第13話 解放
『……ったく! 無茶しすぎなんだロクスはさぁ!!』
「……シャドルト……」
『ウルフィを同行者にしといて正解だったね、最後……彼がいなかったらどうなっていたことか……』
意識を取り戻すと直ぐに、精霊に姿を戻し長い黒髪を後ろへかきあげるシャドルトの整った顔が視界いっぱいに映る。
初めて彼女に出逢った時を思い出し、ボクはなぜか自然と口元が緩んでいた。……だってついこの間も意識を失う寸前でボクに声をかけてきたのはシャドルトだったから。
「……悪かったよ」
『ま、初戦にしちゃあ上出来、てことにしておくよ』
頭を掻きながら俯き答えるボクに対して、シャドルトは仕方ないといったような面持ちで答えていた。そんな中ボクは感謝の気持ちは必ず持てと父さんに言われたことを思い出し、顔を上げ彼女に告げる。
「シャドルト……ありがとう」
『……もういいよロクス。でもね? 私が言ったことはしっかり胸に刻んでおいてよ。いつまでもこんな戦い方が押し通るわけじゃない。人間の命を絶つ気概がなければキミが殺されてしまうこともあるかも知れない……いや、仲間が殺されてしまうことだってあり得るんだ』
「うん……覚えておくよ……」
『オッケ、んじゃあさっさと起きてちゃっちゃとここを離れようよ。……って、ウルフィにお礼も忘れずにね』
もちろん伝えるさ。それとあまり長い時間意識を失い倒れていた訳ではないみたいだけど、シャドルトが言うのはもっともだ。実際に敵地の中心に居る事に変わりはないんだしね。
「ウルフィ、助けてくれてありがとう」
「なーにお安い御用だワン! ロクスこそオレを助けてくれてサンキューワンよっ」
「あはは、こちらこそさ。……てかシャドルト、いつの間に精霊の姿に? あれ? ウルフィは驚かないの?」
『キミが気を失ってる間に自己紹介は済ませたよ』
「……そっか」
シャドルトが意図的に姿を表して体力がごっそり減ったボクの身体に回復治癒を施してくれたらしい。その時、ボクが魔族の救世主たるべき存在であることや、人間と魔族の混血だとか、……妹が創造神リィファに選ばれた勇者だとか……ある程度のことをウルフィには説明してくれたそうだ。
「ウルフィ、転移魔法陣でボクらは堕天使族の元へ向かう。……君はどうする?」
『ロクス、だめだなあ〜〜! 〝一緒に行こうぜ!〟とか言えないの?? ダサっ』
「な……ッ! いきなりそんなこと言えないよ!」
『しかし安心したまえロクスくん! 既に私がウルフィを魔剣士ロクスとその一味、そして〝四天王〟の一人に任命したから大丈夫』
「わふふッ。今後もよろしくワンよ?」
「はぁ?!……まったく勝手なヤツだなあ」
呆れたような言い方をするボクだったけど、実は嬉しかったんだ。照れ隠しさ……、だって初めての仲間。初めての……友達。いや、もちろんシャドルトも友人には変わりないんだけど。
ボクを助けてくれた獣人族の人狼ウルフィ。人間の友達なんて一人もいやしなかったボクが背中を預け……そして背中を預けてくれた初めての仲間……。
「いや、ロクスについて行けばいずれ魔王軍の大幹部として美味いメシにありつけるワンよね?! たらふくメシが食える毎日だなんて幸せだワンよ!!」
「は? 何それ!? ……シャドルト??」
ボクはこのワンコに何かを吹聴した闇の精霊に視線を向ける。すると斜め上に目線を向けながら「スヒー」と口笛にすらなってないのに口を尖らしていた。
ボクはシャドルトに突っ込みを入れる事を辞めた。
後でわかったことなんだけど、どうやらボクがいずれ『魔王軍最強の将』として世界に名を轟かすとウルフィに告げたらしい。……彼女を放っておけば何を言われるかわかったもんじゃないと考えながら、ボクはゆっくりと立ち上がる。
「……そろそろここを離れよう」
『そうだね、大団円にはまだ早いしね』
「転移魔法陣がボクのことも通してくれたら良いのだけど」
「……ロクス、心配することないワンよ! お前が魔族だってことはオレが証明してやるワン!! 人間の匂いがするってだけで大丈夫だワン!!!!」
どうでもい良いけど、誰に証明して何が大丈夫なのか。能天気に両腕を腰に当てて踏ん反り返るウルフィのなんと無責任な発言なことか。
……とは言え、彼の明るい性格にボクは何だか可笑しくなってしまう。
「とりあえずボクの体力も問題ない程度には回復しているから、彼女達を戻そうかな。大丈夫だよねシャドルト??」
『もちオッケだよ。キミを回復させた私を誰と思ってんのさ?? 私はかつて世界を震撼させた闇の──』
「あ、もういいよシャドルト」
発言を遮ることで心做しか不満げな表情を浮かべている気がするシャドルトから目線を外し、ボクは体内を流れる闇の力を手の平に集約すると、やはり最初と同じようにキューブ状の黒い塊りが顕現する。
『〝
「わかった……『
シャドルトの助言を受けながら、詠唱をする。彼女の力がどんな原理でボクに注がれてるかわからないし、ボクがいつの間にか闇の魔法を使えるようになったのか考えるけれど、さっぱり答えは見つからない。
ボクは他の精霊魔法をほんの少しだけ使えるけれど、それは亡くなった父さんから受け継がれたものではあるし、精霊と契約を交わしたわけじゃないから……。
そんな思考を巡らせた刹那、黒い塊りがくるくると回転したかと思うとボクの手を離れ、宙に浮かんだ瞬間に硝子が砕けるように塊りが散っていく……。
すると目の前には、おっかなびっくりといった様子で魔族の女性たちが立ち尽くしていた。
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