第8話凋落の始まり※
オレ様の名はラフマニ・ギランド。
グラン・マドロック王国二大ギルドこと『誇り高き獅子』に所属する最強Sランクパーティー『翡翠の翼』のリーダーだ。
足手まといの屑のリックを追い出し、代わりに凄腕の剣士のライをパーティーに加入させ、万全の態勢でAランク依頼を受けて、今、それを遂行中だ。
何、Aランク依頼なんぞ、最強のSランクパーティーのオレたちなら軽々、クリア出来るだろう。
そして、Sランク依頼や特Sランク依頼も次々に片付け、王都にオレの名を響かせるのだ。
今回の依頼は王都の北にあるレーベル山道に大量出現した魔物の討伐だった。
Aランク依頼だけあってそれなりに強力な魔物が出て来ると思われるがオレたちの敵ではない。
レーベル山道に赴くと早速、レイジ・ボアなどが襲来した。
オレ様は王都最強を自負する剣技を放ち、猪どもを斬り捨てていく。シドレの爺も流石の槍の腕前で猪を撃破していく。新入りのライもオレが見込んだ剣技に偽りはなかったようで猪どもを斬り伏せていく。
ベルナデーレの攻撃魔法も炸裂し、レイジ・ボアの大群は瞬く間に消え失せた。
「はっはっは! やはりオレたちにとっては楽勝な依頼だな!」
オレは堂々と勝利宣言をする。
レイジ・ボアの肉はなかなか上質な肉で丸焼きにしたものはオレの好物の一つだが、まだ依頼は終わっていない。
この先にも魔物がいるという話だったので、荷物になる肉を剥ぎ取るのはその後だ。
この先の魔物も楽勝で討伐して、肉を剥ぐのはその後でいいだろう。
オレの頭の中は既に魔物の討伐を終えた後のレイジ・ボアの肉を使った祝勝パーティーの事でいっぱいになっていた。
そこにティナミアの回復魔法がかかった。そこまで消耗していないとはいえ、体力を回復させてくれるのだからありがたい。
同じ癒す魔法でもリックの屑の数百倍使えるぜ。
そうして、山道を進むとカースド・バードの群れと遭遇する。これも楽勝で片付ける。
そう思って剣を振るおうとしたオレにカースド・バードは閃光を放つ。それを喰らったオレの体が重くなる。
「ぐぅ? 状態異常か? ティナミア! エリクサーを!」
この程度の状態異常アイテムで治せる。
駆け寄って来たティナミアからエリクサーを受け取り、飲み干す。これで元通り……。
「治らねえじゃねえか!」
オレは怒号を上げる。
エリクサーを飲んだのに体の重さは治らなかった。
そうしている内にシドレの爺とライも同じ状態異常に陥り、カースド・バードたちの攻撃を防げなくなる。
くそ、万全のオレの剣技ならこんな怪鳥ども、楽勝で斬り伏せるというのに!
「ベルナデーレ! 魔法だ! 攻撃魔法で蹴散らせ!」
オレは後衛に指示を飛ばす。
こうなったらベルナデーレの魔法に頼るしかない。
ベルナデーレは魔法を唱えようとして、カースド・バードが先手を打って、そこに閃光を放つ。
「嘘!? 魔法封じの状態異常!? ティナミア! 治すアイテムを!」
「ま、魔法封じの状態を治すアイテムはありません!」
なんだと!? ベルナデーレは攻撃魔法も使えなくなったのか!? それじゃあ、役に立たないじゃねえか!
オレは苛立ちつつ剣を振るう。
しかし、重い体が振るう剣はカースド・バードには命中せず、回避される。
くっそー! いつものオレならこんな怪鳥どもに苦戦する事はないのに!
シドレの爺もライも槍や剣をカースド・バードに当てられないでいる。
あいつらにもデバブがかかっているのか。ええい、ティナミアめ! アイテムで治せるんじゃなかったのか!?
重い体でなんとか剣を振り回し、カースド・バードからの攻撃は喰らわないようにする。
そうしている内に体の重しが消える。状態異常が時間経過で治ったのだ! こうなればカースド・バードごとき敵ではない!
