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「嫌、ですよね。俺なんか、年下だし。いきなりすみません」
私が考えすぎて何も言えないでいると、安田くんは慌てて離れようとした。
けれどそれが嫌で。離れてほしくなくて。
「離さないで」
思わず言っていた。咄嗟に出た一言に、私自身驚いていた。
それは小さな声だったけれど、彼の耳には届いたらしい。安田くんの動きが止まった。
恥ずかしかった。こんなこと、言うつもりなんてなかった。けれど、このぬくもりを知ってしまった。安心できる場所だと、わかってしまった。
同時に、安田くんの気持ちも知ってしまったから。
ゆっくりと顔を上げると、安田くんは少し驚いたような表情だった。
恥ずかしい、けれど、それを隠して彼の顔を見つめて言う。
きっと、今の私の顔は、真っ赤だ。
「お願い。離さないで」
小さな声だった。きっと、さっきよりも。
けれどそんな私を見て、安田くんは優しく、にっこりと笑って言った。
「はい。離しません」
私に触れるその手があたたかくて、心地よくて、ほっとした。そうしたらまた、涙が零れた。
「ずっと、離さないで」
泣きながら、私は言った。彼のスーツをきゅっと握りながら。きっと皺になってしまうと思ったけれど。
そんな私を、安田くんはもっと強く、けれどこわれものを包むように優しく抱きしめてくれた。
それから、耳元で囁かれた。
「もう、離しません」
その声はとても優しくて、私は今までにないくらいの幸せと、胸が高鳴るのを感じた。
とても、満ち足りた気持ちだった。
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