第4話新天地


「君さえよければ我がギルド……『光輝なる鳳凰』に来ないか?」


 レオンの言葉に最初は耳を疑った。

 俺を『光輝なる鳳凰』にスカウトしている? 王都でも『誇り高き獅子』と双璧を成す大手ギルドの『光輝なる鳳凰』に? 『誇り高き獅子』を首になった俺が?

 最初は信じられず冗談を言っているのかと思った。だが、レオンの目は真剣だった。


「俺は『誇り高き獅子』を追放されたような存在だぞ?」

「そんな事は関係ない。君の状態異常治癒の能力、いや、それをも飛び越えて解呪の能力は得難いものだ。さらに良ければ僕たちのパーティー、『静謐なる白馬』に加入して欲しいとも思っている」

「な……」


 流石に驚きを隠せない。

 『静謐なる白馬』といえば別ギルドに所属していた俺でも名前を聞いた事のある、『光輝なる鳳凰』内のパーティーでも一、二を争うSランクパーティーだ。

 そんな所が俺をスカウト? 信じられない。やはり何かの冗談かと思ってしまう。


「我がパーティーには状態異常治癒師はいない。僕は剣士だし、リムルは攻撃魔法の使い手、君が救ってくれたルリカも剣士だ。今はここにいないが、回復魔術の使い手のレミアもいるが、状態異常の治癒師はいなかった。高ランクの依頼となると状態異常をこちらに振りまく敵と戦う機会も多くなる。そんな中で君の力が必要なんだ」


 レオンは嘘も冗談も言っている様子ではなかった。

 Sランクパーティーが俺を必要としてくれている……。


 未だ現実感の湧かない事であるが、チラリとリムルとやらの桃色の髪の少女を見る。

 レオンの言葉に異論はないように頷いていた。


 まさに地獄に仏とはこの事か。Sランクパーティーに所属出来るのならその報酬もそれなりのものになる。

 妹の治療費と入院費も稼ぐ事が出来るし、俺も生活していく事が出来る。


 ラフマニに払わないといけない謝礼金金貨100枚も賄う事が出来るだろう。


 これに頷かない選択肢は俺にはなかった。


「……分かった。俺でよければ」

「大歓迎だ」

「よろしくね、お兄ちゃん」


 そこまで来て自分の名前を名乗っていない事に俺は気付く。遅ればせながら自己紹介をする。


「俺の名前はリック・アバネル。これからよろしく頼む」

「僕の名前はレオン・カーネスだ。さっき言った通り、剣士をやっている」

「わたしの名前はリムル・プリンゼルだよ! 攻撃魔法ならわたしに任せておいて!」

「ああ。しがない状態異常治癒師だが、よろしく頼む」


 再度、挨拶をする。そして、レオンは壁際に背中を預けたままのルリカに視線を向け、彼女の紹介もする。


「彼女はルリカ・ルルメーアだ。『静謐なる白馬』の剣士で二刀流の使い手だ。今回の依頼では油断から呪いを喰らってしまったが、彼女の実力も折り紙付きだ」

「『静謐なる白馬』に所属しているからそうなんだろうな」

「そして、今回は参加しなかったが、回復魔法使いのレミア・カーディガンがいる。それに君、リックを加えて、僕たち『静謐なる白馬』は成り立つ」


 当たり前のようにパーティー内に自分の名前を加えてくれるのが嬉しかった。


 このパーティーに所属すればやり直す事も出来る。

 その確信を抱き、俺は『光輝なる鳳凰』に登録すべく、まだ意識の戻らないルリカをレオンたちと一緒に連れて、『光輝なる鳳凰』のギルド本部の建物に赴く。


 『光輝なる鳳凰』の本部の建物も『誇り高き獅子』に負けず劣らず、立派な建物だった。

 流石は王都で双璧を成すと言われるだけの事はある。


 受け付けで受け付け嬢に何やらを話したレオンはそのまま俺の方に来る。


「とりあえずギルドマスターに挨拶に行ってくれ。レミアには後で紹介する」

「分かった。ギルドマスターの部屋まで案内してくれるか?」

「わたしが案内するよ、リックお兄ちゃん!」


 リムルがその役目を買って出てくれて、リムルの案内の元、建物の廊下を進む。

 そしてギルドマスターの部屋に到着し、リムルと共に入る。


「やあ。君がルリカの呪いを解呪したっていう凄腕の状態異常治癒師か? 話は聞いているよ。私はシスティナ・メルカバー。このギルドの長をやっている」


 『光輝なる鳳凰』のギルドマスターは女性だった。

 やや粗野な雰囲気を漂わせているが、同時に高貴な雰囲気もあり、加えて、ただ者ではない事を察する事くらいは俺にも出来た。

 俺は自分の名を名乗り、挨拶する。


「君みたいな有望な人材を首にするなんて、『誇り高き獅子』も気が迷ったもんだ。高ランクの依頼には状態異常治癒師が必須だって言うのにね」

「『誇り高き獅子』のギルドマスター……ライオ・ヴォーテ様はそうは思っていないようです」

「ライオか。あいつは生まれつき特異体質で状態異常の類を受け付けない体だからな。それだから冒険者としても大成出来た訳だが、それ故に状態異常治癒師の重要性が分からなかったんだろう」