「オレ様の真の力を見せてやるぜ!」
そう思った矢先、再びカースド・バードから閃光が放たれ、それを喰らったオレの体がまた重くなる。
「ぐ、くそ、小癪な!」
カースド・バードを罵るが、相手は怪鳥。
人間の言葉に反応する頭脳など持ち合わせてはいない。
カースド・バードはこちらがデバブにかかったと見るや攻撃を繰り出して来る。防ぎ切れず、肩を切り裂かれる。
「ぐわっ、ティナミア! 治せ!」
回復魔法を要請したオレだったが、カースド・バードはティナミアにも閃光を飛ばす。
「魔法封じ!? すみません! 回復魔法は使えません!」
「何をやってやがる! 傷を治すのがお前の使命だろうが!」
平身低頭、言葉を発するティナミアにオレは怒号を飛ばし、迫り来るカースド・バードの群れに恐怖を覚えた。
マズいかもしれない。こちらは状態異常で万全の力を発揮出来ないでいる。このままでは全滅もあり得るのでは……。
そう思ったオレは指示を出していた。
「て、撤退だ! 撤退するぞ!」
「じゃが、それでは依頼を達成した事にはならんぞ!?」
「うるせえ、シドレの爺! このままじゃ全滅しちまうだろうが!」
オレの指示でパーティーメンバーは必死でカースド・バードから逃げ出す。
縄張りから出て行った者たちをカースド・バードを襲う事はないようだった。
なんとか全員、生きて撤退に成功し、一息つく。
「ええい! クソ! オレたちがあんな怪鳥風情に後れを取るとは!」
苛立ち気にオレは言う。
ふざけるな。状態異常など卑怯な手を! 真っ向勝負していればこちらが負ける事など絶対にあり得ないというのに。
「リックの奴がいれば違ったかもしれんが……」
シドレの爺がそんな事を言う。
リックだぁ? あの屑の話をこの苛立っている時にするんじゃねえよ。
「は! あんな屑がいた所でどうにもならねえよ!」
「しかし、状態異常の治癒さえ出来ればカースド・バードなどに負けはしなかった」
「うるせえ爺だな! あの屑の話はやめろ!」
あの屑がいた所でどうなると言うんだ! この爺は生意気な事を言う。
多少、頭は切れるし、それなりに戦闘力も高いからパーティーに置いてやっているが、今度はお前を追放するぞ!?
ほうほうの体で王都まで帰還し、ギルド本部で依頼の失敗を告げる。
そうするとオレはギルドマスターに呼び出された。
「ラフマニ! Aランク程度の依頼を失敗するとはどういう事だ!? お前の力があれば楽勝だろう!?」
ギルドマスターは怒り心頭のようだった。
このお方には流石のオレも逆らえない。なんとか弁明の言葉を発する。
「そ、それがカースド・バードの群れときたら卑怯な手を使って来まして……」
「卑怯な手など実力でねじ伏せればいいだけであろう! 全く。お前には期待をかけているのだぞ!? Aランク程度の依頼を失敗などしてもらっては困る!」
「も、申し訳ありません……」
く、くそ。屈辱だ。なんでオレ様がこんな目に。
それからギルドマスターの叱責を受けて、オレは『翡翠の翼』のパーティールームに戻った。
すると布袋に詰まった金貨が置かれていた。
「これは?」
オレはベルナデーレに問い掛ける。
「受け付けから預かってきたわ。リックの奴から私たちに金貨100枚だそうよ」
「ほう」
あの屑も少しはオレたちに対する恩義を感じているのか。
この短期間でどうやってこれだけの金を集めたのかが疑問だが。あの屑。強盗でもしたんじゃねえだろうな。
まぁ、いい。今日のウサ晴らしにこの金で美味い酒と料理でも味わう事にするか。
今日は少し調子が悪かっただけだ。
オレ様は王都一の剣士。そして、オレ様のパーティーは王都一のパーティーなのだ。
たかだかAランク依頼程度を失敗するなど万に一つの偶然が不幸にも起こってしまっただけだ。
ち、それにしても全く気に食わねえ。
こんな屈辱をオレが味わう羽目になるとは。ツキがないってのは恐ろしいもんだな。
平常通りならカースド・バードの大群ごときに苦戦するようなオレたちではない。
次に挑んだ時は完膚なきまでに叩き潰してやろう。
オレはそう思い、今日の不運の事はさっさと忘れて、次なる依頼を受けて汚名返上する事を考えるのだった。
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