103 バーサーカーだった男
『有給休暇の消化』という名目で通常勤務を離れ、
本部の地下牢は幾つかのエリアに分かれていて、大舎卿はその一番底へ下りる。
扉を立ち塞ぐ
「お久しぶりです。今日はどうされました?」
男は慌ててポケットから取り出した電子メモを確認するが、その予定は確認できなかった。
「急ですまんな。上の許可は取ってある」
「分かりました」
護兵は腕時計を
大舎卿は胸に提げた許可証を
「生きておるか?」
1つだけ明かりの漏れた鉄格子を覗くと、細長い六畳ほどの部屋の奥で
アルガスに収監中の罪人の中で、最も刑期が長いのが三年前アルガス本部に襲撃を仕掛けた元キーダーでバスクの遠山浩一郎だ。
あれから会うのは今日で二度目だが、相変わらず時間の経過など感じさせない態度で「待ってたよ」と笑顔を見せる。
髪は少し伸びているが、声も意識もハッキリとしていた。ブンと鳴る蛍光灯の明かりの下に立つ浩一郎はやつれた様子もなく、むしろ肌艶が前より良くなった気がして、大舎卿は
「優雅な生活をしているようじゃの」
「そんなことないよ。暇が辛いんだ」
「ほぉ」
「昔の癖だよね、訓練なんて嫌だったのに体に染みついてる。じっとしてなんかいられないから、一人で勝手に動いてるよ」
囚人服という特別なものはなく、浩一郎は灰色のТシャツにスウェットパンツというラフな格好をしている。相当動いているのか、上腕筋が前よりも増しているように見えた。
「それで、何か用があるから来たんだろ? もう俺はこんな身だから、
「あぁそうして貰うつもりだ。お前、松本が今どうしているか知らんか?」
「松本? あぁヒデか、あのお調子者ね。解放の時以来会ってないから、知らないよ?」
元キーダーの松本
「松本は解放時に留まったが、数年後にアルガスを出とる。損得しか考えていないような男が外で何をしているのかと思ってな」
「今更そんなこと聞くなんて、上で何かあったな」
ほくそ笑む浩一郎に、大舎卿は「色々な」で済ます。この部屋には監視カメラも多く、なるべく細かい話はしたくなかった。
トールになった松本が外で何をしようと勝手だが、最近のホルスの動向や今回のやよいの件で、ふと胸騒ぎを覚えたのだ。
「アルガスに居ると、外が良く見えぬ事も多い。お前ならと思ったんじゃがの」
「頼りにして貰えるなんて嬉しいね。情報提供してやれないのは心苦しいよ。ただ客観的に言わせてもらえば、トールのヒデに価値はないけど、もし俺みたいに何らかの事情で今も能力が使えるとしたら、あの力を欲しいって奴は幾らでもいるだろうって事だね」
「……あの力か」
一度だけ目にした事のあるその光を
「そういえば勘ちゃん、メガネの少年は元気かい?」
「何だ、綾斗の事を言っておるのか?」
「あぁそう、そんな名前だったね。彼、あれから大分強くなったんじゃない?」
「──何が言いたい?」
意味深な言い回しに大舎卿は苛立つ。
浩一郎は「気付いてないの?」とにんまり笑んで、嬉しそうにその事実を突き付けたのだ。
「彼はヒデと同じバーサーカーだよ」
「まさか」
大舎卿は耳を疑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます