第25話 想いは力の目覚めを呼ぶ
〔ロクス視点含む〕
「けっ! 口だけは一丁前のくせに手も足も出せねーみてぇだなあオイ!!」
かくして再開した、フラガラッハと呼ばれた聖剣を振るう聖騎士ハンスの猛攻。
絶え間なく振り下ろされる、先日の聖騎士の攻撃力を軽々と上回る威力の豪剣。加えて〝聖剣技〟を合間に繰り出された結果、経験値の足らないボクが闇の能力を駆使しても相手の速さについていけず、防ぎ切ることが難しいほどの暴威。
受け止める度に足元の大地は抉れ、その脅威さを痛感する。防御に徹しているばかりのボクを嘲笑うかのように飛んでくるフラガラッハによる薙ぎ払いの一閃。『影潜り』を発動しようものなら聖剣技で光を放ち影を消し去るため不意を突いた攻撃を封じられる。その上に光の精霊術を尚も畳みかけるように放つ。
魔剣士成り立てのボクを遥かに上回る凄まじい攻勢に、真っ向から立ち向かうボクはハンスの言う通り、ほとんど防戦一方を強いられていた。
「調子に乗ってこの俺様に喧嘩売ったんだ!! 生かしちゃおかねーから覚悟しろよ?! とは言え、ジョンソンが言った通りよぉ、てめぇら魔族は皆殺しだッ! 今ごろ俺らの部下がそこいらを蹂躙してるのは間違いねえしなッ!!」
「なぜ抵抗できない者を手にかけるんだ!? 貴方はそれでも聖なる神に仕える聖騎士なのかッ!」
「あ? 非戦闘の魔族のことを言っているのか? バカが!! 俺らがやらなくても他のヤツらがてめぇらをぶっ殺してるよ!!」
「考えてもみろ? 俺ら聖騎士は皇帝や教皇から命令されて任務をこなす軍隊な訳だ! 俺ら以外にどれだけ騎士団があると思ってんだ!!」
「ボクが許せないのはそんな貴方達が聖騎士を謳って残酷な行為を繰り広げていることだッ! 騎士なら騎士道を重んじるものじゃないのかッ! それがたとえ相手が魔族だったとしても!!」
「騎士道精神なんざ知ったこっちゃねえよ!!」
聖騎士ハンスの猛攻は続く。
向上した身体能力と魔剣のおかげでどうにか致命打は防いでいるものの、今のボクにさそれが精一杯だ。反撃を繰り出す隙がない。
これまで散々馬鹿にしたボクを一方的に痛めつける愉悦を聖騎士ハンスは存分に楽しんでいる。
「聖騎士ハンス……貴方は、いや貴方たちは!! 〝慈悲〟や〝正義〟という心を持っていないのか!! 聖騎士は正義のために剣を振るう者だ!! 貴方にはその資格なんかない、絶対に!!」
「戯れ言を抜かしてんじゃねぇぞクソガキ!! 〝正義〟だと? 〝慈悲〟だと? そんな綺麗事でメシが食えるほど世の中甘かねーんだよッ!!」
「なら聖騎士を謳うなッ! この外道が!!」
ロクスにしても、ハンスにとっても嘘偽りの無い言葉だった。
そして。聖騎士ハンス……彼は──否、この場に居合わせる者達は知らなかった。これまで、人間達が魔族よりも圧倒的に強い力を持ち合わせてはいる……が、ロクスは前世では脅威的な力で人間達に立ち向かった暗黒の剣士だったのを、魔剣化しているシャドルト以外は知り得ない。
それ故に、人間と魔族が戦う上でのロクス本来の本質を見抜くことができなかったのだ。
それは、シャドルト以外……誰にも──魔剣を振るうロクス自身でさえも。
即ち──『聖剣を持つ相手とどう戦うか』ということ。彼の、前世から受け継がれる力が少しずつ〝覚醒〟しようとしていた。
◇
〔 聖騎士ハンス視点含む 〕
「……バカな……! このガキ、少しずつ強くなっているような──クッ!!」
聖騎士ハンスがそれに気づいた時には、戦況は少しずつ逆転しつつあった。
まず、防戦一方だったロクスの反撃が増えていく。光の精霊術を放つも狂気じみた特攻を仕掛けてくるようになる。しかも繰り出される剣線は効率よく、より徹底的に攻撃を仕掛けてくるからだ。
それを認識した瞬間に、ハンスが目にしたもの──
「な、なんなんだてめぇを纏うその凶々しい闘気は?! 今までそんな紫黒の気を纏う魔族なんざ見たこと──チィイッ!!」
余裕のあった攻撃はいつしか防がれ、そこからの反撃が流れるように繰り出され──そこで、更に気付く。
