196 復活の彼

「何かあんまり話せなかった気もするけど、これで良かった?」

「十分だよ。デザートまでおごって貰っちゃって、ご馳走様」

「このくらい気にしないで」


 喫茶『恋歌れんか』で、彰人あきひとと仕事の話をした。

 結局後半はプライベートな内容に移ってしまったが、当初予定していたプリンアラモードも二人で食べることが出来て京子は満足だった。


 まだまだ午後の日差しは強く照っていたが、彼が次の仕事へ行く時間になって店を出る。

 別れの言葉を口にしようとしたところで、京子は「そうだ」と顔を上げた。


「さっき、浩一郎さんの所で記憶戻した話をしたでしょ? それでね、彰人くんの家に行った時の事思い出したんだ。帰り際の事」

「え? ──あぁ」


 彰人は気まずそうに眉をしかめる。


 ──『僕はいつか、京子ちゃんと同じ目で世界を見ることができたらいいなと思ってる』


 同窓会の帰りにその話をされた時はピンと来なかったが、改めてこちらから話題を振ると、彰人は珍しく照れた表情で「そっか」と目を細めた。


「ちょっと恥ずかしいね。思い出さなくても良かったのに」

「いいの。彰人くんでもそんな顔するなんて、見れて得したかも」

揶揄からかわないの」

「そう言う訳じゃないんだけど」


 京子は肩をすくめるように笑って、彼を見上げた。

 綺麗な顔だと思う。まだ地元に居た頃の京子は、ずっと彼に恋をしていた。


「私と彰人くんは、同じ場所に立ってるよ」

「うん、僕もそう思う。これからも宜しくね」


 今は仕事仲間として、幼馴染みの親友として、そんな肩書をいっぱいつけて同じ世界を見ている。

 最高の友人だと思った。



   ☆

 彰人と別れてアルガスへ戻ると、本部にはむせる程に大きな能力の気配が漂っていた。

 学校から戻った綾斗あやとがホールに居るのだろう。バーサーカーだと正体を明かした彼は、九州から戻ってずっとその力を使いこなすための訓練を繰り返していた。

 ただ、全力での使用は体力消費が激しいらしく、終わると暫くホールの真ん中で大の字になって寝ている事が多かった。


 彼に付き合おうと思って荷物を置きにデスクルームへ戻ると、思わぬ人物が京子を迎える。


「お帰り、京子」

「ただいま。来てたんだ──って。え?」


 彼がそこに居る事は何の問題もないし、良くあることだ。どうやらアルガスを出る時に見たヘリの乗客は彼だったらしい。

 ただ、いつもと違うその様子に京子は目を疑って、思わず息を詰まらせた。


「マサさん……何で?」

「復活だ」


 元キーダーの佐藤雅敏まさとしが、京子たちと同じ制服を着て能力の気配をにじませていたのだ。




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