19 アイドル好きの真相
「いや。事故で死んじまったんだよ。だから今は俺一人なんだ」
軽率だった。
すっかり暗くなった風景のせいで、
「ごめんなさい、私……」
「気にすんな。昔の事だよ」
佳祐は優しい人だ。
けれど、どこか陰があると思っていたのも事実だ。
「聞かれたくなきゃ話さねぇだろ? 俺がお前に話したかったんだよ」
申し訳ない気分になって黙り込む京子に、佳祐は「しゃあねぇな」と溜息をつく。
「お前等、俺がアイドル好きだって噂してたろ」
「そ、それは……」
急にそんな話をする佳祐に驚いて、京子は目を見開いた。
『ジャスティのライブで起きたホルスとの戦闘に佳祐が応援に来たのは、彼が彼女たちのファンだから』──そんな噂が流れてきたのは、横浜での戦いが起きた翌日だった。
確かに話はしたけれど、真相は掴めないままだ。
「すみません……つい盛り上がっちゃって」
「妹が死んだのは、俺が中学の時だ。アイドルになりたいって言ってたから、あぁいうの見ると重ねちまうんだよ」
「そうだったんですか……」
会話を繋げることができず、京子は背の高い彼を見上げる。
佳祐と知り合ってから話をする機会がたくさんあったわけではないが、彼の事を何も知らなかった。
「そんな顔すんなよ。こんなトコまで付き合わせて悪かったな」
「いえ。一緒に来れて良かったです」
「そうか。俺も今日ここに来れて良かった。ありがとよ」
にっこりと笑う佳祐に、京子は無言で首を振る。
「じゃあ、風邪ひく前に飯食いに行こうぜ。洒落た店じゃなくていいからな? お前の馴染みの店に連れて行けよ」
「馴染み……?」
佳祐に誘われて朝から色々とプランを立てていたはずなのに、すっかり頭から飛んでしまった。
馴染みの店と言えばいつも
「お前だけ飲んでも構わねぇぞ」
そんな言葉に甘えてもいいのだろうか。けれど他に店が浮かばない。
「じゃあ、本当にいつもの店行っちゃいますよ?」
「おぅ、任せるぜ」
遠慮しつつも行き先が決まって、戻りの電車に乗ろうと駅へ向かう。
「
「……いってません」
正直に答えると、佳祐は「そうか」と呟いて少しだけ黙った。
佳祐はサードだと言われている。そして桃也が仕事で良く行くという九州支部のキーダーだ。
「佳祐さんから見て、桃也ってどんな人ですか?」
「そうだな……女のお前とは見方も違うんだろうが、馬鹿が付くぐれぇ真面目な奴だ。怖ぇ顔して訓練してるぜ」
それは京子の知らない桃也の顔なのかもしれない。
「必死なんだよ。引きずってんだ、アイツは」
「大晦日の白雪の事……?」
「あぁ。周りが何と言おうと、自分が納得できるようにってずっと訓練してる。アイツは凄ぇ男になるだろうよ」
「私もそれは思います。なって欲しい」
佳祐はきっと、京子が長官に言われた話を知っているのだろう。
「アイツに会いてぇのか?」
京子はこくりと頷く。
「そうか。お前たちの事は俺がどうしろって言える立場じゃあねぇが、ただ──アイツをキーダーのままで居させてやってくれないか」
浅く頭を下げるように、佳祐が「頼む」と目を伏せた。
「勿論です。昔、桃也は自分にしかできない仕事をしたいって言ってたんです。彼は今ちゃんと進むべき道を歩いてると思うから」
京子は自分がアルガスを離れる想像はしたが、逆はなかった。桃也から銀環を奪おうとは思わない。
電車が発車して間もない駅は、来た時よりも閑散としていた。
電灯の下に来ると気持ち少し落ち着いてきて、京子は皮のジャケットを佳祐に戻す。海風が遠退いて、寒さが和らいだ。
「まだいいんだぜ?」
「もう大丈夫です。ありがとうございました」
「そうか? ならお前が酔っぱらう前に言っとく」
彼にとっての自分は、そんなに酔っ払いのイメージがあるのだろうか。
ジャケットを羽織った佳祐は、急に改まって京子と向き合った。彼の暗い瞳に自分の顔が映り込んで、京子は息を呑む。
「佳祐さん……?」
「いいか、お前はキーダーだ。目の前に敵が居たら
前に、
その後、いつもの店で佳祐と食事をした。
福岡でのことや仕事の事、楽しい話をしたはずなのに、あまり心には残っていない。
何杯かお酒も飲んだけれど、重ねた寂しさに胸がいっぱいになって、京子は全然酔うことができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます