3

 「はあ…疲れた…」


いつもより少し遅い時間に帰宅して、今日一日ずっと履いていたヒールを脱いだ。そのままふらふらとソファーへと向かう。ばたりと倒れ込むようにソファーへと体を預けたら思わず本音が出た。

 今日はほとんど立ちっぱなしだったから、もう脚がパンパンで。こんな日は何もしたくなくなって、ゆっくりお風呂に浸かってさっさと寝てしまいたいと思う。けれど、洗濯もしたいし、朝にできなかったこともある。掃除なんか毎日しないと気持ちが悪い。


 よく『几帳面だね』とか『A型でしょ』なんて言われるけれど、私はれっきとしたO型だ。それに、血液型で性格が決まるとも思えない。血液型ごとに性格が決まるのなら、世の中には凡そ4種類の人しかいないことになる。そんなわけはない。

 私はただ、やらなければいけないことはきちんとしたいだけ。それが自分で決めたルールなら尚更。そのままにしておいたら、やらなければいけないこと、やるべきことはどんどんたまっていくだけだから。

 このまま動きたくないと思う気持ちもありつつ、長い深呼吸をして立ち上がる。まずは洗濯機を回そう。


 こんな性格だからだろうか。

 ふと思った。

 こんな性格だから、周りからは『しっかりしてる』とか『アネゴ肌』だとか言われて。何でもひとりでできると思われてしまうのだろうか。


 本当は、辛いときだってある。ひとりではできないと思うこともある。けれど周りが持っている『しっかり者の新井さん』というイメージを壊すこともしたくなくて。ついイメージ通りになろうとしてしまう。強がって、何でもないふりをして。周りから見た『私』を演じてしまう。

 もう疲れた、なんて言えたら、どんなにいいだろうと思う。

 でも、きっと言えない。急に弱い私になったりしたら、周りが驚いてしまう。

 何より、強がることにも、演じることにも、慣れてしまった。


 「もう考えるのやめよ」


 ひとり呟いて、考えることをやめた。宣言しないとまだ考えてしまいそうだったから。

 そうして、泣いてしまいそうだったから。


 誰もいない部屋にぽつりと落ちた言葉は、余韻も残らずに消えて、虚しさを増しただけだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る