第22話 急襲、そして抗戦〔ウェドガー視点〕


『聖リィファ教会聖騎士団ロイヤルアークナイツ』


 堕天使族の都に攻め入ったのはその第二、第三師団の上位聖騎士達の連合師団であり、団長を務める『聖剣』を持つ聖騎士二人を先頭に騎士団は完璧に張り巡らされた結界を破り、セルセレムの堕天使族の兵士を撃破していく。そして、セルセレム城へと放たれた炎は騎士団の後方支援と援護射撃役を担う『聖法術士』による〝精霊術〟であった。


 セルセレム軍の防衛線は真っ二つに切り裂かれ、セルセレムを護らんと奮闘している剣聖ウェドガーも苦戦を強いられ、聖騎士団からの突然の急襲にセルセレムは凄まじい被害を被っていくのだった。



 ◇


 〔 ウェドガー視点 〕



「おのれ……クズどもが!!」



 ──この『聖剣使い』、私の妖刀『百鬼夜行』の斬撃を軽くいなすなどと……!

 妖刀の切っ先を絶えず目の前に居る相手へと焦点を合わせる。足に力を入れ、踏み込みを強く斬撃を放ち続ける。


「へぇ! 魔族のおっさんなかなかいい太刀筋だ! 手応えの無えヤツらばかりかと思ったけど楽しませてくれるね!」


 ──言葉使いの悪い若僧が……!!

 今私の目の前で薄気味悪く笑みを浮かべる白コートの聖騎士……〝聖剣フラガラッハ〟を振るう細身の男……。

 器用にその剣を使いこなし私の〝暗黒剣技〟に物怖じするどころか打ち合いを楽しんでいる。


「ふっ……ハンス、遊びも大概にして下さいよ?  ここに来た目的を忘れたんじゃあないでしょうね?」


 ──遊びだと? このキザな小童め……!


 〝聖剣ツヴァイヘンダー〟を握る聖騎士は私との戦闘を〝遊び〟と吐かすか! 舐められたものだ……!

 しかし、数々の修羅場を潜り抜けて来た私だが〝聖剣使い〟を二人相手にするのはたしかに骨が折れる。……だが、背を晒すわけにはいかぬ。たとえこの身砕けようとも、この地を、王と妃を、──魔王様の妹君を護らねば、魔王様に顔向けできぬ。



「忘れるわけないだろジョンソン。つーか目的の半分は達成してるんだから少しくらい良いだろ?」


 血を流し倒れる堕天使族の兵士を踏みつけているジョンソンと呼ばれた聖騎士に、顔を向けて同意を促すハンス。堕天使族の翼は剥ぎ取られ、ジョンソンは堕天使族の身体に聖剣を突き立てる。すると兵士は一言嗚咽めいた声をあげてピクリともしなくなり。


「貴様ぁあああ!!」


 私がそう叫ぶと、堕天使族に突き立てた聖剣を抜いた聖騎士ジョンソンは余裕の表情で私を眺め見るように、油断なく聖剣を構えていた。


「ふっ……ハンス、ところでオーガ族ってのはこの間したんじゃありませんでしたか? 彼はオーガ族ですよね?」


 黒髪の青年が嫌みたらしく私を見下すような目つきで眺め見ながらフラガラッハを持つ聖騎士に尋ねる。


「あぁ、ジョンソンの言う通り。オーガだなこいつ。全滅させたはずなんだが、たまたまこいつは運良くあの場所にいなかったんだろ」


 フラガラッハの剣先を私に向け、視線はジョンソンに向けたまま話す騎士に私は我慢できず声を荒げ叫んでいた。


「!!!! 貴様か! 貴様らがやったのか!!」


「うるせえなーっ! だからなんだってんだよおっさん!!」


「そう、我々がオーガ族を粛正したことに否定はない。事実だが何か問題が? ふっ……安心しろオーガ族の生き残りよ、あなたもすぐに仲間のところへと送ってやる。──地獄にな」


 大型の聖剣ツヴァイヘンダーを構えて意味ありげの視線を向ける舐めた小童に私は妖刀の刃を向ける。


「許さぬぞ、小童ども!! 貴様らのその命を鎮魂の灯明にして同胞に捧げてやる!!!!」


 大地を踏みしだき妖刀を打ち込むと、次の瞬間二人の聖騎士は剣を同時に薙ぎ払っていた。

 剣閃一閃、二人の聖騎士の持つ聖剣と、魔族の剣聖が薙ぎ払った妖刀の斬撃が激突する──!



