61 技術部の凄さ
能力に関して知識のある人間なら、『
けれど、現実は想像と大分違っている。
桃也がファイルの先頭を広げた。
記入日はやたら新しく、ほんの一年半前だ。記入者は同じく
七年前の大晦日の夜に桃也が帰宅すると、家の様子がおかしかったという。
雪に付いた足跡が玄関まで一方通行だったこと。
「京子はあの日の風景を灰色に例えるんだ。けど、俺にとっちゃ赤いんだよな……あの夜は」
修司は彼の言うその風景を想像して、声を失った。
『大晦日の白雪』の犠牲者四人のうち三人は桃也の家族で、もう一人はそこで出くわした
中学生の桃也が目にした風景は、血だまりの
強盗犯の死因は唯一の『
バスクの感情が乱れた時、力は暴走する──つまり、桃也が『
「ごめんなさい。もう、いいです」
震える手を押さえつけて、修司は椅子を引いた。
そんな真実、想像もしなかった。
「そんなの、桃也さんのこと誰も責められないじゃないですか!」
ぐしゃぐしゃに濡れた視界の奥で、桃也が「ありがとな」と微笑む。
「でも、それで
「この記録を書いた人ですね」
「あぁ。俺をバスクだと理解した上で、それを
「バスクを伏せて、って。五年の間、
『大晦日の白雪』を起こす程のバスクが、アルガスに近い場所でノーマルを装い続けることができるとは思えない。
桃也は修司のそんな疑問にシャツの袖を
「世間一般で言う銀環はコレだけど、別にこの形である必要はないんだってよ。俺はマサに言われて、指輪をしてた。銀環みたいに結ばなくても、ある程度抑えられるってな」
つまり手首に巻かなくとも、キーダーが直接関わらなくとも、銀環と同じ機能を持ったものを身に着けるだけでそれなりの効果が出るということだ。
「桃也さんは銀環の代わりにその指輪を付けていたから、バレなかったってことですか?」
「あぁ。ここの技術部が作るモノは、ある意味キーダーの力より凄ぇからな。京子にバレなかったのはそれだけの理由じゃねぇけど、一緒に住んでたのに一年以上隠し通せたのには俺も驚いてる」
「ですよね。そんな至近距離で……」
「だろ?」
アルガスの技術部については、
「『大晦日の白雪』を起こした俺がキーダーになるなんて無理だろうって思ってたけど、どんだけ考えても諦められなかった。五年掛けてキーダーになって全部打ち明けた時、京子には泣かれたよ」
「恋人同士だったんですよね、その時も」
「アイツには色々迷惑かけたけど、この道を選んだことに後悔はしてねぇよ。俺は自分の力で犯した罪を、自分の力で償っていこうと思う。だからお前も悩むだけ悩めばいいから、選択ミスだけはするなよ?」
桃也は「フォローはしてやる」と胸を張って、「これが大晦日の白雪の真実だ」と締めた。
その内容を冷静に受け止めることはできなかったが、修司は鼻をズズズとすすり、「ありがとうございました」とがっくり頭を下げた。
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