第9話 人狼ウルフィ=ファンガース
「……あれ? 見張りが誰もいない……?」
『……そりゃまぁ、人間たちからしたら痕跡を残さずに暗躍する脅威……つまりロクスを見つけ排除するのが先決だろうからね。捕虜に構ってる場合じゃないんじゃないかな?』
「そーゆーことか」
先ず最初に捕まっている獣人を助けようとシャドルトの案内の末にこの場に訪れたのだけど……どうやらボクの捜索に転移魔法陣の側の見張りも駆り出されたようだ。それなら騒ぎになったとしても、すんなりこの獣人を助けられる利点があったってことだから良しとしよう。
「っ! 誰だワン?!」
「シーッ!! おっきな声出すなって。助けに来たよ」
「……む! お前から闇の精霊様の気配がするワンね! さては精霊様の従者かワン?!」
石柱に繋がれている獣人が顔を上げて言った。この狼の顔した魔族がシャドルトの言っていた奴か。彼女を知っていると分かれば話は早い……さっさと手錠と足枷を外そうと人狼の前に歩み寄り、鉄輪で束ねられた鍵を一つ一つ確かめながら捕まっていた人狼の質問に答える。
「ん?……でもお前……人間の匂いするワン……グルルル!! ガァウ!!!!」
「……るっさいなあ! おっきな声出すなって言っただろ!!!!」
「ブフっ……」
『ロクスの声もたいがいだけどね』
「うっ……」
シャドルトがボクの頭の中で呟く。精霊の姿から魔剣にまた戻っているからこの人狼に声は届いていないようだけど……。それにしても、彼にしたら人間が助けようとするなんて何か画策してると思っても仕方ないことだ。警戒するのは当然だと思う。
……鍵を外している最中に人狼はボクを調べるように鼻先をヒクヒクさせ、髪の近くでくんかくんかと嗅いでいるのが分かる。しかし警戒するより好奇心の方がこの魔族には勝っているようだった。
つーか嗅ぎすぎだよ、なんなんだこいつ。
「……ボクは君の敵じゃない。お願いだから、どうかボクを信じて欲しい。……ほら、コレを見れば分かるだろ」
「……そ、それは!!」
絶対に信用される保障は無いかも知れないけれど、ボクが魔族の味方であるという証拠──魔剣を彼に見せて助力を乞う。まだ捕まってる魔族を助けるにはボクだけじゃなく、彼の力も借りることができるのならそれに越したことはない。
「……お前、何者だワン……?」
「その答えは後でいいかな? 他に捕まってる魔族を助けて転移魔法陣でここを脱出する。君の力を貸してくれないか?? あまり時間が無いんだ」
じっと彼の目を見据え、嘘偽りが無いことを示すようにその視線を逸らさずに告げる。人狼は僕を凝視したのも束の間、その疑心暗鬼を払拭したのか逆立っていた体毛はいつしか落ち着き、ふさふさの尻尾をふりふりしていた。
「ブフッ! 助けられた礼をしなければ誇り高き狼として恥!! わかったワン、お前に協力するワンよ!」
「ありがとう!! ボクの名前はロクス、よろしくね。えーと……」
「ウルフィ、オレの名はウルフィ=ファンガースだワン!!」
シャドルトとボクは二人で一人みたいなもので、戦力の心細さを少なからず感じていたからウルフィの協力は有り難い。
これで後は別の場所で拘束されてる魔族を助けて全員で転移魔法陣で脱出できればそれで良い。……それにしてもこいつ、狼って言うわりには語尾が犬じゃないか……
そんなことを考えながら、ボクは捕われの女性魔族がいる場所へと向かうのだった。
◇
捕われの魔族のいる場所にて────
「あなたは……?」
「貴女たちを助けに来た……正義の味方です」
「……人間?」
はぁ、やっぱりそこにいるウルフィと同じ反応だ。他の魔族にもボクは人間に見えるんだね……って、ボクだってこの間まで自分のことを人間だと認識していたし。
それよりさっさと事を済ませてしまおうとしゃがみ込んでいる魔族の女性達の鍵を一人ずつ外していく。首を傾げ、不安げな瞳を向ける者たちの声に応えていく。
「あなた……人間でしょう……? なぜ助けてくれるの」
「……生まれつき魔族の貴女たちには理解できないでしょうが……ボクは人間と魔族の混血なんです」
「そんなっ……?!」
「混血……いったいどの種族とかしら……」
「……半分は人間……信用できるの?!」
そんな露骨に拒否反応を示さないで欲しい……一人は落胆の表情をしているし、最近人間たちから追放されたばかりなだけに、少しだけ傷付いてしまう。
「……ボクを信じられないならそれで構いません。しかし貴女たちを助けに来たのは事実です。転移魔法陣を使ってここから離れましょう、貴女たちのことはボクが必ず護ってみせます」
「『……』」
その言葉を絶対として証明する事は出来ない。けれどボクが人間達に屈する事なく戦いを挑むという意志を込めながら、彼女たちを見渡しながら告げる。
魔族にボクのことを知らしめるとか、そんな理由じゃないんだ。……ただ単純に、助けられるなら助けてあげたいじゃないか。ボクだってシャドルトに助けてもらったわけだし。
「もう時間がありません。……ボクが思うに今貴女たちに必要なのは疑問を持つことじゃない。安全で安心できる場所へと逃げることです、それも今すぐに」
「……君にそれができるというの……?」
「……でも、ここにずっといたら私たちは人間に……」
「……いいよ、貴方を信じる」
困惑する大半の大人の女性達に混じり、彼女たちとボクのやり取りを不安そうに見詰める子ども達の中の一人……じっと僕を凝視していた蒼髪の三つ目の女の子が声を上げる。
「わたし達には今あなたを頼るしかないと思う、この際あなたがどこの種族かとか、人間との混血だとか気にしてられないよ」
「……そうね、このままここに居ても、私たちの未来は無いんだし」
「まだ年端もいかない子どもにお願いするのは心苦しいけど、よろしくお願いします……私たちを助けてください」
「……わかりました、必ず」
シャドルトが『……私が姿を現せば早かったんじゃない?』と言っていたけど、ボクは自分の言葉で魔族に気持ちを伝えないといけないと考えていた。
じゃないといつまでもボクは混血を理由に魔族にも受け入れてもらえないと思ったから──
……とにかくこれで後は彼女たちの姿を闇の力で隠し、人質にされることなく転移魔法陣まで連れていければそれで良い。
「では皆さん、少しの間我慢してください。貴女たちの身体を闇で包み込みます」
「ロクス、早くするワン!! ……人間達の匂いが近い……」
人間達を警戒するように見張りをしてくれていたウルフィの声に返事するよりも先に、シャドルトの闇の力を流用して能力を発動。手を翳すと彼女たちの身体はボクの手のひらに現れたキューブ状の黒い闇へと吸い込まれていく。
「これで彼女たちはひとまずは人間達に見つからない。……ウルフィ、戦いになったら頼りにしてるよ」
「任せておくワンよ! 神狼流空手の真髄、とくと見るがいいワン!!」
意気揚々とファイティグポーズをとるウルフィを見て、シャドルトが『能天気なヤツ』と呟いた。
その呟きを聞き流し、ボクは魔剣を握り締め警戒の眼差しでウルフィの背後を睨み付けていた───
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