170 クロの返事
キーダーのプライベートを考え、
一見すると差はないように見えるが、他とは違うコンマ数秒のズレが久志に違和感を覚えさせたのだ。
「誰がシステムを書き換えたのか知らないけど、オリジナルと
銀環と言えば、GPSよりも能力の制御機能が大きな役割を占める。そこには何重にも制限が掛かっていて、簡単に外せるものではない。けれど、GPSをここまで書き換える相手ならと覚悟はしてきたつもりだ。
ポインタが一つだけ光るスマホの画面を見せつけて、久志は真顔で黙る佳祐に口調を強めた。
「ここまで
「…………」
「中身を書き換えた銀環で位置情報を偽造することが出来るなら、佳祐が北陸に行っていないアリバイは幾らでも作れるでしょ?」
銀環のシステムを書き換えられるなんて思いもよらぬ事態だが、それだけで佳祐がクロだという証明になる。佳祐の腕に銀環はあるが、中身はキーダーのそれとは別物だと考えて良いだろう。
久志にとって、佳祐がホルスかどうかは問題じゃない。
やよいを殺したのが佳祐かどうか──それを彼の口から聞きたかった。
佳祐が犯人なら、
長官に真実を伝えれば、すぐに執行命令が下るだろう。ここでそれをきっちり終わらせる事が出来れば、京子たちまで指示が回る事はない。
「先輩ってのは、真っ先に手を汚さなきゃならないからね」
決意表明のように呟いて、久志は押さえつけていた力を緩めた。
アルガス所有の演習場は、一般人が入って来る心配もない。『大晦日の
「ここでやる気か?」
「まだ仲間のフリをするの? 佳祐がやよいを殺したんでしょ?」
「やめろ」
興奮する久志の腕を、佳祐が掴む。怒りと焦りが入り混じった顔だ。
「俺はお前まで手に掛けたくねぇんだよ!」
「やっぱり……そういう事なんだよね? だったら余計に、僕がやらなきゃいけない」
久志の目に溜まった涙がボタリと落ちる。
佳祐が敵かもしれない──マサが力を無くした時の違和感を感じてから、いつかこんな日が来るかもしれないと思っていた。
諦めと絶望にかられる久志の前で、佳祐は呆れたように溜息を零す。
「知らなくて良い事まで知ろうとするな。お前等はどうしてそうやって俺を
「抉ろうなんて思っちゃいないよ。仲間だなんてアオハルな事も言わない。ただ一緒に居る時間が長いと、何気ない事に興味が湧くんだ」
「それが余計なんだよ」
「余計って何だよ! 自分の罪を僕たちのせいにしないでよ! やよいがお前の正体を知ったって言うのか? そんなんで殺す事なんてなかっただろ!!」
まっすぐに目を合わせた佳祐の後悔に叫び付ける。
久志は全身を震わせて、彼の腕を振り切った。
「マサの力が消えた事に、佳祐は関わってるんだろう?」
「そうだ。アイツはアンロックだからな」
「アンロック? って……冗談言うなよ」
「信じろとは言ってねぇよ」
アンロックは特殊能力だ。
第三者が操作した記憶や意識を元に戻すことが出来るというが、実際にそれを持つ人間を見た事はない。
「もし本当なら、アンロックが居て都合が悪いのは、
特殊能力と呼ばれてはいるが、実際それは能力者の個性だ。昔は
佳祐は表情のない顔をして、やがて安堵するように笑った。
「アイツの力を消したのは俺だよ」
「佳祐!」
噛みつくように声を上げる久志に、佳祐は気配を強める。
「お前もやよいもマサも、みんな甘ぇんだよ。俺は最初からお前らの敵だ」
言葉の最後で佳祐の手から光が噴き出る。
気を捕られた一瞬を狙われて、久志の手にしていたスマホがボンと火を噴いて粉砕した。
「無駄だよ、佳祐」
何かあったら連絡するようにと誠から言われている。
通信機でも仕込んでおけば良かったか──来る前にそんな事も考えたが、他に誰か辺りに潜んでいないとも限らない。銀環を操作するような人物が敵側に居れば、
だからこんな事も予測の
「先に決着をつけても構わないよね」
それがキーダー殺しだと言われても良い。
久志は腰から
他のどのキーダーよりも大きな刃は、久志の力量を示す。
「お前は俺に勝てねぇよ」
だが佳祐は失笑して同じ武器を構えた。趙馬刀はキーダーの武器だ。
跳ね上がる気配が混じり合って光を鳴らす。
戦闘はほぼ互角──けれど、数分後先に地面に倒れたのは久志だった。
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