11.無我の境地と云う名の怠惰-1
キャンプ以降、龍治は何もせずぼんやりする時間が増えた。
勉強は問題なくこなしている。テストは相も変わらず満点だ。
運動も適正量行っている。体育の時間も問題ない。
習い事も休まずこなしている。先生方からよく褒めて貰える。
周りとの関係も良好だ。最近は会話する相手が増えたくらいだった。
だが、自由な時間があると、ぼんやりしてしまう。
自室の窓辺の一つ――日当たりのいい場所に設置して貰った安楽椅子に腰かけて、ぼけっと窓の外の庭を眺めている時間が多くなっていた。
キャンプ以前なら自分が好きに使える時間があると、散歩に出たり父の書斎に籠ったり柾輝や花蓮たちと遊んだのだけれど。
どうしても義務以外で体を動かせる気がせず、龍治は今日もぼんやりしている。死期が近い老人のようだ。死人の記憶があるので洒落にならない表現かも知れないが、事実そうした物なので仕方がない。
自室での事なので、恐らく父や母にはばれていないだろう。使用人たちもそこまで干渉して来ないので、多分知らない。部屋で何かしてると思ってるのではないだろうか。実際は何もしてないけれど。察しのいい者は気付いているかも知れないが、問題行動を起こしている訳でもなし。わざわざ父に報告しないだろう。
解決しなければいけない大きな悩みがあるのに、それについて考える事を放棄している。それを龍治は自覚しているが、どうにもならない。
正直、やり遂げたい事は決まっているのだ。
(―――ゲームの通りになりたくない)
それは絶対だ。
花蓮と柾輝を守りたい。ヒロインなどと云うポッと出女に全てを壊されるなど我慢ならない。自分は自分のままでありたい。不幸になる周りを見過ごしたくない。幸せにしたい人達がいる。
だが、そこに至るまでにどうすればいいのかが、龍治にはわからないのだ。
(答えは出てるのに、式がわからない)
わからないなら、わかるまで突き詰めればいいのに。わかるように、情報を集めればいいのに。それだけが子供の自分に許された武器だと云うのに、それをやる気がしないのだ。
重症もいい所である。心が重傷か。全然上手くない。空しい。
溜め息をつく。そうしてまた頭を空っぽにしようとすると、肘掛においた手に柾輝の指先が触れた。
視線を落とす。龍治が座る安楽椅子の側、床に敷いたクッションに座り込んだ柾輝がいる。泣きそうな目で龍治を見ていて、それが厭で目を逸らした。
そうやって冷たい態度をとっても、柾輝の手は離れなかった。
(……
最近心の口癖になってしまった言葉を胸の内で呟きながら目を細め、龍治は頭をからっぽにする。
触れて来た手はそのままに、握り返す事も振り払う事もしなかった。
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