185 お兄ちゃんだった
そこに写る真っ青なビルと同じ色を視界の端に見つけて、京子は頭上を仰いだ。地図の青い建物が目の前にそびえている。
「窓から見たのはコレだと思う。だから、俺が居たのは──」
一本向こうの通りまでは人も多く賑やかだったのに、海側に入り込んだ途端急に辺りが静かになった。
綾斗がくるりと
『貸倉庫』というプレートがはめ込まれているが、黒々と埃がたかっている状態だ。
「ここだよ」
言い切る綾斗の視線を追うと、逆光で陰った倉庫の壁には、白いペンキで消された文字が薄っすらとその
『鮫島倉庫』──その言葉を口にして、京子はぐっと息を呑む。
「サメジマ製薬と関係あるのかな」
「多分ね、そういう事なんだと思う」
サメジマ製薬は、ホルスの幹部だった高橋
ホルスと何らかの関りがあると考えれば、その息の掛かった施設が使われていても不思議じゃない。
人の気配はまるでないが、京子は入口のノブに手を触れて首を横に振った。
「気配を感じるわけないか」
「ここまで時間が経ってると、俺でも分からないよ」
綾斗は京子の横に手を置いて、「帰ろう」と町の方を振り返る。
「俺はここに閉じ込められた事をずっと恥だと思ってた。けど、ここに入ったから得られた物もたくさんあるから後悔はもうないよ。やよいさんと
「綾斗……」
「バーサーカーの自分とも向き合って行かなきゃ」
「うん。私も、出来る事は幾らでもあるよね」
戦いが迫っている。
そんな空気を感じながら、京子は「そうだ!」と声を上げて綾斗の手を握り締めた。
ふと頭を
「ちょっと待って」
少しずつ辺りが暗くなっていく。
彼の言葉が蘇った途端、吐き出さずにはいられなくなった。
京子は綾斗の手を引いて、海が見える場所までの数十メートルを早足で歩く。
──『久のヤロウが良く海に向かって、俺らの悪口叫んでんだよ。丸聞こえだってぇのに独り言だとかぬかしやがって。
色々と裏の顔が潜んでいた佳祐だけれど、京子の記憶には優しい彼しか浮かんでは来ない。
「佳祐さんは私にとって優しいお兄ちゃんだった。たまに会う位だったけど、もう会えないなんて信じたくないよ」
防波堤の端に立って、めいっぱいの声を張り上げた。
「佳祐さんの馬鹿ぁ!!」
込み上げた怒りは涙を
衝動のままに泣き出した京子を、綾斗が胸に抱き締めた。
エピソード4京子【05九州編・後悔】-END
エピソード4京子【06関東編・陰謀】へ続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます