135 似ている気がした

 アルガスに来てからというもの、修司しゅうじは目に見えるスピードで成長している。

 ホルスの安藤りつと接触していた彰人あきひとが偶然彼を見つけて「凄い子が居たよ」と言ってから、まだ1年しか経っていない。既に美弦みつるとは互角で、京子にとっても頼れる後輩だ。


「威勢がいいな、オニイサン」


 対峙たいじする京子との間に修司が入り込んで、バスクだろう謎のサングラス男は呆気あっけなく光を静めた。ひるんだ訳ではなさそうだが、戦う意思もあまりないように見える。


「投降する気になった?」

「捕まる気はねぇよ。こんな所で戦えるかっていう話だ」


 男はれた声で、再びクツクツと笑いだす。

 けれど彼の言葉とは裏腹に、放出する気配は増している気がした。こちらの出方によって、攻撃の準備はできているという事なのだろう。


 一歩一歩足を踏み鳴らして、男は修司との距離を詰めた。耳障りな足音は脅しではなく、不安定に身体を支える音だ。

 ウェーブの掛かった長髪を揺らしながらのっそりと歩く様は泥酔状態にも似ているが、酒の匂いはしなかった。


 構えた趙馬刀ちょうばとうの先端に触れるか触れないかの位置で男は立ち止まり、修司を足元から舐めつけるように見上げていく。


「若い奴の勢いってのには惚れ惚れするねぇ」

 

 夕日に反射するサングラスの向こうに男の目元が一瞬光って、京子は眉をひそめた。似た男を知っていたからだ。けれど、こんな所で偶然会うような相手じゃない。

 ただ、外見で予測できる世代を考えると、どうしても思ったままの相手を想像してしまう。


「京子さん、この人は何なんですか?」

「分からないよ。けど、キーダーじゃない事だけはハッキリしてる」

「つまり確保すべき相手って事ですよね」

「そういう事。いつも庇ってくれてありがとね、後は私がやるから背中に回ってもらっていい?」


 横浜で戦った時も、ここぞという時に彼は京子を守ってくれた。


「俺だって戦えますよ?」

「分かってるよ。けどやっぱりここじゃ戦えないから、彼の言葉を信じよう」


 京子はそんな修司の前に入り込んで自分の刃を突き付ける。顔色一つ変えない男を睨みつけて、距離を数歩分確保した。


 戦闘など回避できるのであればそうしたい。

 京子は拘束用の銀環ぎんかんを握り締めたまま、趙馬刀ちょうばとうの光を消して腰へ戻した。「修司も」と促すと、彼は「良いんですか?」と渋々従う。


 ただ相手の気配が強いうちは気を緩めることはできなかった。


「オニイサンはまだ若いのに、ちゃんと力を使う事ができる。有望だな。アルガスはキーダーにとって居心地がいいか?」

「アンタには関係ない話だ。大人しく京子さんに捕まれよ」

「それは断る」


 今日能力者の死体が上がった事と、彼に会った事が偶然だとは思えない。

 実力行使すべきだと分かっているけれど、彼がもしも京子の思った相手──バーサーカーの松本秀信ひでしなならば、勝算が見込めない気がした。




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