180 律と一緒
「京子さん、
同窓会の帰りに東京駅で感じた強い気配は、やはり
あの時まだ感覚の鈍かった京子が攻撃を警戒した彰人に庇われた──それだけで済む話の筈なのに、悪意のある切り取りをした忍のせいで修司が興奮気味に声を上げる。
「そうじゃないよ。ややこしくしないで!」
「京子さん?」と振り向く
全部、忍のせいだ。
「庇って貰っただけだから……付き合う前だよ?」
正直に話すと、綾斗は「分かってる」と
状況が状況だ。こんな話をしている場合でない事は、みんな分かっている。
こうしている間も、
「面白ぉい」と興味を示す忍から庇うように、京子は修司の前へ入り込む。
「君、
「修司は渡しませんよ」
しなやかに伸ばした忍の手を、綾斗が遮る。
ホルスの幹部である安藤律が近付いたのは、1年前の事だ。
忍は戦う意思などまるで見せずに、横たわる佳祐の横へ腰を落とした。
「佳祐」と舐めつけるように声を掛けて、その襟首を後ろから掴む。
忍は男では小柄な方だ。佳祐とは体格差がだいぶあるが、力はそれなりに備えているらしい。
ぐん、と大きく揺れた佳祐の首がぐったりと持ち上げられて、意識の薄い虚ろな目がぼんやりと宙を漂う。
「やめて! 忍さん!」
京子の声に耳も貸さず、忍は佳祐に顔を寄せた。
「佳祐、俺に色々隠し事してたでしょ。彼がバーサーカーだってのも知ってたんじゃない? 君はこっち側の人間なんだからさ、そういうの困るんだよね」
「グ……」
「けど、今までの事を感謝してるよ。だから最後に教えてあげる」
忍は
「高松の事件、あれはヒデがやったんだ」
「…………」
「いや、やらせたって言った方が正しいな。何でだと思う? お前をこっちに引き入れる為だよ。代わりのバスクを犯人に仕立てて死んで貰ったら、お前はあっさりと信じてくれたんだ」
高松の事件はバスクが起こしたものだと周知されている。
忍の言葉が事実なら、巻き込まれて亡くなった佳祐の妹の仇は松本という事だろうか。
声の出ない佳祐にニッコリと笑顔を見せつけ、忍は地面に打ちつけるように佳祐の襟首を放した。
佳祐は頭を砂まみれにして、声にならない悲鳴を上げる。
「京子がやらないなら、俺がやるよ? 身内の後始末は身内でやらなきゃ。その辺はアルガスと同じ考えだね」
遠くにポツリポツリと人の姿が現れる。まだこちらの様子には気付いていないようだが、これ以上長引かせるわけにはいかない。
戦闘態勢と言わんばかりに気配を高めた綾斗に、忍がにんまりと口角を上げた。
「戦う気? やめてよ、俺はまだ死にたくないんだ。それでも君がやりたいって言うなら、
やよいの遺体があった場所に、空間隔離の跡が残っていたらしい。
広範囲の空間隔離発動は、特殊能力に値する。
「忍さんだったんですか」
「そうだよ、律と一緒だ。どうせ特別な力を持つなら、もっと攻撃力の強い方が良かったんだけどね」
律も、同じ力を使うことが出来た。
綾斗は少しだけ
「それが正しいよ。俺は能力者を無駄に殺めようなんて思ってないんだ。ホルスはね、能力者にとって最高の世界を作るんだよ」
「…………」
勝手な理想を話した忍は、清々とした顔をする。
「じゃあ俺はもう行くけど、京子にはまた会いたいな」
「仲間にはなりませんよ?」
「冷たい事言わないで。佳祐の事はそっちに任せるよ。放っておいても数分の命だろうし、ちゃんと骨にして埋めてあげて。海に捨てるのは可愛そうだからね」
「ひどい……」
佳祐はまだ生きている。話すことも動くこともできないが、会話は耳に届いているかもしれない。
やはり、この間のどざえもんもホルスの仕業だろう。
松本に会った時と同じだ。
一般人の目に触れるこの場所で、彼を追う事なんてできるわけなかった。
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