第7話凱旋


 俺が『静謐なる白馬』に加入してからの初依頼を大成功で終わらせ、帰りの道を歩ている時だった。


 道といっても王都のこの南方の洞窟まで来る者はそうそういないので道路はひかれず野ざらしになっている道を歩いて帰って行く。

 『静謐なる白馬』のメンバーたちは全員が笑顔を浮かべていた。


「今日の成功はリックのおかげだね」


 レオンがそう言う。今更ながらに思うがこのパーティーのリーダーはレオンが務めているようだ。

 レオンにそう言われ、俺は照れ臭くなって謙遜する。


「いや、みんなの活躍あっての事だよ」

「あら、私含む、メンバーの状態異常を治したのは貴方でしょう、リック? 大いに助かったわ」


 レミアがそう言って、レオンに続き俺を褒め称える。それに他のメンバーも乗っかる。


「リックお兄ちゃんのおかげで安心して戦えたよ」

「そうね。ありがとう、リック」


 リムルとルリカがそう言って俺に礼を言う。

 以前のパーティー『翡翠の翼』でこんな扱いを受けた事がなかった俺は困惑しつつも胸の中はあたたかい気持ちでいっぱいだった。


「魔物が仕掛けて来る状態異常は厄介だ。それを懸念して僕たちはSランクパーティーでありながら、Sランクの依頼はあまり受けていなかったけど、リックがいてくれるなら大丈夫だ。もっと難易度の高い依頼も受けて行こう」


 レオンがそう断言する。

 俺がいるから大丈夫。なんともありがたい言葉だった。


 その期待に沿うように頑張らなければならないな、と思う。

 俺には状態異常治癒しか出来ないが、それだけなら誰にも負ける気がしない。


 どんな重度のデバブでもすぐに取り払って見せると胸中で密かに自信の言葉を発する。

 口に出して言うのは生意気過ぎる気がするのでしないが。


 そうして俺たちが帰り道を歩いていると別のパーティーと遭遇した。

 依頼を終えた後だろう。その内の一人の顔色がよろしくない。レオンは声をかける。


「どうしたんですか?」

「ああ、あんたらも冒険者パーティーか。こいつはロバートというんだが、魔物から毒を喰らっちまってな。治癒するために王立病院に連れて行こうと思っていた所なんだ」

「ああ、そうですか」


 含みのある表情でレオンが俺の方を見る。意図していた事を察した俺は前に出る。


「それなら俺が治しますよ」

「あんた、状態異常治癒師かい?」

「ええ、まぁ」

「最高の状態異常治癒師ですよ。すぐに治ります」


 レオンが気恥ずかしい事を言ってくれる。

 最高とは。しかし、手抜きする気はない。毒を受けたというロバートなる者のそばに寄ると手をかざす。


 この程度なら杖を使うまでもない。

 俺の手から淡い緑の光が発し、ロバートに吸い込まれいく。

 直後。見るからに悪かったロバートの顔色は元通りに戻り、二つの足でしっかりと姿勢を正した。


「う、治った……?」

「大した毒ではありませんでした。後遺症もないと思いますよ」


 俺は解説する。

 実際、大した状態異常ではなかった。


 このレベルならバジル・ポーションなどのアイテムでも治るレベルだろう。

 それらを持っていなかったのは冒険者として魔物の討伐に当たる身でありながらあまりにお粗末だと思うのだが、それは言わないでおいた。


「このくらいの状態異常ならアイテムでも治りますけど、アイテムでは治せない状態異常もあります。気を付けて下さい」

「ああ、気を付けるよ。ありがとう。こいつは礼だ」

「いえ、そんな」


 そう言って銀貨数枚を俺に手渡して来る。

 最初は遠慮したが、相手も受け取ってもらいたいという思いを汲んで受け取る事にした。


 そのパーティーが去って行ったのを見送りながら俺は呟く。


「あのパーティーはCランクくらいの依頼を受けて来たのかな……」

「ほう。その推測の根拠は?」


 面白がるようにレオンが問い質して来る。俺は答えた。


「あの程度の毒しか使って来ないような魔物なんてせいぜいCランクかDランクの依頼でしか出てこないよ。俺たちが今日、やったようなAランク以上の依頼はアイテムなんかじゃとても治せないレベルの状態異常ばかりだ」

