第9話尻ぬぐいと呪いにかかった人
今日もAランクの依頼を『静謐なる白馬』は受けて依頼に赴く。
依頼内容はレーベル山道に大量出現したという魔物の討伐だった。
一度、『誇り高き獅子』に依頼を出したそうだが、依頼に当たったパーティーは魔物たちに返り討ちにあってしまったらしく、改めて『静謐なる白馬』が所属する『光輝なる鳳凰』に依頼が出された形だ。
山道に行くとレイジ・ボアの死体がそこいらに転がっていた。この凶暴な猪型魔物を斬り伏せるのは大したものだと思う。
依頼に失敗したという『誇り高き獅子』のギルドのパーティーがやったのだろうか?
「ふむ。これだけ見ていると依頼に失敗しそうには思えないが」
レオンも同じ結論に達したのだろう。
不思議そうな顔をする。それにしても転がっているレイジ・ボアの死体のいくつかの切り傷、や突き傷、なんだか見覚えがあるような……。
レイジ・ボアの肉はそれなりに美味で高く売れるのだが、死んでから時間が経っているため死骸にハエや蛆がたかってきており、とても剥ぎ取って持って帰ろうとは思えなかった。
「何しているの、リック。行くわよ」
「ああ、ごめん。レミア」
まぁ、いいか。
切り傷も何も蛇腹剣でも使わない限り、似たようなものだろう。
レーベル山道を昇って行くと早速、魔物の群れと遭遇する。
怪鳥カースド・バードの群れだ。こいつらは敵対者に状態異常を仕掛けて来る厄介な魔物たちだ。
それに『誇り高き獅子』のパーティーは敗れ去ったのだろうか。
「みんな! カースド・バードは状態異常を仕掛けて来る! 気を付けろ!」
俺は大声で注意喚起をするが、皆は笑みを浮かべる。
「その時はお前が治してくれるだろう、リック」
「安心して戦えるよ、リックお兄ちゃん!」
ルリカとリムルが俺に信頼を寄せる言葉をかけて来て、胸が熱くなる。
期待と信頼。これを裏切る訳にはいかないな。
「そういう事だ。僕たちにはリックがいる。この怪鳥たちを蹴散らすだけだ」
リーダーのレオンがそう言い、抜剣する。
レオンの剣技は前パーティーリーダーだった剣士・ラフマニと同等かそれ以上かもしれないと俺は思っていた。
ルリカも双剣を抜き放ち前衛二人が立ち、中衛に攻撃魔法が使えるリムル。
後衛は回復魔法が使えるレミアと状態異常治癒要員の俺だ。
レオンとルリカは最初、カースド・バード相手に剣を振るい、相手が空を飛んでいる事の厄介さも意に介さず次々と仕留めて行った。
リムルの唱える魔法も炸裂する。
そうしたらカースド・バードが光線を放ち、レオンとルリカを同時に状態異常にした。
「ぐ、体が痺れる……!」
「麻痺か……!?」
レオンとリムルの声。それで間違いないだろう。『麻痺』の状態異常は『毒』と違い直接体にダメージを与えるものではないが、高ランクの魔物がもたらす『麻痺』は身動きを全く取れなくさせるものもある。
幸い、このカースド・バードはそこまでの域には達していないようだが、すぐに治さないといけないのは変わりがない。
俺は杖をかざし、エメラルドの魔石から魔力を吸い出すと二人に向けて飛ばす。
淡い緑色の閃光が二人を包むと二人の動きが抜群に良くなる。
「ありがたい、リック」
「感謝するわ」
そして、再び剣を振るってカースド・バードを斬り捨てて行く。
状態異常さえなければこの二人の剣技なら怪鳥風情、敵ではないだろう。
リムルも攻撃魔法で援護する。
前衛二人に傷が付いたと見ればレミアが回復魔法を飛ばして治癒させる。
と、そう言っている間にルリカが状態異常を喰らった! 今度は『鈍足』か! 速度を下げるデバブだ。
俺は慌てて治癒魔法を飛ばしルリカの状態異常を治癒する。
今度はお礼を言う暇もないくらい怪鳥たちと接近していた。
ルリカは見事に双剣を振るって、怪鳥をバッタバッタと斬り伏せていく。
二人を襲う状態異常の数々を見て思ったが、これはアイテムなんかでは到底治せないレベルの重度の状態異常ばかりだ。
こいつらに敗れ去ったという『誇り高き獅子』のパーティーには状態異常治癒師がいなかったのかな?
