第8話 自覚
「そうか……捕らわれの魔族が居るんだね。シャドルト、助けてあげようよ!! 今かわいそうな彼らを助けてやれるのは、ボク達しかいないんだから!!!!」
『うはぁ、やっぱり……そう言うと思ったよ……。まあ私だって放っておくと後で後ろめたい気持ちにはなるだろうし。じゃあ提案だけど、先に魔族を助けてから、ロクスと私で指揮官を倒すまでは隠れて貰おう、魔族を盾にされたら、キミの勝ち目なんてさらに無くなりかねないから』
聖騎士や見張りの兵士達に気付かれない様に少し離れた場所でうとうとしていると、戻って来たシャドルトの冷たい腕に触れられて起こされる。彼女が偵察して把握した内容を聞きながら、落ちていた棒切れで内部の地図を簡易的に地面に描く。
夜の森の中は木々の隙間から見える月明かりしかないから見にくいけど、だいたいの構造が分かればそれで良かった。
「じゃあ夜の闇と遺跡の影に紛れて潜入、鍵を持っているであろうこの捕虜がいる場所の兵士をなんとか倒して鍵を奪取……そのまま捕らわれた魔族を助け、彼女たちにはシャドルトの用意した闇の空間に隠れて貰いながら、聖騎士の油断と隙を突く……で大丈夫だね?」
『そうだね、でもさ一人だけ……
「……了解、わかったよシャドルト」
一人だけ別に留置されてる魔族が居るらしいから……なんで隔離されているのか分からないけど、シャドルトが言うにはもしかしたら早速ボクの仲間になる可能性があるらしい。
どんな魔族なんだろう。
「さぁ……シャドルト、ボクの心の準備はできてるよ」
『わかった、でもいいかい? 私の闇の力をロクスに注ぐけど、未だ弱っちいキミの身体にはめちゃくちゃ負担がかかる。強烈な反動があるかも知れないからね? つまり時間はかけられない……肝に命じておくように』
「速攻で解決ってことだね? よし、いいよ!!」
ポキポキと指を鳴らし、足を振って身体の調子を確認したボクは「影潜り」と呟き闇の中へと姿を消しながら、一瞬のうちに見張りの兵士の背後に回り込む。
「──ぐはッ?!」
「な、なんだ?! おいどうし──ごぶふッ!」
闇の精霊の魔力によって強化された身体能力。そして圧倒的な腕力をそのままに、兵士の首筋に手刀を入れ、即座に影潜りをして瞬時にまたもうひとりの見張りの身体の中心に力を込めた正拳突きを繰り出すと、崩れるように『ドシャリ』と音を立てて倒れていく。気絶した見張りが白目を剥き、泡を吹いて倒れ伏していた。
『……ロクスは度胸があるねぇ、やるじゃん』
感心した様子で語りかける魔剣をチラ見して突き進む……せっかく見張りを気が付かれずに沈黙させたんだから、このチャンスを活かさない手はない。
……それに今のボクは人間達に遠慮する気はない。とは言え殺してしまうのは躊躇する。
「……邪魔だよッ」
「げふっ!?」
通路の曲がり角で出会い頭の兵士の喉笛に手刀を入れ、倒れそうになる兵士の背中を両手を握り合わせたひとつの拳を全力で叩き下ろす……声にならないような、空気の抜けたか細い悲鳴を上げて倒れ込む兵士を見下すように視線を向ける。
『私……魔剣を使わずにどしたのよ?』
「……まだ人間を殺す勇気なんて無いよ……それにどうせ魔剣を振るうなら、最初の相手は雑魚じゃない方が君だって良いだろ」
『ふーん……まぁいいけど』
途中でシャドルトが口を挟んだり、道を案内して貰ったりしながら出くわした人間に大声で仲間を呼ばれる前に気絶させる。……それがもしも無理なら、ほんとうに殺す覚悟で魔剣を使わないといけないかも知れない……
『……そこにいる兵士が手錠の鍵を持ってるよ』
「オッケー、なら速攻で───……ッ!!」
入り口の方角から騒がしく声を立てる人間たちの声が聞こえてくる……巡回の兵士に気絶させた者が見つかったかもしれない。
どのみち遅かれ早かれ、彼らは見つけられてしまうだろうとは思っていたし、もはやここまで来たのならコソコソと隠れながら行動する理由なんてない……鍵を所持する兵士の前に影潜りを解除して姿を現すと同時に勢いよく拳を下から振り上げる。間抜けにも目を丸くして驚きボクを凝視する兵士の下顎に打撃を与える。
「グッハアアッ!!」
痛恨の一撃を喰らい、痛みに嗚咽する兵士の両足を下段の構えから足払いをする。遺跡の石畳に身体を勢いよく打ちつけて、悶える兵士の袖口にあった鍵の束を奪い取り囚われた魔族が留置されてる場所を目指す。
『ロクス、相手を殺す勢いでやらないと目を覚ました人間に苦戦するよ!! 忘れてないよね?! 私の力を注がれて、それに耐え得る器はまだキミにはないんだから!!』
「……わかってるよ!」
『わかってない!! ここは最悪の蠱毒みたいなものなんだ!! 私の力を受け止めきれなくなったその瞬間からこの場で最弱の生物はロクスなんだからッ! 弱けりゃ喰われる、それが現実なんだからねッ』
相手の命を奪わないように事を進めるボクに業を煮やしたシャドルトの声を振り払うように、通路を塞ぐ聖騎士数人と遭遇すると、騎士達の隙間を掻い潜りながら顎を割り、飛び膝蹴りで鼻をへし折り、痛みに悶える二人の騎士の顔をそれぞれ両手で持ってから圧倒的な力でその勢いのまま正面からぶつけ、互いの顔面をグシャリと潰す。
倒れた聖騎士が帯剣している剣を抜き取り、駆け付けて来た別の聖騎士の足を貫く。
「……シャドルト、言っとくけどボクは戦いなんて初めてなんだからね!! 最初からコレだけの動きをするのも精一杯なんだぞ!!」
『……戦いに最初も何も無いし甘ったれないでよ! ……とまぁ私とロクスが言い合いをしている場合じゃ無いし、仕方ない。……でもねロクス、私ほんとは塵も残さず念入りに人間を殺してやりたいんだから!!』
……わかってる。シャドルトの力が注がれながら、同時に彼女の尋常じゃないほどの人間へ向けられた殺意を。
だからボクは力を加減するべく、シャドルトから注がれる闇の力を抑えるように攻、防、速に割り当てて調整をしていた。
しかしついさっきまでのボクではないようなほど百戦錬磨の戦士のような動きに、本音を言うと酔いしれそうなとこはあった。
でも力加減を間違えたなら、闇の精霊と同化してるようなボクの強化された攻撃に普通の人間は耐え切れずに死んでしまうだろう。
……まさか闇の精霊の力がこれほど強力だなんて。強い、強すぎる。これではますます殺傷能力に長けるであろう魔剣の力を普通の人間には使えない。
でも……この魔剣を振るわないと勝てない人間がいるのは事実なんだと思う。今はまだ、ボクに覚悟が無いだけなんだ。
闇の精霊と契約を結んだとはいえ、この時ボクはまだ魔族として……、魔剣士としての自覚は無かったのだ。
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