 そんな話は聞いた事がある。

 ライオ・ヴォーテは獅子の肉体と称される体を持ち、状態異常の類を一切受け付けないと。


「……それで俺、本当にこのギルドに所属しても、『静謐なる白馬』のパーティーメンバーになってもいいんでしょうか?」

「何を言っているんだい。お前程の状態異常治癒師はそうそういない。状態異常治癒師は数多くいれど呪いまで解呪出来るのは貴重に過ぎる。レオンたちもいい人材を拾ったものだと思っているよ」

「えへへ……リックお兄ちゃんはルリカの命を助けてくれたからね。わたしたちのパーティーに是非とも入ってもらわないと」


 システィナの言葉にリムルがはにかんだ笑みを浮かべて続ける。


 どうやらここでは俺の状態異常治癒の能力は高く評価されているようだ。

 『誇り高き獅子』とは『翡翠の翼』とは大違いだ。


 そのギャップに若干の戸惑いを覚えつつもどうやら俺はここに再就職出来そうだとの実感が湧いて来る。


「まぁ、これからよろしく頼むよ。『静謐なる白馬』もさらなる躍進が出来そうだ。期待している」

「は、はいっ! 力の限り、尽くさせていただきます!」


 そうして俺はギルドマスターの部屋を後にした。

 リムルの案内で『静謐なる白馬』が使っているというパーティールームに行った俺はまだ見ぬ『静謐なる白馬』、最後のメンバー、回復魔法使いのレミアと対面する事になった。


「へぇ、こいつがルリカの呪いを解いてくれたんだ。なかなか優秀な状態異常治癒師みたいね。私はレミア・カーディガン」


 レミアは赤髪を三つ編みにした少女であった。

 やや高圧的な雰囲気が漂っているが、かつてのパーティーリーダー・ラフマニに比べれば可愛いものだった。


「リック・アバネルだ。よろしく頼む。この『静謐なる白馬』で世話になる事になった。状態異常治癒師と回復魔法使い。お互い治す分野は違うが、同じくパーティーメンバーを癒す役職。仲良くやっていこう」

「ちょっと生意気ね。まぁ、いいけど。よろしく頼むわよ」

「お前も生意気だぞ、レミア」


 レミアが口を尖らせたのを見て、レオンが苦言を呈する。


 確かに気の強そうな娘だが、不快に思う程ではない。

 このパーティーなら上手くやっていけそうだと思う。前のパーティーのように理不尽な扱いをされる事もなさそうだ。


「ところで、あの、ルリカは……?」

「まだ眠っている。とはいえ、君が呪いを解呪してくれたおかげで穏やかな寝息を立てているよ。目を覚ましたら君を紹介する」

「そうか。それなら良かった」


 呪いがぶり返して来た、なんて事がないのなら安心だ。

 解呪は初めての経験だったが、上手くいった事にここに来てようやく確信を持つ事が出来た。


 このギルドも『誇り高き獅子』と同様にSランクパーティーのメンバーには個室が与えられるようだ。


 とりあえずの住み家を確保出来た事に安心して、俺は案内された部屋に行く。

 今日は色々あって疲れていたのだろう。

 夕食を食べる事もなくベッドで横になるとそのまま俺は寝息を立てて、眠りに就いてしまうのだった。


ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。

こちらの小説は長編ですが、序盤の流れだけでも楽しめるように出来ております。

主人公の成り上がり、評価されるのが面白い、主人公たちの愉快で華麗な冒険譚が楽しい、追放側のざまぁが爽快。

そう思われた方は星評価やフォローをしていただけると嬉しいです!



長らく更新を怠ってしまい申し訳ありません。私事が忙しかった事と公募小説の執筆に時間を取られてしまいこちらの方は後回しになってしまいました。 また体調不良もあり、執筆時間が確保できないでいましたが、今はある程度持ち直したのでまた書いていきたいと思います。 以前のように毎日更新は無理かもしれませんが、またぼちぼち再開していきたいと思いますのでお付き合いいただけると幸いです。


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