なんて余計な事を考えている暇はない。リムルが『魔法封じ』を喰らった。すぐに治す。
「ありがとう、リックお兄ちゃん!」
笑顔のお礼が来る。それも一瞬。表情を引き締めたリムルはカースド・バードたちを見据えて攻撃魔法を放つ。
火球が次々に放たれ、怪鳥を焼き鳥に変えていく。
アレを食べるのはゲテモノ料理過ぎてご遠慮願いたい所だが。
うわっと危ない。後衛のこっちにも状態異常をもたらす光線が飛んで来た。
これが『魔法封じ』なら俺は役立たずになってしまう所だ。
慌ててさらに退避する。それでも前衛・中衛の三人には状態異常治癒の魔法が届く範囲内をキープする。
それからも何度か前衛の二人は状態異常にかかったが、その度に俺が治癒する。
前衛二人は存分に剣を振るい、カースド・バードたちを斬り落としていく。
中衛のリムルの攻撃魔法での援護もあり、カースド・バードたちは全滅。
俺たち『静謐なる白馬』はAランク依頼を完遂した形になった。
「ふぅ、やったね、みんな」
リーダーのレオンが音頭を取り、みんなして笑みを浮かべて頷く。
「今回もリックもおかげね」
ルリカがそう言って、俺にウインクして来る。俺は悪くない気分だったので笑みを返す。
「いや、レオンやルリカが前線で戦ってくれたからこそだよ。リムルの攻撃魔法もレミアの回復魔法も戦線を支えてくれた」
「そうだね、僕たちはパーティーなんだ。助け合って戦っていこう。これからも、ね」
気持ちの良い笑みを見せるレオン。うーむ。俺なんかより数段上の美形だなぁ。
初めて会った時から思っていた事だけど。
元リーダーのラフマニも美形と言えば美形なのだが、あっちは野性的な所が強く出ているタイプの美形だ。
対してレオンは優男のような美男子なのだが、その剣の実力は美しい顔に似合わず鋭く速い。
魔物たちをバッタバッタと斬り捨てていく。
俺たちは依頼を達成した。レイジ・ボアの肉と違い、カースド・バードの体からは素材や食料になるような物はほとんど取れないのだが、その尾羽は別だった。
矢を作る際にこの尾羽を使えばなかなか上質な矢が出来るのだ。
稼げる材料があるのなら獲っておくのが冒険者の基本。
俺たちは誰も何も言わずともカースド・バードから尾羽を引き抜き、持てる限り、持って帰る事にする。
そうして、王都に戻り、『光輝なる鳳凰』のギルド本部に入ると受け付けが騒がしくなっていた。
「どうしたんですか?」
レオンが受け付け嬢に訊ねる。カウンターには見慣れぬ中年男性の姿。何やらとても焦っているようだ。
「ああ、丁度いい所に!」
受け付け嬢が見るからに嬉しそうな顔になる。その視線が向けられているのはレオンではなく、俺だった。
「だから言っているだろう! 娘が重い呪いにかかってしまったんだ! このギルドには聖女並の解呪能力の持ち主が加入したって言うじゃないか! そいつを出してくれ!」
「ああ、それは俺ですよ」
中年男性に名乗り出る。中年男性は俺の方を向くと近寄って来た。
「すぐにもウチに来てくれ。娘を治してくれたらお礼の金に糸目は付けない」
「そんな、お礼のお金なんていいですよ。とにかく、行きましょう。悪いレオン。ちょっと行って来る」
俺は今にも駆け出さんとする中年男性に引っ張り出されそうになりながらレオンに一応の挨拶をする。
レオンは苦笑いした。
「ああ、ちゃんと解呪してあげてきなよ」
嫌な顔一つする事なく、レオンは俺を送り出してくれる。それは他のパーティーメンバーも同じだった。
「私を解呪した時みたく、しっかり解呪してあげて来なさいな」
「分かっているよ。ルリカ」
「急いでいるんだ! 早く!」
そんな挨拶をする暇もなく俺は手を掴まれ、引っ張り出されるように中年男性に連れて行かれ、『光輝なる鳳凰』の本部から連れ出された。
呪いにかかった人の解呪、ね。本業じゃないんだけどな、と思いながらも俺も中年男性に続き、自分の足で駆け出した。
・
ここまでお読みいただきありがとうございました。
この勢いで主人公リックたちは躍進し成り上がって行きます。
ここからの活躍や成り上がりが楽しみ。ざまぁが待ち遠しいという方は星評価やフォローをしていただけると嬉しいです。
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