【番外編】24 お泊り会2
「
夕飯の時間になって、
まだ缶ビール一本目だが、既にホロ酔い気味だ。
「そんな事言って。龍之介くんが居るでしょ? ねぇ?」
「は、はい」
突然京子に同意を求められ、龍之介は硬く返事する。横に座る朱羽をそっと振り向いたが、彼女はツンと京子を睨んだまま目を合わせてはくれなかった。
「龍之介くんって
京子はさっきから「美味しい」を連呼してチューハイの缶も二本目に入っていた。
たいして凝ったものを作っている訳ではないが、料理を褒めて貰えるのは素直に嬉しい。
けれど朱羽はニコリとも笑わず、缶を持った手で人差し指を京子に突き付けた。
「龍之介はウチのバイトだもの。高校生なのよ? 京子は
「それは……」
「ほら、何も言えなくなるんだから」
朱羽も京子の真似をするようにグイグイとビールを飲み干し、頬を膨らませた。
「けど年下だって構わないじゃん? 綾斗だって初めて会った時は高校生だったよ?」
「いつの話をしてるのよ。貴女と私は同じ歳なのよ? 貴女たちは三つしか違わないけど、私と龍之介は七つも違うの。龍之介が二十歳になったら、私は27。アラサーよ?」
強めに主張する朱羽の言葉が、龍之介の心を
確かに7と言われると大きな数字だが、相手が朱羽に変わりはない。逆に彼女にとっての壁はそこだけなのだろうか。
こんな時、自分の前にある飲み物がコーラだという事にモヤモヤしてしまう。彼女たちと一緒に飲むには、あと二年も必要だ。
「そういう所なのかな」──龍之介は音にならない声で寂しさを
「7つかぁ。けど、朱羽はずっとマサさんが好きだったでしょ? マサさんとだって6つ違うんだから変わんないよ。女の方が長生きするって言うし?」
「だったら京子はどうなのよ、七つ下!!」
「えぇ?」と言った顔のまま、京子の視線が龍之介に向く。ウィンナーを刺したフォークを握り締めたまま数秒無言になった彼女は、アルコールで顔が真っ赤だ。
「ほら、京子だって考えちゃうじゃない」
「あっけど、この間
「京子さん、それ全然俺のフォローになってませんよ?」
「いや、そこは好みの問題だし」
銀次は龍之介の同級生だ。
あんなナンパ野郎の銀次がアリで、自分はナシということなのだろうか。
涙目の龍之介に止めを刺すように、朱羽も「あぁ」と
乾杯と共に開けた酒のロング缶が二人ともいつの間にか三本目に入っていて、本人が居るのもお構いなしで言いたいことを言いまくっている。
そんな時、テーブルに乗せていた京子のスマホが震えた。
画面を見てパッと広がった笑顔で、相手が誰かはすぐ分かった。
「私、綾斗の事迎えに行ってくるね。お酒切れそうだから、買い物もしてくるから」
彼の仕事がようやく終わったらしい。
立ち上がった京子の身体がフラフラとして、龍之介が慌てて手を伸ばした。けれどそれは「大丈夫」とかわされてしまう。
「このくらい平気。何なら遠回りして帰ってこようか?」
悪だくみする目つきで、京子が口元に手を当てて笑う。けれど朱羽が「余計なことしないで」とバッサリ断った。
京子は「じゃあ行ってくるね」とワンピースに薄手のカーディガンを羽織って出て行く。
そんな彼女とは対照的に、朱羽は再び難しい顔をしたまま赤い顔で唇をぎゅっと結んでいた。
彼女の頭の中身がサッパリ読めない。折角二人きりになれたのに、ラッキースケベどころか何もしていないのに空気が悪い。
レースのカーテンの向こうには夜の明かりが光っている。
気まずい空気にコーラを流して、龍之介は「朱羽さん?」と彼女を横から伺った。
「怒ってます?」
「怒ってないわよ」
そうは見えないけれど、ご機嫌が斜めな事に変わりない。アルコールのせいもある気がする。
「朱羽さん、その不機嫌の理由は俺のせいだって言いましたよね。あれってどういう意味ですか? 俺は歳なんて全然気にしてませんよ?」
「何でそうなるのよ。私は龍之介のこと好きだって言ってるわけじゃないでしょ?」
ダメージ100の言葉を
朱羽は眉尻をぐっと落としたまま黙ってしまう。
「朱羽さん……?」
「龍之介が気にしなくたって、私が気にするの。何で龍之介は高校生なのよ」
「それって脈アリってことですか?」
「違います!」
「高校生と付き合うなんて考えられないのよ。それに龍之介最近あんまり寝てないでしょ。受験勉強は大事だけど身体壊したら困るし、何ならバイトの時間減らしてもって……」
「俺は大丈夫です!」
「駄目よ。大学に行くために勉強してるんでしょ? それは最優先してくれなきゃ」
自分なりに両立はさせているつもりだ。第一志望はあるけれど、心のどこかでランクを落としてもいいと考えてしまっているのを読まれているのだろうか。
「それは──」
「まずは大学生になって。そしたら、少しは考えてあげるから」
「本当ですか!!」
耳を疑って衝動的に立ち上がると、朱羽が「ダメよ!」と声を上げた。
勢いのまま伸ばした手は、あえなく彼女の能力で阻まれてしまったのだ。
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