクがシャドルトから注がれる闇の力を受け止められる限られた時間は少ない。
それに急激な身体能力の強化とそれに伴う闇の能力の限定的使用……その魔剣士として振るえる膂力を以てしての渾身の振り下ろしを防ぐなんて、昨日の聖騎士とは格が違う。
そう思ったのは立ちはだかる二人の聖騎士には見たこともない剣が握られていたからだ。大型の剣、細身の長剣……どちらも蒼白の輝きを放っていた。
『……ロクス、ヤツらの持つあれが聖剣だよ。ったく忌々しいったらありゃしない!』
「……あれが、聖剣……」
心做しかシャドルトの声に怒りを感じる……ここまで溢れ出る彼女の憎悪の念を感じ取るのは初めてかも知れない。
『いいかいロクス、ヤツらは光の精霊の加護はおろか創造神の加護も受ける上位聖騎士──聖騎士のヤツらの中でも一番上の階級にいる厄介な者達だ』
「!!」
あのマルゲリフ率いる聖騎士達に力を使い切ってしまう程度のボクじゃ全く相手にならないかもしれない格上の相手って訳だ……そして何よりも、ボクの目いっぱい力を込めた初撃は通用しなかった。
気配だけでボクの剣を見切るとか剣豪レベルだと思う……なぜなら不意打ちで放った渾身の一撃がこのなんだかナルシストな聖騎士に何のダメージも与えられていない。
……ウルフィにはファルルを連れてセルセレム城の中へと向かわせたし、彼が居なくてボク一人で倒せるだろうか……! しかし、やらなければ目の前のウェドガーさんはもちろんのこと他の魔族を助けるだなんてできやしないんだ!
『今のロクスが聖剣を打ち破るには──そうだね、私の力を身体が壊れるまで受け止めるしかない……たぶん』
「……」
こんな状況で適当言わないでよ。今ボクを奮い立たせる勇気を萎えさせるつもりとかはシャドルトには無いんだろうけど……まったく。
それにしても本当に胸糞悪い気持ちになる……なんで聖なる騎士達が揃いも揃って抵抗できない魔族ですら殺そうとするんだ。ここに来る直前に魔族を襲う聖騎士達を何人も命を奪わずになんとか倒して来たけれど……全てを倒してきたわけじゃないんだ。
……早くこの指揮官二人を倒さないと……!
『……それでも、戦うよね? ロクスに今回は逃げろとは言わない……なぜなら私はムカついてるんだ!!』
「──同じさ、シャドルト!!」
『よし! あんのくっそ忌々しい聖剣をぶち折ってやろう!』
珍しく声を荒らげイキリ立つシャドルトの感情に呼応して、ボクは目の前の聖騎士二人を睨む。
すると、ボクを追放した聖騎士達の顔が重なっていく──
◇
「……おい、聖騎士!」
「あん?」
「なんですか? 魔族の少年」
二人の聖騎士の位置とウェドガーさんの距離を確認し、一歩ずつ歩み寄りながら奴らに向かって尊大に話しかける。
「貴方たちは、それなりに権威を持つ聖騎士なんですよね??」
「それなりだとぉ? けっ!! おいジョンソン、この無礼極まるクソガキ今すぐぶっ殺してやろうぜ!?」
「ふっ……ハンス、まぁ少し待って下さい。私は彼の質問に少し興味が湧きました……で、それがどうかしましたか? 魔族の少年」
なるほど、片方のトゲトゲツンツン頭の聖騎士は短気で長髪垂れ目の聖騎士は割と冷静沈着な性格をしてるんだね……やり合うなら短気な方かも。
マルゲリフはどちらかといえば短気な方だったし、それを参考にするなら隙を突ける確率が高い。
……可能性ってだけで根拠は凄く弱いけど。
「貴方たちは魔族と人間の混血の子供を追放した聖騎士達のことを知っていますか?」
絶対に忘れられず、今も目を瞑らずとも思い出すあの時の記憶……絶対にあの聖騎士達に復讐をするまで、ボクは死ぬつもりなどない。
「あ? ……えーと、どこの部隊だったっけ? なんか知ってる気がしなくもねえな」
「ハンス……私達と同じ『ロイヤルアークナイツ』の〝第4師団長アンソル殿〟のところの小隊でしょう?」
「……かあぁ! 今思い出した、なるほどアイツらか! あそこのブッサイクなライモンが副長を務めた例のアレだろ? 興味無えから忘れてたぜ」
やっぱり知ってたか……にしてもトゲトゲ頭と垂れ目と同じロイヤルなんたらかんたらって事は、聖騎士達の中でも相当な強さを誇るに相違ない。
……第4師団って事は……もっと強い騎士がいるんだろう。この聖騎士達は彼らよりも強い上位の聖騎士なんだろうか? それにしてもボクを最も痛めつけた聖騎士の名前が〝ライモン〟ってことがわかった。あの時の小隊長が〝アンソル〟って人なのかは分からないけど。
「いけませんよハンス。貴方よりもアンソル殿は歳上なんですからその部隊をアイツら呼ばわりするのは好ましくありません」
「っても俺らより格下じゃねーかよ」
「やれやれ……ハンスはほんとガサツですねえ。もういいです、貴方に何を言っても無駄なようです」
「そうそう! いーんだよあんなヤツらのことなんざよぉ、それよりも第一師団長を務めるあのすまし顔の小僧をどうやって引きずり下ろしてやるかをだな……」
とりあえず例の副長の名前や彼らの情報は僅かだけど聞き出せた……今は聖騎士団の中でもある程度の高い地位に居る人物だと言うことが分かればそれで良い。
それに、少しだけど時間稼ぎと敵の意識を逸らす事は上手くいった。
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