「なるほど。そこでリックの出番という訳だね」

「それは……まぁ」


 からかわれているようで返答に窮する。


「銀貨数枚とはいえ、この程度、お金を取る程のものでもないんだけどなぁ」


 俺が貰った報酬を見つめているとルリカが声をかけて来た。


「それでも王立病院に治しに行って貰っていては銀貨数枚では済まない所だったはずよ。向こうにとっても得だったんじゃないかしら」

「それもそうなんだけど……」


 病院の類は患者の病状が軽微でも取り立てるお金はべらぼうに高い。

 王立病院に行かせず毒を治癒出来たのは良心の面からも良かった事だと言えた。


 妹を王立病院に入院させ、大枚をそそぎ込んでいる身としては今のように俺の力で妹を治せればと思うが、妹は状態異常でも呪いにでもかかっている訳ではなく、病気だ。


 魔物などは何も関係ない。俺の力ではどうしようもなかった。

 傷や疲労を治す回復魔法でも同様に効果はない。


 なんとか病院に治してもらう事を期待するしかないのだが、今は正直、延命としか表現出来ない状況だ。


「リックお兄ちゃん。どうしたの?」

「え? ああ、いや、なんでもない」


 いけない。妹の事を考えていたら足が止まっていた。

 このパーティーのメンバーに妹の事を打ち明けるのは、まだ早いか。


 重病の妹がいるなどといきなり聞かされても困るだけだろう。


 王都に戻り、ギルド『光輝なる鳳凰』に帰ると依頼完遂の報告をして、成功報酬を受け取る。

 この内、一部をギルドに紹介料として支払い、残りはパーティーの物となる。


 ギルドとパーティーによる依頼者の依頼金の扱いはこのようになっているのである。


「さて、Aランク依頼だったから、それなりの量は貰えたね。みんなで山分けだ」


 レオンはそう言い、金貨の詰まった袋を示す。

 バットデビルという厄介な魔物の大群を討伐したのだから報酬もそれにしかるべきものであった。


「レオン。今、言う事じゃないかもしれないけど、前に話した金貨100枚の件なんだが……」

「ああ、そうだね。丁度いい。この成功報酬丸ごとリックが持って行くといい」

「いいのか!?」


 俺は驚く。

 これはみんなの力で勝ち取ったお金だ。それを俺だけのものにしてしまうというのは……。


「勿論、あげる訳じゃない。後で返してもらうよ。でも、リックには今、必要なんだろ?」

「ありがとう。恩に着る」


 とりあえず受け取る。

 流石に金貨100枚には足りなかったがその分も他のメンバーから借りて、ちょっと行って来る、と言って『光輝なる鳳凰』を出て、もう二度と足を踏み入れる事はないだろうと思っていた『誇り高き獅子』のギルド本部に入る。


 受け付けで受け付け嬢に事情を話し、ラフマニたちに金貨100枚を渡してもらうよう頼む。

 受け付け嬢は了承してくれた。


 ラフマニたちと顔を合わせるのはこちらも向こうも望む所ではなく、俺はさっさと『誇り高き獅子』の本部から出て『光輝なる鳳凰』の本部に戻る。


「早かったわね」


 レミアがそう言って『静謐なる白馬』のパーティールームに戻って来た俺を出迎えた。


「まぁ、そんなに手間取る案件でもないし……」

「これで完全にリックは『光輝なる鳳凰』の一員という訳だ」


 どことなく嬉し気にレオンが言う。

 俺が正式なメンバーになる事に喜んでくれるのなら、それは嬉しい事だった。


(それにしても……)


 あの金貨100枚の送り先、ラフマニ率いる『翡翠の翼』はどうしているだろうか。

 俺という状態異常治癒師を欠いた状態で高ランク依頼に挑戦しているのだろうか。ふと、気になるものだった。


ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。

こちらの小説は長編ですが、序盤の流れだけでも楽しめるように出来ております。

主人公の成り上がり、評価されるのが面白い、主人公たちの愉快で華麗な冒険譚が楽しい、追放側のざまぁが爽快。

そう思われた方は星評価やフォローをしていただけると嬉しいです!



長らく更新を怠ってしまい申し訳ありません。私事が忙しかった事と公募小説の執筆に時間を取られてしまいこちらの方は後回しになってしまいました。 また体調不良もあり、執筆時間が確保できないでいましたが、今はある程度持ち直したのでまた書いていきたいと思います。 以前のように毎日更新は無理かもしれませんが、またぼちぼち再開していきたいと思いますのでお付き合いいただけると幸いです。


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