第6話新パーティーでの初依頼


「貴方が私を助けてくれたのね」


 翌日。呪いに侵されていたが俺の力で解呪に成功した『静謐なる白馬』所属の二刀流女剣士ルリカは目を覚ました。

 そして、レオンから事情を聞くと俺に感謝の念を伝えて来る。


「ありがとうございます。あのままでは私は死んでいる所でした」

「いや、当然の事をしたまでさ」


 ルリカからのお礼の言葉に俺は謙遜する。

 実際、解呪が出来るかはぶっつけ本番気味だったのだが、上手くいって本当に良かった。

 それから互いに自己紹介の挨拶をして、俺はレオンを見る。


「それでレオン。こんな下世話な事、訊くのも何なんだが、俺の給料って……」

「ああ。月に金貨10枚でどうだ? Sランクパーティーに所属しているのならこれくらいが妥当だろう」


 前のパーティー『翡翠の翼』の時と同等の待遇だ。それなら文句は無い。ないのだが。


「すまない。また下世話な話をさせてもらうが、金貨100枚前借り出来ないだろうか?」

「ふむ……」


 レオンが少し目を細める。


「君はそこまでお金に貪欲なタイプには見えないね。何か事情があるのかい?」

「ああ。前のパーティーのリーダーに謝礼金って事で金貨100枚を急ぎで払わないといけないんだ。早く払わないと俺を罪人として訴えるとまで言って来ている」

「何、それ!?」


 憤慨したようにリムルがツインテールの髪を揺らす。

 レオンは難しい顔になった。レミアも眉根を寄せる。


「聞いた話だとリックは一方的に追放されたんでしょう? そんな大金、払う事はないのでは?」


 そして、レミアはそう言う。

 それもそうではあるのだが、前パーティーリーダー・ラフマニを怒らせたらどんな事になるか分からない。

 さっさと遺恨は断ち切っておくに限った。


「この通りだ! 借りたお金は必ず返す!」

「お人よしだなぁ、リックは。まぁ、いいよ。僕の貯金でそのくらいの金はある。それを貸してあげるよ」

「いいの、レオン?」


 レミアがレオンに問い掛ける。

 レミアは、いや、レオンもこの件に納得していないようであったが、レオンはお金を貸してくれるようだ。


「ありがとうレオン! 恩に着る!」

「僕たちの仲間になったリックに変な難癖を付けられても困るしね。気にしなくていいよ。ルリカを助けてもらった恩もあるしね」


 どこまでも好漢なレオンであった。爽やかな笑みを浮かべて、大枚を貸し出す事を了承してくれた。


「さて、それじゃあ、今日は早速、依頼に出発しようと思う。Aランクの依頼だ。だけどその前に……」


 そう言ってレオンは何かを取り出す。

 それは杖だった。それを見た瞬間、俺は固まってしまった。


「あ……」

「店で売られていた中古の杖だ。中古だけど、なかなかの逸品だと思う。これをパーティー参加記念にリックにプレゼントするよ」


 レオンが差し出した杖。それは見覚えのある物だった。

 状態異常治癒の魔力を高めてくれるエメラルドの魔石に杖全体は魔力を高めるハブロバの樹木で出来た杖。

 間違いない、俺の、杖だ。


 ラフマニに取り上げられてしまったはずだが、ラフマニはすぐにそれを売りに出したのだろう。

 それが店先に並んだ所をレオンが見つけ購入したという訳か。


「どうしたんだい? いらないのかい?」

「い、いや! ありがたく受け取っておくよ」


 俺にとってこの杖は思い入れのある物だった。

 流石にパーティーを追い出された時に取り上げられた物だとは言えず、何も言わず受け取る。


「それはあ、話を戻してAランクの依頼だ。場所はこの王都、南方にある洞窟。バットデビルが多数湧き出して困っているとの依頼があった。僕たちはそれを受けるつもりだが、異論は?」