今の斬撃。先程までにフラガラッハで受け流していた斬撃と比べて……明らかに、重さが段違いだ。
「聖騎士ハンス、貴方は悲しい人だ。たとえ、命令に従わねばならない騎士だとしても、もしも貴方が正義を貫く聖なる者であるならばボクは迷い、貴方を朽ち果てさせようなどと考えることはなかったかもしれない……!」
「しかし貴方の思想や言動はボクの価値観を完全に打ち壊した! 今、ここで貴方を──倒す!!!!」
疑問を脳裏に浮かばせる聖騎士ハンスの耳にロクスの声が響く。その声が少しずつ、彼の脳裏に『敗北』の二文字をチラつかせる。
睨み見据えるその表情、その碧眼の瞳は爛々と輝きやがて聖騎士ハンスは感じていく。そう……恐怖という感情を。己れよりも歳下の子供が臆することなく立ち向かい剣を振るう尋常じゃない状況に──
「るあああああああッ!」
「ぐ──ッ!?」
反撃の威力が、更に上がっていく。
聖騎士ハンスはここでようやく、その疑問の答えの一つに辿り着く。
──こいつの力もやべぇが、こいつの剣もやべえ!! あまり気にしてなかったが、よく見りゃ異形……それでいてガキが振るうにはデカすぎる……!! なんだってんだ?! いくら俺が持つ聖剣のレベルが下でも聖剣だぞ?! 最高峰の剣だってのにヤツの剣は傷も、刃毀れすらしねえ!!
……まさか。
……闇の属性を持つ〝魔剣〟じゃねえのか……!?
『そもそも聖剣の斬撃を防ぐ』というこの極めて特異な状況を、交戦中であるにもかかわらず頭の中で整理する。
かつてない経験が、上位聖騎士である彼の傲慢さに慣れた精神性は少し角がとれ、答えを出していく。
そして何より──眼前の魔族の桁外れな成長を遂げていく剣線。絶え間なく繰り出される斬撃に、芽生えた恐怖の感情がハンスの中に黒く、黒く形を成していく。
しかし、第二聖騎士団団長を務めるが故に──プライドの高さがそれを振り払う。
「舐めんじゃねえ!! このクソガキが!!」
苛立ちと共に悪態をつく聖騎士ハンスの意図に応えるように、聖剣の薙ぎ払いを絡めた聖剣技をロクスに放つ。
だが……予想を遥かに超える対応をロクスは見せる。
「な、なんだ……と……!?」
ロクスが放たれた光の刃を全て打ち払う。防ぐのではなく、全て打ち落とすように剣を振るうのだ。落とし、弾き、斬り払う……。
これは、ハンスの先程使用した聖剣技。未だかつて防がれたことのない『鋼鉄の鎧すら貫通する攻撃』をいなす。
「……一度でも見た技はボクには効かない! ボクは父さん譲りの〝魔眼〟の持ち主だ。貴方の振るう剣は速いけど、目で追えるよ? ……なら……貴方はボクに勝てない!!」
そしてこのロクスの一言を機に、完全に攻守が逆転する。
「認めねえ! 認めねえぞ?! この俺がガキに負けるだなんて……俺はロイヤルアークナイツのハンス様だぞコラあ!!!!」
躍起になって聖剣を振るい、精霊術を放つも虚しく防がれる。反撃も更に威力を増し、戦いの中で相手の剣技は研ぎ澄まされ洗練されていく。
遂にハンスの方が防戦一方へと逆転し、歯を食い縛る。必然、戦況は更に傾いて遂にある瞬間、斬撃の衝撃にハンスの身体を支える足元の大地がヒビを入れ抉れていく。
「貴方に最後に問う……命が惜しければセルセレムから出ていけ!! 仲間諸共だッ」
燃え盛る魂が血潮をひどく沸き立たたせる。感情と想いが、ロクス自身の何もかも全てが闘争心の炎の塊りになっていた。
振り下ろす剣に込められた力が更に、更に重さを増していく。揺るがない想いが力となりハンスの聖剣フラガラッハに亀裂が入る。
しかし。
「うるせぇクソガキ! くたばりやがれえええ!!」
ハンスの返答にロクスは自らが気がついていない『能力限界』を突破、魔剣を握る拳に力を込めて渾身の一撃を放つと、亀裂の入ったフラガラッハは折れ、勢いのままハンスの身体を切り裂くのだった。
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