第47話

 ―――時間にして5分後

 男性担当職員が、お盆に買い取り金額の入った布袋を乗せて戻ってきた

「・・・駆け出しの『青銅』にしては、結構な量を回収してきたようだな」

 男性はレヴェナントに目線を合わせずに、カウンターの上に置かれた

 お金の詰まった布袋を眺めながら呟いた

「ええ、まあ・・・」

 レヴェナントは言葉を濁す

死に戻りリスタート』を繰り返しているとは言えず

 その言葉を口にするのは憚られたからだ



 レヴェナントは、布袋を開けて中に入っている硬貨を少し取り出すと

 ジャラッという音が聞こえる

 男性担当職員は、貨幣を数え始めているレヴェナントの様子をじっと

 見つめていた

「なぁ、あんた」

 男性担当職員レヴェナントに声をかけてきた

「はい?」

 レヴェナントは首を傾げつつ応える

 一体、何を言われるのか想像できなかったのだ



「いやな、お前さん1人で討伐したわけじゃないんだろ?

 パーティを組んでいるのかと思ってね」

 男性担当職員は顎を撫でつつ、どこか探るような視線を向けて尋ねてくる

 それはまるで、獲物を狙う肉食獣の様だった

「ああ、はい、今は一人ですけど」

 いきなりの事で少し驚いたがレヴェナントは、一瞬だけビクっと

 身体を震わせつつ応えた

「ほぉ~、ソロか。今のご時世ではそりゃ珍しい」

 レヴェナントの言葉を聞いた瞬間、男性担当の目が細くなる


「そうですかねぇ」

 レヴェナントは、何かを探るような目つきの相手に対し、平静を

 装って応じる

 そして、内心で『これは、眼をつけられたな』と感じて、ため息を

 吐いた

 今までの『死に戻りリスタート』上、こういった状況になると大抵

 何かしら厄介事が降りかかってくるのが常だ

 しかし、レヴェナントは今までならばそういった出来事が嫌いではなく

 むしろ楽しんでいた節があった

 だが、『難易度変更』でこれからはより慎重に行動しなければ

 いけなくなった

 だからと言って、今更どうこうできる問題ではないのだが ・・・

 考えているうちに男性担当者が話を続けてきた



「俺が、こんなこと言うのもなんだが、あまり一人で活動するのは

 感心しないぞ」

 男性担当者が真剣な表情で言ってくる レヴェナントは、その表情を

 見て 『やっぱりそうきたか』と思った

 なぜなら、こういうセリフを言われたのはこれが初めてでは

 なかったからだ

 今までの『死に戻りリスタート』で幾度も似たような言葉台詞

 言われていた

 最初の『死に戻りリスタート』の頃は何とも思わなかったが、同じ

 言葉を『死に戻りリスタート』を繰り返すたびに言葉をかけられると

 流石に気になるものだ


「まぁ……でも、冒険者なんてものは、基本自己責任ですから」

 レヴェナントは、相手の言葉を聞き流し適当に応える

 実際、冒険者は自分の命を自分で守らなければいけないし 他人が、

 助けてくれるわけではないのだ

 なので、そういう言葉が出てくるのだろうと思っている

 レヴェナントは適当に話を切り上げると、無数の張り紙が所狭しに

 貼られている大掲示板にへとさっそく向かった


 各等級に見合った難易度の依頼が張り出されてはいるが、1日の肉体労働よりも

 べちゃ糞安いゴブリン関係の依頼が想像以上の膨大さなため、若干何とも言えない

 微妙な表情を浮かべる

 ゴブリン関連の依頼は、少し古ぼけている依頼書から最近貼られ

 新品同様に綺麗な依頼書まで様々だ

 大量にあるという事は、それだけ村落や集落が被害を被っているという

 事だろう

『さて、何を受けるにゃ?』

 黒猫の声が、レヴェナントの頭の中で響く


「どうしたものか……いっそのことラノベ作品のゴブリンだけを専門ゴブリンスレイヤーに討伐をする登場人物の様に、ゴブリンのみ狩り続けようか、

 にゃんこさん」

 レヴェナントは依頼の張り紙の山を眺めつつ、何処かお道化る様に念話で

 黒猫に語りかける

『・・・・好きにしたらいいにゃ

 ただし、何時もの調子で続ければすぐに『死に戻りリスタート』にゃよ』

 黒猫の呆れた声がレヴェナントの頭の中で響く

「確かに今の状況では、気軽に『死に戻りリスタート』はできないね」

 レヴェナントがそう念話で応えつつ、少し困ったような表情で 頭を掻き、

 黒猫が言った言葉の意味を考えて苦笑した

 その視線の先には、ゴブリン以外の依頼書が大量にある

 それも『ギルドマスター』直属で発行され緊急を要する

『調査依頼』が多い


 特に周辺に生息する魔物の調査依頼が多く、推奨の冒険者階級が

 記されていない『調査依頼』で、しかも報酬が高額だ

 その理由として考えられる可能性としては、 強力な魔物や危険な魔獣が

 多数生息し、周辺の村や町が何らかの脅威に晒されている可能性が高いからだろう

 この原因が『難易度変更』であることは疑う余地はない

 そんな状況下だからこそ、本来は『銀』等級以上の冒険者が

 必要とされているが・・・

 どうやら冒険者階級を記されるほどの余裕が『難易度変更』後の

『冒険者ギルド』にはない様だった



「さて、どうしたものか」

 レヴェナントがそう呟きつつも周囲の状況を窺う

 あちらこちらでは、深刻な表情や疲れ果てた表情の冒険者達が

 情報交換をしている




「なぁ聞いたか?『辺境の荒野』で『黒狼』の群れが確認されたって話」

 誰かが緊張感ある声で告げていた

 黒狼とは、その名の通り全身が真っ黒い体毛に覆われた巨大な狼の

 魔物だ

 一匹でも遭遇すれば、『銀』等級以上の冒険者でも死を覚悟しなければ

 ならない

 それが群れで行動しているためその脅威度はかなり高く、『白金』等級

 以上の冒険者でも一人で対峙するのは避ける

「ああ、俺の所にも来たよ

 何でも『黒狼』の群れが縄張りにしている森の近くで、大規模な野盗団が

 壊滅したらしいぜ」

 別の誰かがそう答えていた

  その巨体だけではなく、集団で狩りを行い連携して襲い掛かってくる

 恐ろしさはレヴェナントも身に染みている

『難易度変更』によりさらに厄介になっている事を思うと、レヴェナントは

 ため息を吐いた



 別の誰かは、それとは違う事を話していた

「『亜種』『希少種』が混じった『総軍』規模の目撃情報も幾つかあった

 みたいだしな」

 レヴェナントは耳を疑う言葉を聞いて、貌を顰めた

『亜種』や『希少種』といった種が生息するのは主に、『人間』の住む

 領域ではない『魔境』と呼ばれる場所だ

 そんな場所から姿を現しているとなると、それはもう災害だ

「 聞いた限りでは牙獣種や巨人種、古竜種まで確認されているそうだ」

 顎に手を当てて考え込むように呟く男の声を聞き、レヴェナントの

 脳裏に嫌なものが浮かぶ

 自分が『死に戻りリスタート』をさせられた中でも、最悪な部類に

 入る魔物の姿を 次々と思い起こした

 レヴェナントはその光景を振り払うかのように頭を振ると、思考を

 切り替える

 今は目の前の事に集中しよう、そう思った

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