 リムルもレミアもルリカも何も言わない。異論はないようだった。それなら俺にもある訳がない。


「良し。それじゃあ、早速、出発しようか。バットデビルはデバブをかけてくる。その時はリック、君が頼りだ」

「ああ、状態異常の治癒なら任せてくれ」


 自信を持ってそう言う。

 状態異常の治癒にかけてはそれなり以上の自信を持っている。


 そうして、みんなで王都の南門を出て、依頼の場所まで出発する。

 この『静謐なる白馬』のメンバーの戦いぶりを見るのは今回が初めてになるが、下手な戦いはしないだろうという確信があった。


 そうして南の洞窟に辿り着く。

 中は光が届かず真っ暗だったが、リムルが手をかざすとそこに光球が出現し俺たちの頭上に浮かび上がり、付いて来て、俺たちの周りを明るく照らした。

 流石はSランクパーティーと言った所か。そうやって洞窟の中に入る。


「いつバットデビルが出て来てもおかしくない。警戒して」


 そうレオンは言い、腰に挿していた鞘から剣を抜き放つ。

 ルリカも双剣を構えて、この二人の前衛が先行する。


 するとけたたましい羽音が響いた。蝙蝠のような悪魔・バットデビルの群れの襲来だ。


「まずは挨拶代わりだよ!」


 リムルが手をかざし、そこから無数の火炎弾が飛び、バットデビルたちに襲い掛かる。


 凄まじい魔力だ。流石は『静謐なる白馬』の攻撃魔法担当。

 それに何匹かのバットデビルはやられたようだが、まだまだ多くがこちらに飛び掛かって来る。


 レオンとルリカが剣で応戦するが、バットデビルの放った怪しい閃光がレオンに命中する。

 するとそれまで機敏に動いていたレオンの動きは嘘のように鈍重になった。


「く、しまった!」


 バッドステータス『鈍足』を付与するデバブだ。

 俺は慌てて杖をかかげてレオンに向ける。杖に仕込まれたエメラルドの魔石から淡い緑色の閃光が放たれレオンに降り注ぐ。

 すると、レオンの動きが元に戻った。


「すまない、リック」


 レオンは俺の方を一瞬、振り返り、礼の言葉を言うと再びバットデビルとの戦いに戻る。


「それにしてもここまで迅速に全快するとは……」


 驚いたようなレオンの声が聞こえたが、そんなに凄い事だろうか。

 そうしていると今度はバットデビルからの閃光がルリカに命中する。


「う、剣が、重い……」


 すぐに俺は判断する。

 これは『衰弱』のバッドステータスを付与するデバブだ。


 腕の筋力を一時的に低くして剣を振るう力を奪い攻撃力を低下させるのだ。

 俺は再び杖を構え、そこから淡い緑色の光を放ち、ルリカを治癒する。


「ありがとう、リック!」


 ルリカのデバブも治癒したようだ。

 再び双剣を振るい、戦線に戻る。


「これだけのレベルの状態異常治癒、並じゃないわね」


 ルリカもそんな事を言う。

 そこにリムルの唱えた火炎魔法も炸裂する。


 前線で戦うレオンとルリカは状態異常こそなけれど少し体力を消耗し、傷を負っているようだったが、それは回復魔法の使い手のレミアが治癒する。



 それからも前線で戦う二人が状態異常になる度に治癒の魔法を飛ばして状態異常を治癒する。

 不意に後衛のこちら側にバットデビルは閃光を放って来た。


 それを喰らったリムルが魔法を唱えられなくなる。『呪文封じ』の状態異常だ。

 俺はリムルをすぐに治癒したが、気を付けないといけないな、と気を引き締める。


 『呪文封じ』を俺が喰らってしまえばアウトだ。

 俺と言う状態異常治癒要員がその状態異常にかかってしまっては治せる者はいない。


 『呪文封じ』だけは喰らわないように気を付けつつ、そのまま戦いを続ける。

 流石に『静謐の白馬』だけあり、レオン、ルリカの剣術、リムルの攻撃魔法、レミアの回復魔法は超一流で間もなく敵、バットデビルは全滅した。


「みんな、やったな」


 勝利の音頭を取るのはレオンの役目かとも思ったが俺はそう言ってみんなに声をかける。


「ああ。リックにはだいぶ世話になってしまったね」

「助かったわ」


 レオンとルリカが二人して俺に感謝の言葉を言う。

 俺なんて状態異常を治していただけだ。主力として働いたのは他四人であろう。


 ともあれ、俺の『静謐なる白馬』に参加してからの初依頼は大成功。

 俺も役に立つ事が出来たのかな、と思うと悪い気分はしなかった。


ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。

こちらの小説は長編ですが、序盤の流れだけでも楽しめるように出来ております。

主人公の成り上がり、評価されるのが面白い、主人公たちの愉快で華麗な冒険譚が楽しい、追放側のざまぁが爽快。

そう思われた方は星評価やフォローをしていただけると嬉しいです!



長らく更新を怠ってしまい申し訳ありません。私事が忙しかった事と公募小説の執筆に時間を取られてしまいこちらの方は後回しになってしまいました。 また体調不良もあり、執筆時間が確保できないでいましたが、今はある程度持ち直したのでまた書いていきたいと思います。 以前のように毎日更新は無理かもしれませんが、またぼちぼち再開していきたいと思いますのでお付き合いいただけると幸いです。


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