 ◇



「ふっ……無駄な抵抗はやめたら如何だ、魔族の剣士よ……お前たちに勝ち目などないのだからッ」


「勝ち目だと? 小童聖騎士が何をほざくか! 貴様らが何故このようなふざけた侵略行為を仕掛けてくるかは知らぬが! るからには本気で貴様らを始末してやろうぞ!!!!」


「けっ!! 強がりだなおっさんよぉ、お前らみたいな脆弱な魔族どもに何ができるってんだ?! あぁ!?」


「我々をなめるなよ、人間……! 我ら魔族を玩ぶ貴様ら人間たちに容赦はせぬ!! 貴様ら人間を排除し、そして殲滅してくれる!!」


「やれやれ……てめぇの仲間たちがバタバタと倒れていってるってのによお、頭イカれてんじゃねえか? なあジョンソン?」


「ふっ……我らロイヤルアークナイツの団長二人に勝とうというのか……? いいだろう、聖剣の力を見せてやる!」



「やってみるがいい小童ども!! ──はぁぁぁぁああ!!!!」


 倒れゆく魔族、そして悔恨の表情をしながら散ってゆく堕天使族の兵士を目にしながら、私は守れなかったオーガ一族を、妻を、娘を思い出す。


 私があの時、皆と共にいることができたならば、という罪悪感、そして、そして……いきなり現れては理不尽にも全てを奪って行く人間らに対する憎しみの感情ッ!!

 私から妻と娘、そして故郷を奪うだけでは飽き足らず、次々と同胞たちの居場所を蹂躙し、奪い、辱める……絶対に許せる筈がなかろう!!



「暗黒剣技奥義の型──暗点時雨!!!!」



 発動するのは、妖刀の『魔力』。相手が使う聖剣の力の質量も考え、その魔力量を高め……渾身の踏み込み、奴らへの憎悪を糧として自身を奮い立たせて放った最高の一撃を放つ。


 ガギィイイインという濁った金属音が、空間に響き渡る。聖剣と妖刀が交差することで、相反する属性同士がぶつかり合うたびに不協和音を奏でていく。



「ははっ! ハンスの言うとおりだ! 私の動きを読んでの一閃、見事なものだよ、面白いね!」



 にやけた表情の長髪の聖騎士の胴体を切り離すつもりで放った私の斬撃は、奴には傷一つ付ける事も出来ず空振りに終わる。

 その後、始まるのは聖騎士二人による縦横無尽の剣戟だった。互いに上位聖騎士としての特性は、下級、中級の聖騎士どもの力を遥かに凌駕している。


 といっても、〝聖剣〟と〝聖剣技〟に対抗し得る術を私は保有している。彼らが繰り出す技のその一方で、私は妖刀を用いて〝暗黒剣技〟でそれを弾き飛ばす。


 元々、『神速』という二つ名を持つ私ではあるが、その本質は剣士というよりも、侍という存在に近い。


 古の昔、かつて滅んだとされる東方の島国の剣士のことを我々オーガ族はサムライと呼んでいた。なぜなら我々オーガ族にはその祖先の血を引く血族。サムライが繰り出すその圧倒的な剣技は受け継がれ今に至るのだ。


 その剣技があまりにも真に迫り過ぎ、やがて音を超えて、光を超えるようなその剣技を『暗黒剣技』という。

 その一つ一つの技が、聖騎士の固有剣技である聖剣技に匹敵する。厳密にいえば、繰り出す者の力一つで聖剣技を超えると私は信じていた。



 ……しかし……


「……クッ!! まさかこれほどとは……!!」



 絶え間なく繰り出される聖剣技に圧倒され、私はついに膝をついてしまうのだった。

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