4

 それからも毎日が同じような日々で。


 朝起きて、半ば義務化しているお化粧をして、会社に行って。

 新人の子達からは『アネゴ』なんて呼ばれて頼りにされて。

 上司にも『期待しているよ』なんて言われていろいろ任されて。

 本当はいいように使われているだけなのかもしれない。けれど、頼りにされるのも仕事を任せて貰えるのも嬉しくて、つい頑張ってしまう。

 だけどそのせいで、不満やストレスがあっても吐き出す場所もなくて。たまっていく一方だ。

 いつまで続くのかもわからないこの状態に、いい加減うんざりしている。けれど、それらをすべて投げ出すことなんてできないし、そんな勇気もない。だから結局は流されてしまう。



 そんな中、またあの夢を見た。


 とても幸せで、満ち足りた夢。

 だけどやっぱり相手の顔は見えない。どこかで聞いたことのあるような声をしている気もするのだけれど、どうにも思い出せない。懸命に顔を見ようとしても、声を思い出そうとしても、どうしてもうまくいかない。

 その人は、どうにかして『誰なのか』を確認しようと思案している私をそっと引き寄せて、大きな手でぎゅうっと抱きしめる。壊れ物でも扱うみたいに、優しく。けれど力強く。

 それで、私はなんだか安心してしまう。この人の前では会社で見せているような私でなくてもいいような気がする。しっかり者を演じなくても、弱いところを見せてもいいような気がする。

 そうして、とても幸せな気持ちになる。


 そういえば、誰かにあんなふうに抱きしめられたことはなかったかもしれない。数年前に別れた恋人にさえも、あんなに包まれるように抱きしめられた記憶はない。

 それくらい、大切に、優しく抱きしめられた。



 目が覚めても、しばらくぼーっとしてしまうくらいには、心地のいい夢だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る